死王ノクスは、肩をすくめるように呟いた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――残念。出てこなかったみたいだ」
暗がりの中。
死王ノクスは、肩をすくめるように呟いた。
「流石に、誘うなら、あからさますぎましたか……」
仮面の奥から、軽い笑い声が漏れる。
「ボクは、意外にいけるんじゃないかと期待したんだけどねぇ」
ノクスは、どこか遠くへ視線を向けた。
そこにいるはずの相手を思い浮かべる。
「――わざわざ、冥王様にすら出向いてもらったのに」
そして、隣に立つレヴェナントへ目を向ける。
「当てを外されるとはね」
レヴェナントの漆黒の甲冑には、傷一つ残っていなかった。
スカーレットから受けたはずのダメージすら、いつの間にか消えている。
「レヴェナントは、ボクより期待していたのに。残念だったね」
「…………」
「なあに、落ち込む必要はないよ」
ノクスは笑う。
そして、軽くレヴェナントの肩を叩いた。
「我々には、機会はいくらでもある」
「…………」
「必ず現れる」
その言葉だけは、妙に確信に満ちていた。
ノクスは仮面の奥で、愉快そうに笑う。
「我々が望まなくても、あいつらが勝手に定めているのだからね」
「…………」
「何?いつ現れるかって?」
ノクスは、わざとらしく首を傾げた。
「それは、アレの動向次第だろう」
笑い声が止まった。
空気が変わる。
「……死王カオス」
「…………」
「……奴が綿密に罠を仕掛けている」
レヴェナントは何も答えない。
ただ、静かに佇んでいる。
「我々は、その筋書きの舞台を演じればいい」
ノクスは再び笑った。
まるで、すでに結末を知っているかのように。
「今度こそ決着をつける――王国の勇者」
仮面に刻まれた笑顔が、闇の中で歪んで見えた。
「すべては、冥王様のために」
「……楽しみだねぇ」
死王は、未来を思い描く。
そして。
その愉悦だけが、暗闇の中にいつまでも響いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――先ほどの助力、ありがとうございました」
スカーレットが、イシュリアンへ改めて頭を下げた。
「犠牲がなくてよかったです」
「はい」
イシュリアンも短く頷く。
だが、スカーレットの表情には、まだ困惑が残っていた。
「しかし……あいつらは一体……。なぜ、この街を……」
スカーレット自身にも、理解できていない。
その様子を見て、レオニスは問い直した。
「知らないんですか?」
「はい。まったく」
スカーレットは首を横に振る。
迷いもない。
先ほどまで戦っていた死王たちについて、本当に何も知らないようだった。
その表情に、嘘偽りが混じっているようには見えない。
「レオニス、リアン!」
そこへ、アウレリアが駆けてきた。
少し遅れて、グラーディスとフィデリアも姿を見せる。
「アウレリア!」
「何か、すごい火柱が見えたけど、戦闘?」
「うん、まあね」
アウレリアは周囲を見回す。
「大丈夫?二人とも怪我は?」
「ないよ。スカーレットさんが戦ったからね」
「そうなんだ」
アウレリアはスカーレットへ向き直った。
そして、素直に頭を下げる。
「ありがとう。あたしの仲間を救ってくれて」
「いえ、こちらこそです」
スカーレットも頭を下げた。
「助力していただいたおかげで、街の人に被害が出ませんでした」
「そっか」
アウレリアは笑った。
その姿を、レオニスは黙って見つめる。
(――勇者と冥王……やっぱり、そんなわけない)
少なくとも、目の前の二人が敵同士には見えない。
スカーレットはアウレリアに感謝し、アウレリアもスカーレットへ感謝している。
そこにあるのは、敵意ではなかった。
だが。
(――しかし、あの声と死王ノクスは、確実にスカーレットさんへ何かしてきている)
それだけは間違いない。
スカーレットにとって、良くないことだ。
そして――。
レオニスは、アウレリアたちへ視線を向けた。
(……たぶん、勇者たちにとっても)
理由は分からない。
確証もない。
それでも、胸の奥に引っかかるものがあった。
これまで見てきたもの。
原初の勇者。
冥王。
そして、勇者の儀。
どれもが、今の出来事と無関係とは思えなかった。
レオニスは、一度だけ息を整える。
「グラーディス様、イシュリアン様」
二人が振り向く。
「折り入って、お話があります」
静かな声だった。
だが、その言葉には決意があった。
レオニスは決めた。
自分が見たものを、二人に話す。
原初の勇者と冥王の戦い。
そこで知った、勇者の儀の一端。
そして――。
自分たちが今、何に巻き込まれているのかを。
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