行く先で待つもの
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えっ!?ヴァルド師が、そんなこと教えてくれたの?」
アウレリアが驚いた声を上げる。
「はい。次の巡礼の地を教えてくれました」
フィデリアは、いつもの儚げな微笑みを浮かべて頷いた。
「事実かどうかは分からないが、信憑性はあるな」
「そうですね。あの方であれば、知っていても不思議ではありません」
グラーディスも、イシュリアンも同じ意見だった。
だが、レオニスだけは納得しきれない。
(……フィデリアの味方でもない。勇者の儀の達成を望んでいるわけでもない。それなのに、何故……)
レオンハルトの記憶の中にさえ現れた男。
その覚悟を試すように、最後の選択を迫った男。
ヴァルドが敵なのか、味方なのか。
それとも、そのどちらでもないのか。
レオニスには、まだ判断できなかった。
(……一つだけ確信していることはある)
ヴァルドは、勇者の儀と無関係ではない。
それだけは間違いない。
しかし、その立ち位置も。
目的も。
これまでの行動が何を意味するのかも、レオニスには分からなかった。
そして何より、不安がある。
レオンハルト。
そして、セシル。
聖剣を手にした者たちが辿った結末。
レオニスは、目の前にいる勇者一行を見つめた。
「教えてくれたのは、ここです」
フィデリアが地図の一点を指差す。
「ここが、次の巡礼地?」
アウレリアたちが地図を覗き込んだ。
「とりあえず、今は行く場所も分からなかったから、ちょうどよくない?」
目的地を得たアウレリアは、にっと笑った。
「行くしかないな」
「残念ですが、異論はありません」
グラーディスとイシュリアンも頷く。
情報がない以上、進んでみるしかない。
(……自分たちで進むしか、結局は真実に近づけないということか)
レオニスも、そう結論づけた。
そして――。
勇者一行が禁奈備を出た、その時だった。
「戻ってきましたか」
待っていたレイラが、静かに声をかける。
「うん。まあ、何とか帰ってきた」
アウレリアが右手を上げた。
「そんで、レイラ。聞きたいことがあるの?」
「何でしょう?」
「次は、ここに行きたいんだけど。道を教えてほしいんだけど」
アウレリアが地図を差し出す。
レイラは、その場所を確認した。
そして。
「……ここに行くとは、本気ですか?」
「えっ!?なんか問題あるの?」
問い返され、レイラは小さく溜息をついた。
「ここは――冥王の支配下にある場所ですよ」
(……冥王!?)
レオニスの脳裏に、あの記憶が蘇る。
原初の勇者、レオンハルト。
彼が戦った、冥王。
その名を持つ存在が、この時代にもいる。
そして。
今、自分たちが進もうとしている道の先に、その冥王がいる。
その事実を知った瞬間。
レオニスは、言葉を失った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大剣が、横薙ぎに振り抜かれた。
「ちっ」
ロウガは舌打ちする。
だが、その場から動かなかった。
迫る刃を紙一重で見切り、最小限の動きだけで躱す。
次の瞬間。
ロウガが踏み込んだ。
一撃。
二撃。
三撃。
連続して繰り出される拳と爪。
どれも速い。
しかし――。
目の前に立つヘラジカ頭の獣人は、大剣を盾のように構え、そのすべてを受け止めていた。
「それが、噂に聞く牙王ロウガの攻撃とは。ぬるい」
「あんたは噂に違わず強いよ。角王メガロックス」
ロウガは、一度距離を取った。
目の前に立つ巨体を見据える。
角王メガロックス。
魔王国でも名の知れた強者だ。
その実力は、ロウガも認めざるを得ない。
だが。
「……あんたほど、音に聞こえた魔王が、冥王の配下になっているとはな」
ロウガの声から、僅かに笑みが消える。
「事実だったことに驚いたよ」
「貴様こそ、古の魔王の血統が、覇王を名乗る新参者に屈したか」
メガロックスが睨みつける。
「愚か者め!」
「耳に痛いな」
ロウガは苦笑した。
そして、さらに間合いを広げる。
「何故だ?」
「……何?」
「何故、進んで冥王に加担する?」
問いかけに、メガロックスは僅かに沈黙した。
やがて。
「……冥王には、恩義がある」
「何!?」
予想していなかった答えだった。
「我が動いたのは、ひとえに義によるもの」
その言葉と同時に、メガロックスが大剣を振り上げる。
そして――。
地面へ叩きつけた。
ドゴォンッ!!
大地が爆ぜる。
土塊が跳ね上がり、衝撃が周囲へと広がった。
「……ただ、力で民を屈服させ、支配する覇王とは違うのだ!」
ロウガは身を躱しながら、目を細めた。
(……やはり、そうか)
胸の奥に、冷たいものが走る。
ロウガが自ら前線に出てきた理由。
それは、冥王軍に感じた異様さだった。
角王メガロックス。
この男も同じだ。
魔王国内でも、穏健派と見られてきた魔王。
その中には、力を持ちながらも無用な争いを避け、魔王国の秩序を守ってきた者たちがいる。
だが今。
その魔王たちが、冥王の勢力として前線に立っている。
穏健派だから弱いわけではない。
むしろ逆だ。
争いを避けることができるのは、それだけの力を持っているからでもある。
一騎当千。
そんな魔王たちが、次々と戦場へ現れている。
(……おかしい)
ロウガは、戦場の向こうを見た。
これまでの魔王国では、総大将たる魔王が前線に立つのが常だった。
臆病者と見なされることを嫌い、己の力を示す。
それが魔王国の伝統でもあった。
だが。
今回だけは違う。
冥王本人は、前線に出てこない。
その代わりに。
魔王国の伝統を守る立場にあった魔王たちが、冥王の軍勢として戦場に立っている。
(冥王……何を企んでいる?)
答えは出ない。
ただ一つ。
ロウガには分かっていた。
魔王国そのものに、何かが起きている。
それは、戦場で剣を交えるだけでは見えない。
もっと深いところで。
確実に。
異変が広がっている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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