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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の旅編
179/235

旅の記録(11)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「それは、魅力的な言葉なんだろうな……」


レオンハルトは、そこまで言って一拍を置いた。


そして、シャルバートへ問いかける。


「貴方から見て、今の俺はどう見える?」


「……」


シャルバートは答えなかった。


ただ、レオンハルトの言葉を黙って聞いている。


「この姿で、俺は生きている」


レオンハルトは自らの身体を見下ろした。


継ぎ接ぎだらけの身体。


人間としては、あまりにも不完全な姿。


「だが、いつまで生きられる……」


低い声が落ちる。


「俺には、どれほどの時間が残されているのだ……。分からないことが、恐ろしい」


それは、初めて口にした恐怖だった。


「これが神の慈悲なのか。悪魔の非情なのかは分からん」


レオンハルトは拳を握る。


「だが、一つだけ分かることがある」


奥歯を噛み締める。


「このツギハギだらけの身体は、俺に言っている」


「奴を……冥王を倒せ、と」


その声には、迷いがなかった。


「そして、俺は押し上げられたのだ」


死んだはずの身体が。


生きるはずのない肉体が。


再び立ち上がった。


「だから、戻ってこられた」


レオンハルトは静かに顔を上げる。


「先など、いらん」


その言葉は、死を恐れない者のものではなかった。


恐怖を抱えたまま、それでも前へ進む者の言葉だった。


「俺は、どうなったっていい」


脳裏に浮かぶ。


意味も分からぬまま蹂躙された人々。


愛する女性。


無二の親友。


そこで暮らしていた人々。


彼らが長い年月をかけて築いてきた生活。


そのすべてを、冥王は目の前で奪っていった。


レオンハルトは無力だった。


何も守れなかった。


今も、彼らの怨嗟の声が胸の奥から響いている。


だからこそ。


「彼らのため。そして、自分のために選ぶなら……冥王を倒せるだけの力ではない」


レオンハルトは言い切った。


「確実に葬り去る力が欲しい」


「……」


「そのために代償が必要なら、如何なることでも払う」


言葉が静寂に沈む。


それを待っていたかのように、シャルバートが口を開いた。


「……貴方が、何をもってそこまで言うのか。やはり、私には理解できません」


レオンハルトは黙って彼女を見る。


「……しかし」


シャルバートは瞑目した。


「これも、“天啓”というものでしょうね」


そして、ゆっくりと顔を上げる。


「私は臆病者なので、動くために理由が必要でした」


その声に、初めて明確な決意が宿った。


「聖録(クラシック)の写本。その最終巻を読みに――ヴァース帝國へ帰りましょう」


シャルバートの口から出たのは、決意の声だった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「えっ!? もう帰るの、帝國に?」


シャルバートの言葉に、目を丸くしたのはアウレリアだった。


「はい。どのみち、いつかは戻らなければなりませんでしたので」


「あたしも一緒に行くの?」


「もちろんです」


「あんまり気が進まないなぁ。留守番じゃ駄目?」


「私が帰る以上、アウレリアも帰る必要があります」


「いや、だってさ。まだ試練の途中でしょ?」


「あれも、経過を報告に行く時期です」


レオンハルトの視界に映るアウレリアは、心底嫌そうな顔をしていた。


(……このアウレリアは、帝國の関係者なのか?)


レオンハルトは疑問を覚える。


そして、もう一つ。


(……彼女は、何者なんだろう)


原初の勇者の記憶。


そこで偶然見つけた、アウレリアとよく似た少女。


しかも、同じ名前を名乗っている。


それだけでも十分に奇妙だった。


だが、レオンハルトとシャルバートが話している間、アウレリアはずっと二人の視界の外にいた。


会話にも入らない。


ただ、黙っている。


それは、レオニスの知るアウレリアにはない違和感だった。


現代のアウレリアなら。


自分が知りたいと思ったことには、相手が入ってほしくないと思っていても、問答無用で割り込んでくる。


(……単純に、興味がない話という可能性もあるが)


レオニスは、アウレリアという少女をよく知っていた。


こういう時なら、レオンハルトの事情を知れば、彼女はきっと介入する。


その証拠に。


彼女は、レオンハルトを助けている。


そんなことを考えている間にも、二人の会話は続いていた。


「アウレリア。そろそろ貴方も、自身のことを自覚なさい」


「いや、だってさ」


「だっても何もありません、アウレリア」


シャルバートは、少女を諭すように告げる。


そして。


「いえ――アウレリア・ウル・ヴァース」


「……!?」


レオニスの意識が、その名に引き寄せられた。


シャルバートは続ける。


「貴方は、帝國皇帝の継承者候補としての自覚を持ちなさい」


(……“アウレリア・ウル・ヴァース”)


レオニスは言葉を失った。


(“帝國皇帝の継承者候補”!?)


頭の中で、幾つもの疑問が重なる。


アウレリア。


王国の勇者と、よく似た少女。


それが、王国の敵対国である帝國の人間。


しかも、その最高権力者たる皇帝の候補者。


(……一体、どういうことなんだ……?)


レオニスの問いに、答えは返ってこない。


見ていたレオンハルトの記憶が、次の場面へと切り替わったからだ。


(……アウレリアが……帝國の皇帝候補……?)


レオニスは、ただ茫然とするしかなかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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