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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
205/235

どうかしましたか

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



しばらく考えたあと、アウレリアは結論を出した。


「今日のところは、まだ日は高いから自由行動にして、明日巡礼の地に出発する」


それが、アウレリアの出した指針だった。


「フィデリアも観光に行きたいでしょ? もちろん、あたしが行きたい」


「……自由行動か」


レオニスは小さく呟いた。


いかにもアウレリアらしい決定だった。


まだ見たことのない景色を見る。


知らない街を歩く。


せっかくここまで来たのだから、少しくらい観光したい。


それは彼女にとって、我儘というより自然なことなのだろう。


勇者一行も、そんな彼女の決定に異論はなかった。


「それであれば、私は別行動をします」


そう言ったのはレイラだった。


「一緒に観光しないの?」


「はい。ロウガとも連絡をとりたいので」


「そっか」


アウレリアが頷く。


するとグラーディスが続いた。


「私はアウレリアたちと行くよ」


「わかった。じゃあ観光に――」


アウレリアが歩き出そうとした、その時だった。


「申し訳ありませんが、私はレオニスと冥王の調査を行いたいです」


イシュリアンが静かに告げた。


「え?」


アウレリアが振り返る。


イシュリアンの紫の瞳は、まっすぐレオニスへ向けられていた。


そこには、言葉にしなくても分かる意思があった。


――調べてみたいのでしょう?


そう問われているようだった。


「うん。そうしたい」


レオニスも頷く。


スカーレットと冥王。


その二つが、どうしても頭から離れなかった。


「皆で行きたいのにな」


アウレリアが、少しだけ不満そうに頬を膨らませる。


「ごめんね、アウレリア」


「ま、仕方ないわね」


渋々ながらも、アウレリアは納得した。


「では、これを」


イシュリアンが懐から魔法道具を取り出し、アウレリアへ渡す。


「これがあれば、お互いの位置が分かるので、集合しやすいかと」


「あ、そんなのあるんだ。便利だね」


「それでは、時間もありませんので」


「え?」


次の瞬間。


イシュリアンはレオニスの腕を取った。


「ちょ、えっと?」


「行きますよ」


そのまま、さっさと歩き出してしまう。


「え、あの……!」


レオニスは戸惑いながらも、彼女に引かれていった。


あとに残されたアウレリアは、しばらく二人の背中を見つめていた。


「…………」


その隣で、グラーディスもまた二人を見送る。


(……なるほど)


グラーディスは静かに目を細めた。


本人に、その自覚があるのかは分からない。


だが。


イシュリアンの行動力には、妙に作為的なものすら感じられた。


(無意識なのだろうが……これはこれで、なかなか面白いな)


グラーディスは、そんなことを考えながら、遠ざかっていく二人の姿を眺めていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



――何だろう。


レオニスは、妙な感覚を覚えていた。


改めて今の状況を考えてみる。


隣にはイシュリアンがいる。


しかも、妙に距離が近い。


二人だけで、街を歩いている。


「どうかしましたか、レオニス?」


イシュリアンが、不思議そうにレオニスを見上げた。


「……っ」


レオニスの胸が跳ねる。


――うわ!?


声には出さなかった。


だが、心の中では盛大な叫び声を上げていた。


レオニスは下級とはいえ、貴族の生まれだ。


王国の社交界にも出ている。


貴族令嬢と会話をした経験も、それなりにある。


縁談の話だって、なかったわけではない。


もっとも、士爵家という家柄ゆえに持ち込まれる話は、家名を残すためのものという意味合いが強かった。


当時のレオニスも、有力な貴族と縁を結ぶことは必要なのだろう。


そんな程度に考えていた。


それに、女性との距離感そのものに慣れていないわけではない。


以前、宿代を節約するため、アウレリアがレオニスの屋敷に滞在していた時期もあった。


最初こそ、姫騎士を思わせる可憐な少女が屋敷に来たことで、使用人たちは大いに浮き立ったものだ。


「アウレリアさんを手放してはいけません」


「そうです。今度こそ真剣に考えましょう」


だが――。


アウレリアの本性。


そして、裏表のないエキセントリックな行動力。


それを知った後も、使用人たちからの人気が落ちることはなかった。


むしろ、以前より気に入られていたほどだ。


詰め寄ってくる使用人たちに、レオニスは苦笑するしかなかった。


だからこそ。


女性と話すこと自体は、決して初めてではない。


なのに。


今は妙に緊張していた。


その理由は――。


「……」


レオニスは、隣を歩くイシュリアンを見る。


今はいつもの魔導士服だ。


それでも、改めて見ると――。


綺麗な人だった。


もしドレスを着て、化粧をしたなら。


どれほど印象が変わるのだろう。


社交界で華と呼ばれている令嬢たちにも、決して引けを取らない。


そんなことを考えてしまっていた。


「どうしました?」


「いや……とても綺麗だと――」


「……」


言ってから、レオニスは固まった。


「……!?」


しまった。


口に出してしまった。


慌てて自分の口を手で塞ぐ。


しかし、もう遅い。


「それは、私のことでしょうか?」


イシュリアンは、真面目な顔で尋ねてきた。


「えっと……はい」


失態だった。


だが、嘘でもなかった。


だからこそ、レオニスは小さく頷いた。


「そうですか」


イシュリアンは少しだけ目を細める。


「褒められると、嬉しいものですね」


そう言って。


彼女は、小さく笑った。


「……」


レオニスは言葉を失った。


それは、あまりにも不意打ちだった。


思わず目を逸らしてしまうほどに。


自分の頬が熱くなっていくのを、レオニスは自覚していた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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