↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の旅編
186/235

旅の記録(18)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



レオンハルトと冥王の戦いは、これまで一貫してレオンハルトが不利な状況で進んでいた。


それでも、彼は退かなかった。


戦いに先立ち、シャルバートはレオンハルトに様々な魔法道具を授けている。


空中を駆けるための具足。


魔法への耐性を高める帯。


傷ついた身体を癒やす衣。


そして、ただでさえ強靭な身体能力をさらに引き上げる籠手。


どれも、人間が用意できる最高峰の品だった。


レオンハルトは、それらすべてを身につけている。


それでも――。


冥王は、小さく笑った。


『ふふ…………』


その笑みと共に、冥王の身体に刻まれていた傷が塞がっていく。


聖剣によって断ち切られたはずの肉体が、まるで何事もなかったかのように再生していく。


『余の事を理解していないようだ』


その光景を見て、レオニスは思わず息を呑んだ。


――何て化け物だ。


聖剣でも、駄目なのか。


あれほどの一撃を受けても、冥王にとっては致命傷ですらない。


いや。


レオニスは、そこで気づいた。


冥王はレオンハルトを、敵としてすら見ていない。


遥か格下。


そんな言葉ですら、生温い。


せいぜい、自分の周囲を飛び回る羽虫。


その程度にしか認識していない。


『余に歯向かった無謀な自尊心はよし。だが、それだけだ』


冥王の声には、怒りすらなかった。


『それで?まだ無益なことを続けるか』


静かな声だった。


『無益だけなら良い。だが、過ぎれば害になるだけだ』


冥王が宙を進む。


『逃げるなら好きにするといい。余を崇め、今後地を這い、天を見上げぬのであれば、慈悲を与えよう』


そして、問いかける。


『それでも、まだ続けるか?』


レオンハルトは答えない。


『それとも――余に勝てると思っているのか?』


その言葉を受け、レオンハルトは静かに聖剣を構えた。


(……レオンハルト……)


レオニスの中へ、再び感情が流れ込んでくる。


憎悪。


怒り。


絶望。


それでも消えない、凄まじい負の激情。


――滅ぼす。


――こいつだけは。


だが、その激情の奥には、冷静な戦士としての思考があった。


――あと、何度聖剣が使える。


シャルバートは言っていた。


この限定聖剣が、本来の聖剣に近い力を発揮できるのは、七回ほど。


すでに二度、力を使っている。


ならば――。


――残り、五回。


レオンハルトは、聖剣の柄を強く握った。


そして、自らの直感を信じた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『……無駄なことをする。余に通じぬと理解できんらしいな』


冥王は、空中に立つレオンハルトを見下ろしていた。


『……それなりの力はあるらしい』


その声音には、僅かな評価すら混じっていた。


だが、それも一瞬だった。


『だが、勘違いしてはいけない。力を持つことと、余に届くことは別の話だ』


冥王は、まるで自然の摂理を語るように続ける。


『……もう十分だろう。これ以上は、文字通り無駄だ』


その言葉に。


レオンハルトは、鼻で笑った。


「……貴様こそ理解していない。冥王」


仮面の奥から、低い声が返る。


「……俺は、ただの復讐を誓った亡者にすぎん」


聖剣を握る手に、力が込められる。


「……貴様が仮に王を名乗ろうが、俺には関係ない」


一歩。


空中を踏みしめる。


「……ただ奪うだけしか能がない化け物を」


そして。


聖剣の切っ先が、迷いなく冥王へ向けられた。


「……俺は、王だとは認めん」


『……羽虫に認められ、余が歓ぶと思うか。痴れ者よ』


その瞬間だった。


冥王の周囲に、炎が生まれた。


一つではない。


無数。


赤い火焔が、細長い鞭のように空中へ伸びていく。


『ならば、結果で理解しろ』


炎が走った。


普通の鞭ではない。


それは意思を持つ蛇のように、自在に身をくねらせていた。


レオンハルトが横へ跳ぶ。


炎も曲がる。


上へ逃げる。


炎も追う。


防御すれば、別の炎が背後へ回り込む。


逃げ道そのものを塞ぐように、無数の火焔が空を這った。


そして――。


「――っ!」


一本の炎が、レオンハルトの脚へ絡みついた。


次の瞬間。


爆ぜた。


轟音と共に炎が弾け、右脚から力が抜ける。


身体を支えていた脚が、動かない。


それでも。


「……意外と底が浅いな、冥王」


レオンハルトは立っていた。


いや。


正確には、空中に残っていた。


右脚を失ったことなど、些細な出来事だと言わんばかりに。


「この程度で、俺に何を理解させたかったんだ?」


冥王を見据える。


その声に、震えはなかった。


痛みも。


恐怖も。


後悔も。


レオンハルトには、もう必要なかった。


この身体は、かつて冥王に奪われた者たちの残骸から作られたものだ。


自分のものですらない。


ならば。


失うことを恐れる理由など、最初から存在しない。


それでもレオンハルトは、動かなくなった右脚へ僅かに意識を向けた。


名も知らぬ誰か。


かつて、この身体の一部だった人間。


その命を、自分は借りている。


だからこそ。


失った脚に対して、恐怖ではなく感謝だけを残した。


――ここまで、俺の脚になってくれてありがとう。


それだけだった。


レオンハルトは、再び聖剣を構えた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。