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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
212/235

スカーレットの戦いの意味

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「そんじゃ、次、行こうか」


アウレリアが椅子から立ち上がった。


「次?」


「うん。次はスカーレットさん」


レオニスが聞き返すと、アウレリアは迷いなく答えた。


「スカーレットさんの意思を確認する」


その表情に、先ほどまでの迷いはなかった。


「彼女が、私たちの協力を不要だって言ったら、迷わず巡礼の地に向かう」


そして、仲間たちを見回す。


「それでいいわね、皆!」


異論はなかった。


「じゃあ、出発っと」


アウレリアが食堂を出ていく。


フィデリアとグラーディスも、その後に続いた。


レオニスも立ち上がろうとした、その時だった。


くいっ。


袖を軽く引かれる。


「イシュリアン様? 何か?」


「約束していた護符が出来ましたので。渡します」


イシュリアンは、一本の短剣を差し出した。


「あ、出来たんですか。ありがとうございます」


以前、レイラの力に影響を受けたレオニスを心配したイシュリアンが、対魔力用の護符を作ると言っていたものだ。


「はい。必要だと思いましたので、急いで作りました。いざとなれば、武器にもなります」


レオニスが鞘から少しだけ刃を覗かせる。


護符というには、あまりにも立派な短剣だった。


「私の持っている、こちらと対になっています」


イシュリアンが、自分の短剣を見せる。


二本は、ほとんど同じ形をしていた。


「?」


レオニスの動きが止まる。


――これって、イシュリアン様とお揃いの品を持つってこと……?


そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎった。


「私から、こちらへ力を供給することも可能です」


イシュリアンは淡々と説明する。


「日々これを交換して、私が力を蓄積し続け、強化していきます。そうすれば、より強力な力でレオニスを守れます」


――毎日、イシュリアン様が肌身離さず持っているものと交換する……。


なんだか。


「…………」


レオニスは、隣のイシュリアンを見る。


だが彼女の瞳に浮かんでいたのは、魔法道具の性能を説明する者の真剣な眼差しだけだった。


――そうだよな。


――そんなわけないよな……。


レオニスは余計な考えを振り払った。


「ありがとうございます、イシュリアン様。大切にします」


「はい。ですが、私もアウレリアのように、不満を言わせてください」


「な、なんでしょうか?」


「私たちは仲間です」


イシュリアンは、静かに言った。


「なので、もう敬称はやめましょう。それに私は、名前で呼んでいます」


「わ、私は皆さんの従者なので……」


レオニスは、そう口にしてしまった。


自分はアウレリアやグラーディスのように、選ばれた人間ではない。


その思いが、言葉の奥に滲んでいた。


「そんなことはありません、レオニス」


イシュリアンは、それを否定する。


「あなたは、この一行にいなければいけません」


「……」


「自信を持っていいのです、レオニス」


穏やかな言葉だった。


けれど、その言葉には迷いがなかった。


「……はい。イシュ――」


「リアン呼びで」


レオニスの言葉を、イシュリアンが遮った。


「……はい」


レオニスは、少しだけ照れながら笑った。


「リアン。これからもお願いします」


「……はい、レオニス」


イシュリアンも、小さく笑う。


「これからも、お願いします」


二人は顔を見合わせる。


そして、アウレリアたちの後を追うため、並んで食堂を出た。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「……私が望めば、一緒に戦うと、そうおっしゃるのですか? あなた方は」


スカーレットの第一声は、それだった。


戸惑いが、その声に滲んでいる。


だが。


彼女は、ゆっくりと首を横に振った。


「……それが本当であれば、心強いことです。ですが、止めた方が良いでしょう」


「何故?」


アウレリアが、すぐに問い返す。


レオニスも同じ疑問を抱いた。


スカーレットは、街の人々を救いたいのだろう。


そうでなければ、あの場で死王レヴェナントと戦う理由がない。


それなのに、なぜ仲間が増えることを拒むのか。


「貴方たちは、ヒト族という異邦人ですから、理解できないでしょう」


スカーレットは静かに語り始めた。


「ここは、魔王国です」


その言葉には、長い年月を生きてきた者だけが持つような重みがあった。


「その場にいて、一番の強さを示した者。勝者に従う。それが道理です」


スカーレットの青い瞳が、アウレリアを見る。


「そして、戦う人数は少なければ、少ないほど良い」


「……」


「それだけ、敗者の数が少なくて済むのですから」


レオニスは息を呑んだ。


――既に、負けを覚悟している。


そうとしか思えなかった。


だが、アウレリアは違った。


「じゃあ、逃げるの?」


「いえ」


スカーレットは即座に否定した。


「私は、戦います」


「だったら――」


「戦わずして敗北するということも、魔王国は良しとしません」


静かな声だった。


けれど、そこには確かな意志があった。


「正面から戦う」


スカーレットは、大剣を握る手に力を込める。


「そして、強者に抗うことを証明する」


その言葉は、街に暮らす人々へ向けられたものでもあった。


「私たちは敗北した。ですが、それは今の結果として受け入れただけです」


スカーレットは、勇者たちを一人ずつ見た。


「お前が従う価値もないものであれば、我々は牙を剥く」


敗北したから終わり。


強者に負けたから、全てを諦める。


スカーレットが語っているのは、そんな思想ではなかった。


「私が戦うことで、敗者を敗者としない」


その言葉だけは、迷いがなかった。


「私は、それを目指します」


そして。


スカーレットの口元が、ほんの少しだけ緩む。


「それで、私は満足なのです」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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