↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
214/235

貴方は強い

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



街を出て、しばらく進んだ先。


そこには、見渡す限りの原野が広がっていた。


戦いを妨げるような障害物はない。街からも十分に離れている。


スカーレットは足を止めると、振り返った。


「……ここまで離れればよいでしょう」


「なかなか、いい場所だと思うよ」


アウレリアも周囲を見回し、満足そうに頷く。


二人は向かい合った。


それぞれの手が、剣の柄へと伸びる。


――その時だった。


「二人とも、待ちなさい」


静かな声が、決闘を遮った。


声の主はフィデリアだった。


(……珍しいな)


レオニスは、思わず彼女に目を向けた。


フィデリアは、基本的にアウレリアの行動を止めない。


以前も、アウレリアから自分の意見を求められた際には、彼女の心のままに進むよう答えていた。


―― アウレリアの御心のままに


そのフィデリアが、自ら二人を止めたのだ。


フィデリアは、まずアウレリアを見た。


「ですが、まだお互いに決着の方法を決めていません」


「うん?」


アウレリアが首を傾げる。


フィデリアは、落ち着いた声で続けた。


「アウレリア。貴方は、旅の終わりに私自身の言葉を聞く義務があります」


「うっ!?」


アウレリアの顔が、わずかに引きつった。


以前、自分から口にした約束だ。


フィデリア自身の言葉を聞きたい。


彼女の本心を知りたい。


その願いを、フィデリアは忘れていなかった。


そして今度は、スカーレットへと視線を移す。


「スカーレットさんは、この街を守るために戦う立場なのでしょう」


「そうですが」


スカーレットは、戸惑いながらも頷いた。


「ならば、戦えど、命のやり取りをしてはなりません」


フィデリアの声に、揺らぎはなかった。


「この戦いの意味がなくなります」


アウレリアとスカーレットは、互いに顔を見合わせた。


フィデリアの言葉は、決闘そのものを否定するものではない。


ただ、戦う理由を見失うような結末だけは認めない。


「故に、決着は降参を受け入れる形とします。負けたと思った方は敗北を認め、戦いを終えなさい」


フィデリアは、二人を順番に見た。


まるで、これでよいですね、と確かめるように。


「もちろん、異議なし!」


アウレリアは、迷わず答えた。


「そちらが同意するなら、受け入れない道理はありません」


スカーレットも静かに頷く。


二人は改めて向かい合い、互いの意思を確かめるように頷き合った。


これで決闘の条件は整った。


(……フィデリア様)


レオニスは、彼女の姿を見つめていた。


穏やかな声。


人の命を奪わせまいとする言葉。


その姿は、彼が知るフィデリアそのものだった。


それでも、脳裏には消えない記憶がある。


原初の勇者レオンハルトの記憶の中で見た、もう一人の勇者セシル。


そして、彼の消滅に関わったと思われる謎の少女。


あの少女と、フィデリア。


重なるものがあるからこそ、レオニスは疑問を抱かずにはいられなかった。


(……あなたが、勇者セシルを消したあの少女と同じようなことはしないと、私に信じさせてもらえますか)


それは、問いかけであり、祈りでもあった。


レオニスは、胸の内で静かに呟いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



アウレリアとスカーレットの決闘が始まった。


開幕と同時に、二人の剣が正面から激突する。


轟音が大地を震わせた。


聖剣と、スカーレットが振るう巨大な大剣。


互いの刃が火花を散らし、弾かれた剣が再び交差する。


「これは……正直、驚いたな」


グラーディスは思わず目を見開いた。


アウレリアが手にするのは聖剣だ。


その刃を並の剣で受け止めることは難しい。


まともに打ち合えば、武器のほうが耐えきれず、容易く両断されてしまう。


それほどの力を秘めた聖剣に、スカーレットの大剣は食らいついていた。


互角と断言するには、まだ早い。


しかし、少なくとも一合で決着がつくような相手ではない。


「まるで、舞い踊るようだな」


グラーディスは、アウレリアの動きを目で追った。


彼女の剣には、決まった型というものがない。


踏み込む足の角度。


剣を振り抜く軌道。


攻撃から次の攻撃へと移る、わずかな重心の変化。


そのすべてが、まるで最初から決められていたかのように繋がっていく。


だが、実際には違う。


生まれ持った才能と感覚を、その場その場で最大限に活かしているのだ。


戦いそのものを好まない少女が、これほど自由自在に剣を操る。


(当然、贔屓目なのだが……見惚れるよ)


グラーディスは小さく息を吐いた。


しかし、見惚れてばかりもいられない。


対するスカーレットもまた、驚くべき剣士だった。


アウレリアの変幻自在な剣に対し、彼女は正統な型を崩さない。


足運びに無駄はなく、大剣の重ささえも巧みに利用している。


何千回、何万回と繰り返した鍛錬。


その積み重ねによって、相手の動きに対する最適な対応が、考えるより先に身体から繰り出される。


大剣の間合いを維持し、相手が踏み込む場所を限定する。


力任せに振り回すのではない。刃の届く距離そのものを支配していた。


(アウレリアの予想通り……いや、想像以上に強い)


スカーレットは、アウレリアに主導権を渡さない。


だが、アウレリアもまた、相手の思い通りにはならなかった。


互いに譲らぬ攻防。


そして、アウレリアが動いた。


身体の内に秘めた力を解放し、聖剣を振るう。


「聖剣乱舞!」


無数の斬撃が、四方八方からスカーレットへと襲いかかった。


速さと手数に特化した連続攻撃。


軌道は定まらず、一撃を防いでも、次の刃が間髪入れずに迫る。


普通ならば、すべてを受け切ることなどできない。


攻撃を避けるか、距離を取るか。


少なくとも、まともに受け続けるのは悪手だった。


しかし、スカーレットは退かなかった。


その全身を、紅蓮の炎が包み込む。


ギィンッ!


聖剣が、見えない壁に弾かれた。


炎はただ燃え盛っているのではない。


確かな実体を持つかのように、アウレリアの斬撃を阻んでいた。


スカーレットは大剣を構え直す。


「貴方は強い。ですので、私も本当の力を解放します」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。