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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
196/235

しかし、これも“縁”というものか

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「戻った」


そう言って戻ってきたロウガは、勝利の酒ではなく回復薬を口にした。


それを迎えた覇王ディアボロスは、戦果を労うこともしない。


「角王メガロックスは、どうした?」


「俺が勝った。だから、配下の連中に引き渡すことを条件に、角王軍を退かせた」


「相手を殺さずに、成し遂げたか」


「ああ」


ロウガは回復薬を煽った。


「お前が出征していたら、角王メガロックスを殺していただろう。今後の魔王国を考えれば、奴には死んでもらうわけにはいかない」


それが、ロウガが自ら前線に出てきた理由の一つだった。


覇王ディアボロスは、敵に容赦をしない。


自ら進んで投降する者に手を出すことはない。


だが、戦うことを選んだ相手には、確実に倒す。


その名の通りの覇王だった。


しかし、ロウガの知る限り、角王メガロックスの影響力は強い。


角王を覇王が殺せば残された者たちの中に、新たな敵意が生まれる。


それは次の戦いを生む温床になりかねない。


ロウガ自身も、今は覇王の盟友として戦っている。


だが、魔王国では穏健派に数えられる存在だ。


覇王と冥王。


その決着がついた後の魔王国を考えれば、角王は失ってはならない魔王だった。


「冥王軍は、その条件に従ったのだな」


「これまでと同じだ」


ロウガは苦い顔をする。


「奴らは冥王軍となっている。だが、結局は角王メガロックスが自分の兵力を挙げただけだ」


「……なるほど」


「実質、奴らは冥王に従っているわけじゃない」


ロウガは回復薬をもう一度口にした。


薬の味も。


今の状況も。


どちらも苦かった。


「角王に従っていたんだ」


ディアボロスは黙って聞いている。


「つまり今回も、俺たちは冥王と戦っていたんじゃない。角王と戦っていたということだ」


それが、ロウガが戦場から導き出した答えだった。


だが。


それだけでは説明がつかない。


これまでにも、二人の魔王が覇王の前に立ち塞がった。


その二人も、角王メガロックスと同じく魔王国の”穏健派”だった。


混沌よりも秩序を重んじてきた者たち。


ロウガも最初は、彼らが魔王国の秩序を守るため、無用な争いを避けながら挙兵したのだと思っていた。


だが、違った。


彼らは、ほとんど口上すら述べず。


進んで覇王へ戦いを挑んできた。


まるで――。


何かを守ることこそ、己の義務であるかのように。


「冥王に対する義か……」


ディアボロスが呟いた。


その顔にも、冥王軍の異質さを無視できない色が浮かんでいる。


「そうだ」


ロウガは頷いた。


「今回も、同じだ」


覇王と牙王。


二人の魔王は、互いに顔を見合わせる。


まだ、答えはない。


ただ。


冥王軍の動きが、これまでの戦争とは明らかに違っている。


その事実だけが、二人の胸に残っていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ディアボロスは、ふっと息を吐いた。


だが、その表情に困惑はない。


むしろ――どこか面白がっているようだった。


「しかし、これも“縁”というものか」


「どういう意味だ?」


「こういうことだ」


ディアボロスは懐から一枚の手紙を取り出すと、ロウガへ放り投げた。


「読め」


「……?」


ロウガは訝しげに手紙を開く。


差出人の名を見た瞬間、嫌な予感がした。


そして読み進めるにつれ、その表情が少しずつ変わっていく。


「……なるほどな」


読み終えたロウガに、ディアボロスが口元をわずかに緩めた。


「中々よく出来ているな。お前の相方は」


「あ、相方じゃねぇ……」


即座に否定した。


だが、その勢いも長くは続かない。


ロウガは手紙を持ったまま、恨めしそうに頭を押さえた。


「……アウレリアめ……」


手紙は、レイラからディアボロスへ宛てられたものだった。


そこには、禁奈備で目的を果たせなかった勇者一行が、次の巡礼地へ向かうこと。


そして、その場所が冥王勢力下の中心地と噂される土地であることが記されている。


さらに――。


アウレリア自身は、その危険をさほど気にする様子もなく、次の目的地へ向かうことを決めたらしい。


最後には、レイラも勇者一行に同行する、と書き添えられていた。


「……ディアボロス」


ロウガは手紙を下ろす。


「お前が言った“縁”ってのは、これか?」


「……そうだ」


ディアボロスは顎に手を当てた。


「ロウガ、レイラ、俺。樹王もそうだ。何かと魔王と縁のある奴だな、あの勇者は」


「……」


「流石は今代の勇者、と言っていいだろう」


ディアボロスは、かつて自分自身と相まみえた少女の姿を思い出す。


「ならば、その勇者の縁が魔王と引き合わせるというのなら――」


白い瞳が細められた。


「冥王と引き合うのも、ただの偶然と一蹴するわけにはいかんだろうて」


「……それは、流石にこじつけが過ぎるぞ」


ロウガは呆れたように返す。


だが、完全に否定することもできなかった。


事実として、アウレリアはすでに複数の魔王と関わっている。


しかも現在の魔王国の三大勢力の二つとの縁。


「何にせよ――」


ロウガは手紙を折りたたんだ。


「俺と冥王の盤上に、突然置かれた意味不明な一手だ」


ディアボロスその口元に、わずかな笑みが浮かぶ。


「何かしら、展開があると期待しても損はなかろうよ」


「そうだな」


ディアボロスは笑った。


そして――もう一通の手紙を、ロウガへ投げる。


「……まだ何かあるのか?」


「こちらは、お前宛てだ」


「俺に?」


「麗王から個人的に届いたものだ。当然、中身は見ていない」


「……」


ロウガは嫌な予感を覚えながら、封を開いた。


そこに記されていたのは――。


読む側が恥ずかしくなるほど、甘い言葉の数々だった。


会いたい。


早く帰ってきてほしい。


無事でいてほしい。


そんな言葉が、何枚にもわたって綴られている。


「…………」


ロウガは無言になった。


先ほどとは、別の意味で頭を抱える。


「……レイラ……」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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