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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
213/235

うん、よくわかった

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「うん、よくわかった」


アウレリアが頷いた。


その言葉に、勇者一行の全員が彼女を見る。


誰もが、アウレリアがスカーレットの覚悟を理解し、受け入れたのだと思った。


「わかっていただけましたか。よかったです」


スカーレットは安堵したように、深く一礼する。


「これからの貴方たちの進む道が、明るく照らされ――」


「ちょい待ち」


修道女らしい穏やかな言葉を、アウレリアが遮った。


「……あたしが、よくわかったのはね」


腕を組み、少しだけ首を傾げる。


「よくわからないのが、よくわかったってこと」


「……は?」


スカーレットの動きが止まった。


「あなた、私の話を聞いていましたか?」


「聞いてた」


アウレリアは即答する。


「それで、あたしにはわかったの」


真顔で言い切った。


「スカーレットさんに、何て言えばいいのか。あたしには、わからない」


「…………」


勇者一行も、スカーレットも黙り込む。


レオニスも思わず眉を寄せた。


(何を言っているんだ、アウレリアは……)


だが、当の本人はいたって真剣だった。


「でもね」


アウレリアは、にっと笑った。


「ここが魔王国でよかった」


「……?」


「だって、シンプルな答えがあるから」


その顔には、名案を思いついた者の自信があった。


「スカーレットさん!」


アウレリアが、彼女を指差す。


「あたしは、スカーレットさんに決闘を申し込む!」


「な、何を言っているのですか、貴方は!」


さすがのスカーレットも、動揺を隠せない。


「魔王国の流儀に従って、戦いを挑むのよ」


「正気ですか!?」


「大真面目」


アウレリアは胸を張った。


「あたしは勝つ。そして、スカーレットさんに言うことを聞かせる」


「…………」


誰も、こんな答えを予想していなかった。


レオニスは額に手を当てる。


(……何だ、これ)


勇者と冥王。


そんな単純な構図ではない。


これは、アウレリアとスカーレット。


二人の価値観をぶつけるための、決闘だった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「決闘」


その言葉を聞いたスカーレットは、しばし呆然とした。


やがて、小さく息を吐く。


「受けません」


「どうして?負けるのが怖いの?」


「そういうわけではありません!」


スカーレットは珍しく声を荒らげた。


「あなたと戦う理由がありません!」


「それは、あたしが今作ったから、理由はある」


「…………」


話が通じない。


スカーレットは、そう判断した。


これ以上、自分だけで説得するのは無理だ。


助けを求めるように、彼女は勇者一行へ視線を向ける。


だが。


誰も、その視線を受け止めなかった。


グラーディスは静かに目を逸らす。


イシュリアンは下を向いている。


フィデリアは困ったように微笑んでいる。


そしてレオニスも――。


「……」


そっと視線を横へ逃がした。


味方はいない。


スカーレットは悟った。


「言っておきますが……」


諦めたように、スカーレットはアウレリアへ向き直る。


「私は、あなたが思っている以上に強いです」


どうやら方針を変えたらしい。


戦う理由がないなら、戦わなくても済むほどの力を見せればいい。


スカーレットは教会の修繕用に置かれていた自然石へ手を伸ばした。


片手で、それを拾い上げる。


「……証明します」


ぎゅっ。


小さな手が、石を握り込んだ。


次の瞬間。


――パキィッ。


自然石は、まるで脆い焼き菓子のように砕け散った。


「……」


レオニスの目が丸くなる。


(げっ!?)


小柄で華奢な修道女。


そんな印象からは想像もつかない光景だった。


スカーレットは砕けた石を手から落とす。


「……私の身体は特別製です」


その表情には、これで十分だろうという確信があった。


(たしかに……)


レオニスは思う。


(彼女なりの力業だとしたら、常人ならこれで黙る……)


だが。


すぐに、その考えを改めた。


(でも、駄目だろうね……)


「大丈夫」


案の定だった。


アウレリアは、まるで気にしていない。


「そのくらい出来そうな人と、あたしは結構戦ってるから」


「……な!?」


スカーレットの口から、思わず声が漏れた。


「アウレリアに、そのような力の誇示は通じないよ」


グラーディスが、淡々と言った。


そしてスカーレットが先ほど拾ったものと同じ自然石を手に取る。


「代金は、後で寄付という形で支払います」


言うが早いか。


グラーディスの手の中で、石が砕けた。


「この程度が出来る私に、アウレリアは、かつて勝っているんだからね」


そう言って、グラーディスは笑う。


まるで。


――時間の無駄だよ。


そう言っているかのように。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(珍しいな、グラーディス様が……)


レオニスは、アウレリアの隣に立つグラーディスを見つめた。


グラーディスは、本来ならば自分の力を無駄に誇示するような人物ではない。


第三王子という立場。


そして、常人の十倍にも及ぶ特別な身体能力。


それらを持ちながら、必要以上に力を振るうことを避けている。


(いや……違うのか)


レオニスは、心の中で首を横に振った。


(アウレリアのためだから……力を使うことに、躊躇がないんだ)


かつてグラーディスは、レオニスに語ったことがある。


アウレリアを愛している、と。


王族としての立場も。


利害も。


そんなものを抜きにした、純粋な想いだと。


そして今。


その視線の先にいるアウレリアは――。


おそらく、そんなことには気づいていない。


レオニスがその続きを考えようとした時だった。


「……ふう」


スカーレットが、小さく溜息をついた。


「確かに、これ以上は……文字通りの無駄なのですね」


その視線が、アウレリアへ向けられる。


「私が言ったことです。貴方との決闘を受け入れます」


ついに。


スカーレットが折れた。


アウレリアの言葉を受け入れたのだ。


「ただし、戦うからには加減はできませんよ」


「了!」


アウレリアは、即答した。


その返事に迷いはない。


「では、参りましょう」


スカーレットが立ち上がる。


そして。


その瞳が変わった。


レオニスにも、それがはっきりと分かった。


先ほどまでの、穏やかな修道女の目ではない。


静かで。


鋭い。


これから本気で戦う者の目だった。


「本気で戦うため、街の外に出ます」


スカーレットは深々と頭を下げる。


それから、落ち着いた足取りで教会の扉へ向かった。


扉が開く。


外から、街の空気が流れ込んできた。


アウレリアは、その場で大きく伸びをする。


「……強いね、彼女。ものすごく」


「それでも戦いたいんだろ?」


グラーディスが声をかける。


「……ま、そうね」


アウレリアは笑った。


「実際に戦わないと、わかんないんだろうけど」


そして。


迷いのない歩調で、スカーレットの後を追う。


レオニスから見たアウレリアは、いつも通りだった。


無茶をしているようにも。


恐れているようにも見えない。


ただ、自分で決めた道を進んでいる。


(……アウレリア)


レオニスは、その後ろ姿を見送った。


アウレリアとスカーレット。


勇者と冥王。


そんな肩書きだけではない。


互いを知るために。


二人は、刃を交えることになる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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