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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の動乱編
194/235

過去と現在が繋がる時

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「……はっ!?」


レオニスは目を覚ました。


最初に感じたのは、地面の感触だった。


「……地面……」


ゆっくりと手を伸ばす。


指先に土の感触が伝わってくる。


風が頬を撫でた。


空気の冷たさも分かる。


レオンハルトの記憶を見ている間は、ただ見ることしかできなかった。


そこには触れられなかった。


なのに今は違う。


「……帰ってきたのか……」


呟いた声が、自分の耳に返ってくる。


レオニスは、途方もなく長い夢を見ていたような気分だった。


けれど――。


(……いや。夢じゃない)


激しく首を振る。


(あれは……レオンハルトの記憶は、現実にあったことだ)


その瞬間、レオニスは慌てて周囲を見渡した。


聞かなければならない。


確かめなければならないことが、いくつもある。


「……ヴァルド様?」


しかし。


そこにヴァルドの姿はなかった。


「……いない……?」


周囲を見渡しても、立っているのはフィデリアだけ。


アウレリアも。


イシュリアンも。


グラーディスの勇者一行も。


皆、地面に横たわったまま、まだ目を覚ましていない。


(……ヴァルドは、“命が対価”だと言っていたのに……なぜ?)


疑問が消えない。


その時だった。


「……レオニス……?」


フィデリアが、レオニスの目覚めに気づいた。


こてん、と。


小さく首を傾げる。


「……あの、フィデリア様。ヴァルド様は?」


「……去りました」


あまりにも簡潔な答えだった。


(……去った!?)


レオニスは心の中で叫ぶ。


(いなくなったってことか!?)


現れる時も、去る時も前触れがない。


それは今に始まったことではない。


だが――。


(丸投げは……酷すぎる)


そう思いながらも、レオニスの意識は目の前の少女へ向いていた。


フィデリア。


その姿が、どうしても重なる。


レオンハルトの記憶で見た、あの少女と。


聖剣を消し去った少女。


そして――勇者だったセシルさえも消した少女。


(……もし)


喉が鳴る。


(もし、フィデリア様が……あの少女と同じ存在だったら?)


アウレリアは、どうなる。


彼女もまた、消されてしまうのか。


そんな想像が頭から離れない。


「……あの、フィデリア様。貴方は……」


「……?」


フィデリアが、静かにレオニスを見る。


その先を、レオニスは言えなかった。


(……否定ならいい)


(だけど……もし肯定されたら)


その時、自分はどうする。


問いかけることさえ怖かった。


けれど。


目の前のフィデリアからは、あの少女が持っていたような冷たい気配が感じられない。


彼女の視線は、今も倒れているアウレリアたちへ向けられていた。


心配そうに。


ただ、仲間を案じるように。


「……いえ。すいません、何でもありません」


「そうですか」


フィデリアは、それ以上追及しなかった。


そして。


いつもと変わらない、儚げな微笑みをレオニスへ向けた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



それから、ほどなくして。


アウレリア、グラーディス、イシュリアンも目を覚ました。


最初に声を上げたのは、アウレリアだった。


彼女は身体を起こすと、周囲を見渡す。


そして、不思議そうに眉を寄せた。


「樹王は、どうなったの?」


それが最初の疑問だった。


自分たちがどうして助かったのか。


その答えを知らない顔だった。


「ヴァルドが助けてくれたようです」


「!?」


フィデリアの答えに、レオニスは目を見開いた。


(……違う)


違う。


樹王を退けたのは、フィデリアだ。


あの圧倒的な力を振るっていたのは、間違いなく彼女だった。


その直後にヴァルドが現れ、戦いを止めた。


それが、レオニスの見た事実だった。


(覚えていないのか……?)


それとも。


(……故意に、誤魔化したのか?)


だが、その疑問を口にする前に。


「そっか。ヴァルド師に助けられたのか」


アウレリアが納得したように呟いた。


グラーディスも、イシュリアンも同じだった。


誰もフィデリアの言葉を疑わない。


無理もなかった。


ヴァルドなら、それができても不思議ではない。


帝國最強。


アウレリアの師。


彼の力を知る者ほど、疑問を抱かなかった。


たとえレオニスが真実を語ったところで、状況は変わらない。


戦う力を持たないはずのフィデリアが、樹王を圧倒した。


そんな話をしても。


当の本人が、その事実を認識していない。


証明する手段がなかった。


レオニスは、アウレリアへ近づいた。


「あの、アウレリア。聞いていいかな?」


「?何?」


「アウレリアは、レオンハルトって人を知ってる?」


「レオンハルト?」


アウレリアは腕を組み、首を傾げた。


「人の名前よね」


「うん」


「うーん……記憶力はいい方だけど、知らないわね。誰のこと?」


「いや。知らなければいいんだ」


「そう?」


アウレリアは、それ以上気にしなかった。


いつもと変わらない。


嘘をついているようにも見えない。


何かを隠している素振りもない。


(……レオンハルトの記憶で見たアウレリアは、やはり別人なのか?)


そう考えるしかなかった。


あまりにも自然だった。


だからこそ。


今まで見てきたものすべてが、長い夢だったのではないか。


そんな錯覚さえ覚える。


(……あっ!)


その瞬間。


レオニスの脳裏に、一人の少女の姿が浮かんだ。


もう一人。


確認しなければならない人物がいる。


「イシュリアン様。お聞きしてよいですか?」


「?何でしょうか?」


聖導師イシュリアンが振り返る。


「イシュリアン様は、テレサという名前の人に心当たりはありませんか?」


「テレサ?」


イシュリアンは、珍しく答えに詰まった。


(……これも、駄目なのか……)


レオニスがそう思いかけた、その時だった。


「かつて法国にいらっしゃったという、聖教皇テレサ様ですか?」


レオニスの息が止まる。


それは。


過去と現在が、初めて明確に繋がった瞬間だった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



レオニスは、言葉を失っていた。


(……いる)


いや。


(……いたのか。テレサが……)


過去と現在が、確かに繋がった。


レオンハルトの記憶で見た少女。


その名は、現代の歴史にも残っている。


そして彼女は、勇者の儀を王国へ伝えた人物だった。


「聖教皇テレサ様というのは、その勇者の儀に関わっている方ですか?」


「はい」


イシュリアンは記憶を辿るように答えた。


「文献には、勇者の儀を王国にもたらした方だとありますね」


「……!」


レオニスの胸が大きく鳴った。


「邪悪な存在が現れれば、王国は勇者に聖剣を与えよ――そのような後世を残しています」


(……やはり、テレサだ)


確信した。


あの時。


レオンハルトの記憶の中で、テレサは言っていた。


――何度蘇っても、私は勇者をその度に送り込む。


(……彼女に間違いない)


夢ではなかった。


レオンハルトの過去は、確かに存在した。


そう思った、その時だった。


「その方が、気になるのですか?」


「え?」


イシュリアンが、いつの間にかレオニスの近くに立っていた。


「その女性が、気になるのですか?」


「えっと……」


「どう気になるのですか?」


「あの……それは、どういう意味で?」


「急にテレサという人物が気になると言われたのです」


イシュリアンは淡々と告げる。


「気になるのは、当然でしょう?」


「いや、その……」


「怒りません。正直に言ってください」


(……なんか、圧がある?)


レオニスは困惑した。


どうして、ここまで問い詰められているのか。


自分はただ、歴史上の人物について確認しただけなのだ。


「えっと……」


「どのようなところが気になるのですか?」


「ですから、それは……」


イシュリアンが、さらに一歩近づく。


レオニスは一歩下がった。


その二人の間に。


「二人とも」


グラーディスが、いつの間にか立っていた。


「フィデリア様がお話があるらしいぞ」


「は、はい」


「……はい」


レオニスは、心の底から助かったと思った。


一方。


イシュリアンは、わずかに不満そうだった。


そんな二人を見比べて、グラーディスは小さく息を吐く。


「後で機嫌をとっておくんだな、レオニス?」


「え?」


「これは命令だ」


「あ、えっ!?」


何のことなのか。


まるで分からない。


困惑するレオニスを見て、グラーディスは口角を上げた。


どこか楽しそうな笑みだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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