アウレリア。貴方に問います
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、スカーレットと勇者一行は、街の教会へと戻った。
スカーレットは礼拝堂の奥にある後陣へ一行を案内する。そこは簡素な部屋だった。来客用と思われる椅子が何脚かと、小さなテーブルが置かれているだけだ。
「何もありませんが、椅子を使ってください」
スカーレットはそう告げると、部屋の隅にあるポットへ手をかざした。
魔力を注ぎ、湯を沸かす。
慣れた手つきでお茶の準備を進める彼女を見て、レオニスはしばらく迷ったあと、声をかけた。
「あの、大丈夫なんですか?」
「何でしょうか?」
「あの……身体は大丈夫なんですか?」
「身体?」
スカーレットは不思議そうに首を傾げ、自分の身体を見下ろした。
今の彼女は、戦闘時のヴァーミリオンの騎士ではない。黒を基調とした修道服をまとった、いつもの修道女の姿に戻っている。
「特におかしなことはありませんが?」
「いえ、そうではなくて……!」
「ぎゃあっ!?」
説明を続けようとしたレオニスが、突然悲鳴を上げた。
隣にいたイシュリアンが、彼の腕を思いきり抓っていたのだ。
「……女性の身体を、ジロジロ見るものではないかと」
イシュリアンは、じっとりとした目でレオニスを見つめる。
「うん。あたしも、そういうのはちょっと引くわ」
アウレリアも、やや白い目を向けていた。
グラーディスはというと、男として気持ちが分からないでもないが、節度は守るべきだと言いたげな表情である。
フィデリアまで、事情はよく分からないものの、悪いことをしたのであれば謝るべきではないか、と言わんばかりにレオニスを見ていた。
「誤解です!そういうのではありません!」
四方から向けられる視線に、レオニスは慌てて否定した。
「アウレリアの攻撃を受けたのに、スカーレットさんが平気なのか、確認したかっただけです!」
決闘の最中、スカーレットはアウレリアの攻撃を受けて倒れた。
それでも、今は何事もなかったかのように動いている。
勝負が決したことは理解していた。だが、あれほどの攻撃を受けた身体が、ここまで早く回復するものなのか。
レオニスが気にしていたのは、その異常な回復力だった。
「あ……」
ようやく言いたいことを理解したイシュリアンは、彼の腕から手を離した。
「そういうことは、早く言った方が良いです」
「あ、はい。何か、すいません……」
なぜ自分が謝っているのだろう。
レオニスはそんな疑問を抱いたが、抓られる前に説明するべきだったのは確かだ。結局、余計なことは口にしなかった。
「そういうことなら、ご心配していただく必要はありません」
スカーレットは、納得したように頷いた。
「私の身体は特別製なので」
そう言って、彼女は勇者一行に穏やかな笑みを向けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「貴方達は、ヴァーミリオンの騎士についてご存じのようで」
スカーレットは、茶器を置くと勇者一行を見回した。
「我々が知っているのは、ここにいない方から聞いた話です。詳しいことまでは存じません」
代表してグラーディスが答える。
彼らが知っているのは、麗王レイラから聞いた歴史的な背景だけだった。
魔王国を維持するために生まれ、憎しみの矛先となることを求められた存在。
ヴァーミリオンの騎士が、どのような力を持ち、どのような仕組みで戦うのか。そこまでは聞かされていない。
「そうですか。では、もしかしたら貴方達と共闘する可能性もありますので、先に教えておきます」
スカーレットは、そこで一度言葉を切った。
「私は、貴方達とは決定的に異なる存在です」
「どういうこと?」
アウレリアが首を傾げた。
言葉の意味が理解できない。そんな表情だった。
「こういうことです」
次の瞬間、スカーレットの全身が炎に包まれた。
「また変身するの?」
「いえ。理解しやすいように、通常外装を取り除くだけです」
あまりにも平然とした返答だった。
炎の中で、修道女の衣服が燃え落ちていく。
その向こう側に、細い身体の輪郭が浮かび上がった。
レオニスの胸に、言いようのない不安がよぎる。
(……なんだか、嫌な予感がする)
理由はわからない。
けれど、この先を見てはいけない。そんな直感が、彼に警告していた。
「駄目です」
不意に、背後から声がした。
直後、イシュリアンの両手がレオニスの目を覆った。
「レオニス、しっかり目を瞑っていてください」
普段の彼女からは想像できない、焦りを含んだ声だった。
「えっ、リアン? いったい何が――」
問いかけようとしたレオニスの言葉が止まる。
背中に伝わる人の気配。
視界を塞ぐ手のひんやりとした感触。
そして、後ろから抱きつかれたような距離の近さ。
レオニスは、何を考えればいいのかわからなくなった。
一方、何かを察したグラーディスは、静かに回れ右をしていた。
やがて炎が収まる。
そこに立っていたのは、先ほどまでの修道女とは明らかに異なる姿だった。
少女のような輪郭は変わらない。
だが、その身体を形作っていたのは、生身の肉体ではなかった。
白く滑らかな外装の下に覗く、精巧な機械構造。
関節を繋ぐ部品。人間の骨格を思わせながらも、明らかに異質な造り。
そこには、人の身体にあるはずの生々しさがなかった。
それでも、スカーレットはまっすぐに立っていた。
まるで、それが当たり前であるかのように。
「スカーレットさん、貴方は……」
ようやく目を開いたイシュリアンが、その姿を見て息を呑んだ。
驚愕を隠せない彼女の表情を、スカーレットは気に留めない。
ただ、アウレリアだけを見据えていた。
「アウレリア。貴方に問います」
青い瞳に迷いはない。
「あなたは、これでも私を助けたいと考えるのですか?」
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