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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
217/235

私は勝利を求めます!

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



スカーレットは、しばし沈黙していた。


大剣を握る両腕に、いっそう力がこもる。


「あなたの主張は、一考の価値はあります。ですが――今、この場では無価値とします」


青い瞳が、アウレリアを真っ向から捉えた。


「戦うからには、ヴァーミリオンの騎士は、いえ、私は勝利を求めます!」


その声には、迷いがなかった。


アウレリアは一瞬だけ目を細め、すぐに笑った。


「いいね。スカーレットがそう言うなら、受け入れる!」


左手に聖剣を構える。


剣先が、相手へと向けられた。


もう言葉を交わす必要はない。


互いの間に満ちていた緊張が、目に見えない圧力となって膨れ上がる。


「アウレリアの分が悪いな」


グラーディスが、静かに呟いた。


彼には分かっていた。


二人とも、次の攻防で決着をつけるつもりなのだ。


純粋な戦力で比べれば、スカーレットが上回る。


対して、精神の押し合いではアウレリアに分があった。


スカーレットは彼女の言葉に揺さぶられ、己の在り方を問われていた。


だからこそ、スカーレットは一度、心の中の雑念を断ち切ったのだろう。


今はただ、勝つことだけに集中する。


それは、戦場を知る者の判断だった。


勝負の分かれ目を見誤らず、己の優位を手放さない。


戦場の天秤は、大きくスカーレットへと傾いていた。


アウレリアに手を貸すことはできない。


これは二人が自ら選んだ決闘だ。


ここまで来れば、勇者一行にできることは、結末を見届けることだけだった。


「受けられますか! 私の攻撃を!」


スカーレットが踏み込んだ。


地を蹴り、間合いを一気に詰める。


アウレリアもまた、迎え撃つために前へ出た。


その動きを見たスカーレットは、さらに踏み込む。


大剣が唸った。


速い。


アウレリアは聖剣を掲げ、刃を受け止める。


だが、攻撃は止まらない。


次は鋭く。


刃の軌道が変わり、防御の隙間を狙って迫る。


さらに重く。


受け止めるたびに、腕へと衝撃が突き抜けた。


速さも、鋭さも、重さも。


一撃ごとに異なる圧力が、アウレリアへと襲いかかる。


まさに一気呵成(いっきかせい)。


息をつく間すら与えない連撃だった。


アウレリアは防御することしかできない。


「これが――」


スカーレットの魔力が燃え上がった。


炎のように揺らめく力は、なおも膨れ上がり、彼女の全身を包み込んでいく。


「ヴァーミリオンの騎士である私です!」


宣言とともに、大剣が振り下ろされた。


重い一撃。


受け止めた聖剣が、アウレリアの手から弾き飛ばされた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



聖剣が、アウレリアの手を離れた。


宙を舞う黒銀の剣。


その行方を、ほぼ全員が目で追っていた。


スカーレットは確信した。


勝った。


剣士にとって、武器を失うことは致命的だ。まして、あの一撃を受けた直後である。


勝負は決したも同然だった。


グラーディスも、イシュリアンも、レオニスも、目の前の光景に驚愕していた。


――アウレリアが負けた。


誰もがそう思った、その瞬間。


「……全霊解放……」


小さな声が、スカーレットの耳に届いた。


アウレリアは、動揺していなかった。


聖剣を失ったことに、焦りも、恐怖も見せていない。


そもそも、これは相手を殺すための戦いではない。


勝利するために必要なのは、相手を斬り伏せることだけではなかった。


スカーレットは知らない。


聖剣を手放した程度で、アウレリアの意志が揺らぐはずもないことを。


そして、彼女が何を狙っていたのかも。


聖剣に凝縮していた力。


それを、一時的に解放する。


ただし、向ける先は剣ではない。


自分自身の肉体だ。


スカーレットの意識が、宙を舞う聖剣に向いていた。


剣を失った剣士が、次に取るべき行動。


彼女が身につけてきた戦いの常識は、アウレリアの選択を想定していなかった。


その一瞬が、決定的な隙となる。


「スカーレット……耐えきれ……!」


アウレリアが踏み込んだ。


次の瞬間。


圧縮された力を解き放つ拳が、スカーレットの腹部に突き刺さった。


「――ッ!」


華奢な身体が、くの字に折れる。


魔力による防御が、衝撃を受け止めきれない。


スカーレットの瞳が見開かれた。


何が起きたのか。


理解するよりも早く、彼女は反撃しようと大剣を動かす。


だが、遅い。


アウレリアの身体は、すでに次の動作へ移っていた。


振り上げられた脚が、スカーレットの顎を撃ち抜く。


視界が弾けた。


青い空が、目の前いっぱいに広がる。


アウレリアの姿が見えない。


自分が何をされたのかさえ、分からなかった。


(なぜ……私は、どうなった……?)


手足が思うように動かない。


背中に、強い衝撃が走った。


地面に倒れたのだと気づいたとき、スカーレットの眼前には一人の少女が立っていた。


アウレリア。


その手には、先ほど弾き飛ばされたはずの聖剣が握られている。


切っ先が、静かにスカーレットへ向けられていた。


「これで勝負あり」


アウレリアは、にっと笑った。


スカーレットは何か言いたげに彼女を見上げた。


まるで、あんなのは卑怯です、とでも訴えるような表情だった。


けれど、やがて。


スカーレットはゆっくりと目を閉じた。


「……どうやら、私は負けを認めないといけないようです」


その言葉をもって、アウレリアとスカーレットの決闘は幕を下ろした。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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