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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
195/235

行く先で待つもの

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「えっ!?ヴァルド師が、そんなこと教えてくれたの?」


アウレリアが驚いた声を上げる。


「はい。次の巡礼の地を教えてくれました」


フィデリアは、いつもの儚げな微笑みを浮かべて頷いた。


「事実かどうかは分からないが、信憑性はあるな」


「そうですね。あの方であれば、知っていても不思議ではありません」


グラーディスも、イシュリアンも同じ意見だった。


だが、レオニスだけは納得しきれない。


(……フィデリアの味方でもない。勇者の儀の達成を望んでいるわけでもない。それなのに、何故……)


レオンハルトの記憶の中にさえ現れた男。


その覚悟を試すように、最後の選択を迫った男。


ヴァルドが敵なのか、味方なのか。


それとも、そのどちらでもないのか。


レオニスには、まだ判断できなかった。


(……一つだけ確信していることはある)


ヴァルドは、勇者の儀と無関係ではない。


それだけは間違いない。


しかし、その立ち位置も。


目的も。


これまでの行動が何を意味するのかも、レオニスには分からなかった。


そして何より、不安がある。


レオンハルト。


そして、セシル。


聖剣を手にした者たちが辿った結末。


レオニスは、目の前にいる勇者一行を見つめた。


「教えてくれたのは、ここです」


フィデリアが地図の一点を指差す。


「ここが、次の巡礼地?」


アウレリアたちが地図を覗き込んだ。


「とりあえず、今は行く場所も分からなかったから、ちょうどよくない?」


目的地を得たアウレリアは、にっと笑った。


「行くしかないな」


「残念ですが、異論はありません」


グラーディスとイシュリアンも頷く。


情報がない以上、進んでみるしかない。


(……自分たちで進むしか、結局は真実に近づけないということか)


レオニスも、そう結論づけた。


そして――。


勇者一行が禁奈備を出た、その時だった。


「戻ってきましたか」


待っていたレイラが、静かに声をかける。


「うん。まあ、何とか帰ってきた」


アウレリアが右手を上げた。


「そんで、レイラ。聞きたいことがあるの?」


「何でしょう?」


「次は、ここに行きたいんだけど。道を教えてほしいんだけど」


アウレリアが地図を差し出す。


レイラは、その場所を確認した。


そして。


「……ここに行くとは、本気ですか?」


「えっ!?なんか問題あるの?」


問い返され、レイラは小さく溜息をついた。


「ここは――冥王の支配下にある場所ですよ」


(……冥王!?)


レオニスの脳裏に、あの記憶が蘇る。


原初の勇者、レオンハルト。


彼が戦った、冥王。


その名を持つ存在が、この時代にもいる。


そして。


今、自分たちが進もうとしている道の先に、その冥王がいる。


その事実を知った瞬間。


レオニスは、言葉を失った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



大剣が、横薙ぎに振り抜かれた。


「ちっ」


ロウガは舌打ちする。


だが、その場から動かなかった。


迫る刃を紙一重で見切り、最小限の動きだけで躱す。


次の瞬間。


ロウガが踏み込んだ。


一撃。


二撃。


三撃。


連続して繰り出される拳と爪。


どれも速い。


しかし――。


目の前に立つヘラジカ頭の獣人は、大剣を盾のように構え、そのすべてを受け止めていた。


「それが、噂に聞く牙王ロウガの攻撃とは。ぬるい」


「あんたは噂に違わず強いよ。角王メガロックス」


ロウガは、一度距離を取った。


目の前に立つ巨体を見据える。


角王メガロックス。


魔王国でも名の知れた強者だ。


その実力は、ロウガも認めざるを得ない。


だが。


「……あんたほど、音に聞こえた魔王が、冥王の配下になっているとはな」


ロウガの声から、僅かに笑みが消える。


「事実だったことに驚いたよ」


「貴様こそ、古の魔王の血統が、覇王を名乗る新参者に屈したか」


メガロックスが睨みつける。


「愚か者め!」


「耳に痛いな」


ロウガは苦笑した。


そして、さらに間合いを広げる。


「何故だ?」


「……何?」


「何故、進んで冥王に加担する?」


問いかけに、メガロックスは僅かに沈黙した。


やがて。


「……冥王には、恩義がある」


「何!?」


予想していなかった答えだった。


「我が動いたのは、ひとえに義によるもの」


その言葉と同時に、メガロックスが大剣を振り上げる。


そして――。


地面へ叩きつけた。


ドゴォンッ!!


大地が爆ぜる。


土塊が跳ね上がり、衝撃が周囲へと広がった。


「……ただ、力で民を屈服させ、支配する覇王とは違うのだ!」


ロウガは身を躱しながら、目を細めた。


(……やはり、そうか)


胸の奥に、冷たいものが走る。


ロウガが自ら前線に出てきた理由。


それは、冥王軍に感じた異様さだった。


角王メガロックス。


この男も同じだ。


魔王国内でも、穏健派と見られてきた魔王。


その中には、力を持ちながらも無用な争いを避け、魔王国の秩序を守ってきた者たちがいる。


だが今。


その魔王たちが、冥王の勢力として前線に立っている。


穏健派だから弱いわけではない。


むしろ逆だ。


争いを避けることができるのは、それだけの力を持っているからでもある。


一騎当千。


そんな魔王たちが、次々と戦場へ現れている。


(……おかしい)


ロウガは、戦場の向こうを見た。


これまでの魔王国では、総大将たる魔王が前線に立つのが常だった。


臆病者と見なされることを嫌い、己の力を示す。


それが魔王国の伝統でもあった。


だが。


今回だけは違う。


冥王本人は、前線に出てこない。


その代わりに。


魔王国の伝統を守る立場にあった魔王たちが、冥王の軍勢として戦場に立っている。


(冥王……何を企んでいる?)


答えは出ない。


ただ一つ。


ロウガには分かっていた。


魔王国そのものに、何かが起きている。


それは、戦場で剣を交えるだけでは見えない。


もっと深いところで。


確実に。


異変が広がっている。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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