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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
219/235

アウレリア。貴方に問います

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



その後、スカーレットと勇者一行は、街の教会へと戻った。


スカーレットは礼拝堂の奥にある後陣へ一行を案内する。そこは簡素な部屋だった。来客用と思われる椅子が何脚かと、小さなテーブルが置かれているだけだ。


「何もありませんが、椅子を使ってください」


スカーレットはそう告げると、部屋の隅にあるポットへ手をかざした。


魔力を注ぎ、湯を沸かす。


慣れた手つきでお茶の準備を進める彼女を見て、レオニスはしばらく迷ったあと、声をかけた。


「あの、大丈夫なんですか?」


「何でしょうか?」


「あの……身体は大丈夫なんですか?」


「身体?」


スカーレットは不思議そうに首を傾げ、自分の身体を見下ろした。


今の彼女は、戦闘時のヴァーミリオンの騎士ではない。黒を基調とした修道服をまとった、いつもの修道女の姿に戻っている。


「特におかしなことはありませんが?」


「いえ、そうではなくて……!」


「ぎゃあっ!?」


説明を続けようとしたレオニスが、突然悲鳴を上げた。


隣にいたイシュリアンが、彼の腕を思いきり抓っていたのだ。


「……女性の身体を、ジロジロ見るものではないかと」


イシュリアンは、じっとりとした目でレオニスを見つめる。


「うん。あたしも、そういうのはちょっと引くわ」


アウレリアも、やや白い目を向けていた。


グラーディスはというと、男として気持ちが分からないでもないが、節度は守るべきだと言いたげな表情である。


フィデリアまで、事情はよく分からないものの、悪いことをしたのであれば謝るべきではないか、と言わんばかりにレオニスを見ていた。


「誤解です!そういうのではありません!」


四方から向けられる視線に、レオニスは慌てて否定した。


「アウレリアの攻撃を受けたのに、スカーレットさんが平気なのか、確認したかっただけです!」


決闘の最中、スカーレットはアウレリアの攻撃を受けて倒れた。


それでも、今は何事もなかったかのように動いている。


勝負が決したことは理解していた。だが、あれほどの攻撃を受けた身体が、ここまで早く回復するものなのか。


レオニスが気にしていたのは、その異常な回復力だった。


「あ……」


ようやく言いたいことを理解したイシュリアンは、彼の腕から手を離した。


「そういうことは、早く言った方が良いです」


「あ、はい。何か、すいません……」


なぜ自分が謝っているのだろう。


レオニスはそんな疑問を抱いたが、抓られる前に説明するべきだったのは確かだ。結局、余計なことは口にしなかった。


「そういうことなら、ご心配していただく必要はありません」


スカーレットは、納得したように頷いた。


「私の身体は特別製なので」


そう言って、彼女は勇者一行に穏やかな笑みを向けた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「貴方達は、ヴァーミリオンの騎士についてご存じのようで」


スカーレットは、茶器を置くと勇者一行を見回した。


「我々が知っているのは、ここにいない方から聞いた話です。詳しいことまでは存じません」


代表してグラーディスが答える。


彼らが知っているのは、麗王レイラから聞いた歴史的な背景だけだった。


魔王国を維持するために生まれ、憎しみの矛先となることを求められた存在。


ヴァーミリオンの騎士が、どのような力を持ち、どのような仕組みで戦うのか。そこまでは聞かされていない。


「そうですか。では、もしかしたら貴方達と共闘する可能性もありますので、先に教えておきます」


スカーレットは、そこで一度言葉を切った。


「私は、貴方達とは決定的に異なる存在です」


「どういうこと?」


アウレリアが首を傾げた。


言葉の意味が理解できない。そんな表情だった。


「こういうことです」


次の瞬間、スカーレットの全身が炎に包まれた。


「また変身するの?」


「いえ。理解しやすいように、通常外装を取り除くだけです」


あまりにも平然とした返答だった。


炎の中で、修道女の衣服が燃え落ちていく。


その向こう側に、細い身体の輪郭が浮かび上がった。


レオニスの胸に、言いようのない不安がよぎる。


(……なんだか、嫌な予感がする)


理由はわからない。


けれど、この先を見てはいけない。そんな直感が、彼に警告していた。


「駄目です」


不意に、背後から声がした。


直後、イシュリアンの両手がレオニスの目を覆った。


「レオニス、しっかり目を瞑っていてください」


普段の彼女からは想像できない、焦りを含んだ声だった。


「えっ、リアン? いったい何が――」


問いかけようとしたレオニスの言葉が止まる。


背中に伝わる人の気配。


視界を塞ぐ手のひんやりとした感触。


そして、後ろから抱きつかれたような距離の近さ。


レオニスは、何を考えればいいのかわからなくなった。


一方、何かを察したグラーディスは、静かに回れ右をしていた。


やがて炎が収まる。


そこに立っていたのは、先ほどまでの修道女とは明らかに異なる姿だった。


少女のような輪郭は変わらない。


だが、その身体を形作っていたのは、生身の肉体ではなかった。


白く滑らかな外装の下に覗く、精巧な機械構造。


関節を繋ぐ部品。人間の骨格を思わせながらも、明らかに異質な造り。


そこには、人の身体にあるはずの生々しさがなかった。


それでも、スカーレットはまっすぐに立っていた。


まるで、それが当たり前であるかのように。


「スカーレットさん、貴方は……」


ようやく目を開いたイシュリアンが、その姿を見て息を呑んだ。


驚愕を隠せない彼女の表情を、スカーレットは気に留めない。


ただ、アウレリアだけを見据えていた。


「アウレリア。貴方に問います」


青い瞳に迷いはない。


「あなたは、これでも私を助けたいと考えるのですか?」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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