↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
197/235

勇者一行の変化する日常

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「……こんな感じでしょうか?」


「……そうですね。かなり正確に捉えています」


レオニスは地図を広げ、その上に幾つかの印を書き込んでいく。


レイラから聞いた情報を整理し、次の目的地までの経路と周辺の勢力を書き加えていた。


「なかなか、よく要点がまとめられています」


「……あ、ありがとうございます」


レイラが地図を覗き込む。


その距離が、妙に近い。


長い赤紫色の髪が肩から流れ、レオニスの鼻先へ微かな香りが届くほどだった。


「……はい。レオニスは、とても頑張っています」


「ありがとうございます……?」


そこへ――。


なぜか反対側から、イシュリアンが身を乗り出してきた。


「私も確認しておきましょう」


「……あの、イシュリアン様?」


「はい。何でしょう?」


「ちょっと、近すぎて……その……」


レオニスの頬が、わずかに引きつる。


レイラも十分に近い。


だが、イシュリアンはそれ以上だった。


肩が触れそうなほどの距離。


その体温まで伝わってくる。


「……問題がありますか?」


「いえ。問題というほどでは……」


「そうですか」


イシュリアンは何事もなかったように地図を見つめている。


その様子を、レイラは横から眺めていた。


口元には、どこか楽しそうな笑みが浮かんでいる。


完全に面白がっている。


「……」


そんな三人を、アウレリアは少し離れた場所から眺めていた。


普段ならば、もっと気軽に声をかけていただろう。


けれど――。


「……今更ながらに気が付いたけど」


アウレリアは、ぽつりと呟いた。


「この一行、女子率が多いわね」


「本当に今更だね、アウレリア」


隣に立っていたグラーディスが、面白そうに笑った。


アウレリアは少しだけ頬を膨らませる。


「……あれ、何なんだろうね?」


「あれは、レイラ女史がリアンを煽って楽しんでいるだけだろう」


「ふーん」


アウレリアは再び三人へ目を向ける。


レオニスは困ったように笑いながら、それでも真面目に地図の説明を続けていた。


「気になるのかね?」


「うーん……別にかな」


そう答えたものの。


アウレリアの表情は、いつもの明るさとは少し違っていた。


どこか、晴れない。


グラーディスはそれを見逃さなかった。


「アウレリアは、レオニスをどう考えているんだい?」


「ん?どういうこと?」


「気になるじゃないか」


グラーディスは穏やかに続ける。


「こうして一緒に旅をしているんだ。自分が相手から、どう思われているのか」


「……」


アウレリアは黙った。


そんなことを考えたことはなかったという表情をしていた。


「それに――」


グラーディスは、今度は自分自身を指した。


「アウレリアが私のことを、どう考えているのかも気になるところだ」


「あたしが、グラディのことを?」


「ああ」


グラーディスは笑った。


アウレリアは首を傾げる。


「……どうって言われても」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「そうね。グラディのことは好きよ」


アウレリアは、当たり前のことを答えるような口調だった。


「……っ」


むしろ、グラーディスの方が面食らった。


思わず自分の本心を口にしてしまいそうになる。


だが、その前にアウレリアが続けた。


「リアンも、レオニスも、フィデリアも、もちろんゼルも。皆好きよ」


「……そうか」


グラーディスは、何とか平静を保った。


アウレリアは、そんな彼の様子には気づかず、ふっと遠くを見る。


「あたしは、旅人だから」


その言葉には、どこか懐かしむような響きがあった。


「旅先で出会った人たちとワイワイするのも楽しいし、まだ見たことのない景色を見るとワクワクする」


アウレリアは、これまで歩いてきた道を思い返す。


「そこで羽を休めて、また違う場所へ向かって旅立つ」


それが、アウレリアにとって一番楽しいことだった。


知らない土地。


知らない人。


知らない景色。


そして、そこからまた新しい場所へ。


旅を続けることそのものが、アウレリアにとっての喜びだった。


「……そう思ってた」


アウレリアは空を見上げる。


「けど、今の皆と一緒にする旅は、また別のものをあたしにくれている」


「別のもの?」


「うん」


アウレリアは少し考えてから、言葉を選ぶ。


「今まで一番だと思っていたものとは、別の一番なんだと思う」


その答えに、グラーディスは黙って耳を傾けた。


「だから、一緒に行動しているグラディたちは、皆好きよ」


そして――。


「たぶん、この旅が終わったとしてもね」


アウレリアは、にっと笑った。


いつもの、屈託のない笑顔だった。


(惜しいことだ)


グラーディスは胸の内で苦笑する。


(だが……今は、この笑顔が自分に向いている。それだけでも満足するか)


彼の本音は、そんな単純なものではない。


それでも、これは良い機会だった。


「ところで――」


グラーディスは、もう一歩だけ踏み込む。


「アウレリアにとって、一番気になる人物は誰だ?」


「そうねぇ……」


アウレリアは少しだけ考えた。


「ヴァルド師かな?」


「な!?」


あまりにも迷いのない答えだった。


グラーディスは、質問の内容を間違えたのではないかと思った。


「強いだけじゃなくて、いろんなことを教えてくれるし、弱い立場の人も守る。すごく頼りになる人だし」


アウレリアは笑う。


「一番尊敬しているかもしれない」


「そ、そうか……」


グラーディスは言葉に詰まった。


だが、その言葉が嘘ではないことだけは分かる。


(……こいつは、想像していたより遥かに道のりが険しいな)


心の中で、深く溜息をついた。


少なくとも今のアウレリアの中で、評価の天秤に乗っているのはヴァルドだ。


王族としての身分でもない。


金品でもない。


豪華な肩書でもない。


分かっていたことではある。


アウレリアが人を見るときに重視するのは――。


(人間としての器、か)


グラーディスは静かに笑った。


(……そして、目指すものとしては、やりがいがあるな)


その視線の先には、地図を囲むレオニスの姿があった。


(君も、そう思うだろう? レオニス)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

少しでも続きが気になる思ったらブックマークと、今後の励みになるので、下の【☆☆☆☆☆】から評価をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。