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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
210/235

アウレリアの決断

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「……しかし、グラディ。レオニスの言葉が真実なら、王国としては冥王との因縁を無視できません」


イシュリアンが、静かに口を開いた。


「……冥王との因縁を終わらせることは、“勇者の儀”そのものにとって、一つの終着点であるとも言えるでしょう」


レオニスも、その点は気になっていた。


レオンハルトが戦った冥王。


あれは、酷いという言葉だけでは足りない。


筆舌に尽くしがたいほどの存在だった。


あのようなものを野放しにすれば、再び多くの犠牲が生まれる。


それは容易に想像できた。


「私は、避けるべきではない戦いであると考えます」


イシュリアンは、グラーディスを見つめる。


「それについては、私も異論があるわけではないよ、リアン」


グラーディスは小さく息を吐いた。


「しかし、リアン。レオニスの言うとおりであれば、簡単に倒せる相手ではないことも確かだ」


「……はい」


レオニスも、その言葉には同意する。


冥王は、レオンハルトに言い残していた。


――何度でも蘇る、と。


それは、ただの虚勢ではなかったのかもしれない。


「おそらく、勇者の儀を受けた勇者の何人かは、冥王と交戦しているのだろう」


グラーディスが続ける。


「そして、今の世界が正しく続いているのであれば……彼らは、冥王を完全には打倒できなかったことになる」


それは、否定できない現実だった。


現在も冥王という存在が語り継がれている。


ならば、冥王は消えていない。


「アウレリアと私たちは、歴代の勇者たちに劣るとは思わない」


グラーディスの声は静かだった。


「しかし、ただ倒すだけでは、真の勝利にはならない」


イシュリアンとレオニスが、彼を見る。


「私は、冥王とは……そういう敵だと理解している」


グラーディスは二人を交互に見た。


「少なくとも、冥王の正体、所在、そして倒し方。それが分かるまでは、こちらから仕掛けるべきではない」


一度、言葉を切る。


「私は、ゼルハインを失った時のような真似をしたくない」


その声には、僅かな痛みが滲んでいた。


「勇者一行が、これ以上欠けることは許されない」


グラーディスは、組んでいた指をゆっくりと組み直す。


「冥王と、どのように構えるかは……明日、アウレリアとフィデリアに確認してから決定しよう」


そして、二人を真っ直ぐに見据えた。


「どのみち、私たちの行動指針は、彼女たちを抜きにして決められない」


それ以上、三人は言葉を重ねなかった。


冥王と戦うのか。


それとも、別の道を選ぶのか。


その判断は――勇者と姫巫女に委ねられることとなった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「冥王を、どうするか?」


朝食を終えた後。


意見を求められたアウレリアは、仲間たちの顔を順番に見た。


「困ったな。どうしようか」


レオニスから見ても、アウレリアは本当に困っているようだった。


彼女は、戦いを好む人間ではない。


天性とも呼べる力を持っていても、それを理由に振り回すことはない。


自分が強いから。


勇者だから。


そんな理由で、剣を抜くこともない。


「その冥王ってのが、悪い奴かもしれないとしても……あたしに、それを判断するのは難しいな」


アウレリアは、少し考えながら言葉を続けた。


「あいつは性根の悪い奴から生まれた。だからって、何かをする前から罰するっていうのは……あたしは好きになれない考えね」


スプーンを口に運ぶ。


少し行儀の悪い食べ方だった。


「作物を荒らす害獣とか、害虫を駆除するのとは……流石に違うような感覚かな」


冥王。


その名前だけで、倒すべき敵だと決める。


アウレリアには、それができなかった。


「でも、スカーレットさんや街の人たちに危害を加えた死王とかいうのは、それだけ見れば正直、腹が立つ」


声に、僅かな怒気が混じる。


「なんで、そんなことをするのか」


スプーンが止まった。


「そんなことに、意味があるのか」


アウレリアは眉を寄せる。


「そういうところがね」


それから、スプーンを皿へ戻した。


「だけど……あたしが自分の意思だけで、自由にしていいことでもないと思ってる」


その言葉には、迷いがあった。


だが、逃げているわけではない。


アウレリアは一度、目を閉じた。


「もし、この街の人たちが……スカーレットさんが、街の人たちを死王たちから守りたいっていうのなら」


ゆっくりと目を開く。


「あたしは、助けてあげたいと思う」


その答えは、単純だった。


冥王だから戦うのではない。


勇者だから戦うのでもない。


目の前にいる人間が、助けを求めている。


それならば、剣を抜く。


ただ、それだけだった。


アウレリアは、そこでフィデリアを見る。


「そういうことなんだけど……どうかな?」


問われたフィデリアは、すぐには答えなかった。


静かな沈黙が、食卓に落ちる。


レオニスは息を呑んだ。


――どう答えるんだ、フィデリア様。


フィデリアは、ただアウレリアを見つめていた。


真っ直ぐに。


まるで、その言葉の奥にあるものまで見定めようとするかのように。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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