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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の旅編
177/235

旅の記録(9)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「アウレリア、あなたはそこまで話したのですか?」


「別に秘密だって、止めてなかったでしょ」


「……そうですね」


シャルバートは、諦めたように小さく息を吐いた。


どうやら、アウレリアには勝てないらしい。


「……さて、レオンハルト。あなたは、聖弓の何を知りたいのですか?」


「俺は、それが冥王にダメージを通した光景を見た」


レオンハルトは、静かに答えた。


「故に、どうすればその武器を手に入れられるのかを知りたい」


冥王を倒す。


そのためには、あの絶対的な存在に傷を与える力が必要だった。


レオンハルトにとって、聖弓はその可能性を示した唯一の武器である。


何としてでも知る必要があった。


シャルバートは答える前に、アウレリアが持つ聖弓へ視線を向けた。


「あなたの期待を裏切ることになりますが、偽りなく答えます」


静かな溜息。


「……これは、本物の聖弓ではありません」


「何!?」


レオンハルトの眉が動く。


「……これは、私が模倣して作った贋作のようなものです。本物には、おそらく及ばないでしょう」


「……」


その言葉に、レオンハルトだけではなく、レオニスも驚いた。


偽物。


目の前にある聖弓は、本物ではない。


それでも。


その偽物が、冥王へダメージを与えた。


ならば考えられる可能性は二つ。


シャルバートの技術が、それほどまでに規格外なのか。


あるいは――。


アウレリア自身が、レオニスの知るアウレリアと同等の力を持っているのか。


どちらにしても、目の前にいる二人は異常だった。


「……シャルバート」


レオンハルトが、静かに問いかける。


「君は、“模倣”したと言ったな」


「ええ」


「つまり、模倣対象となる本物が、この世界に存在しているということか?」


その問いは当然だった。


模倣するには、元となるものが必要になる。


レオニスも同じ結論に至った。


だが。


シャルバートの答えは、予想とは違っていた。


「いいえ」


シャルバートは静かに首を振る。


「存在しません」


「……どういうことだ?」


レオンハルトが問う。


その答えに、レオニスは気づいた。


(……そうだ)


自分が見ているのは、原初の勇者の記憶。


だがレオンハルトは、まだ勇者ではない。


まだ何も始まっていない。


(……つまり)


レオニスの中で、すべてが繋がった。


(“勇者の儀”は、まだ始まってすらいない)


この世界には、聖剣を勇者へ授ける姫巫女が存在しない。


ならば――。


聖弓もまた。


まだ、この世界に存在する理由そのものがない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「では、どうやって聖弓を作ったのだ?」


レオンハルトが問いかけた。


シャルバートは、しばらく黙っていた。


模倣。


そう彼女は言った。


ならば、本物が存在しなくても、何かを参考にしたはずだった。


(……そうだ)


レオニスも同じ疑問を抱く。


(それは、一体何なんだ?)


「私が使ったのは、“聖録(クラシック)”の写本です」


「……聖録?」


「ええ。アウレリアの聖弓は、そこで得た知識を元に作りました」


レオンハルトの表情が僅かに変わる。


「それがあれば、本物の聖弓や聖なる武器を得ることができるのか?」


「断言はできません」


シャルバートは静かに答えた。


「ですが、可能性はあります」


「それを、あなたは所持しているということか?」


「いいえ」


またしても、シャルバートは首を横に振った。


「では、どうやって作った?」


問いに対して、シャルバートは答えなかった。


代わりに、ゆっくりと自分の頭を指差す。


「参考にしたものは、ここにあります」


「……」


「私の記憶の中です」


あまりにも自然な口調だった。


まるで、それが特別なことではないかのように。


レオンハルトが目を見開く。


そして、レオニスも驚愕した。


「私は、記憶しようとして目にしたものを忘れることはありません」


それは、映像記録。


フォトグラフィック・メモリーと呼ばれる能力だった。


見たものを、そのまま記憶する。


しかし。


「ですが、それも完全ではありません」


シャルバートは淡々と続ける。


「私が記憶したものは、全体の八割程度です」


「……八割?」


「ええ」


「八割で、冥王を傷つけられるほどの力を作ったというのか?」


レオンハルトの声が、僅かに震えた。


八割。


それだけの情報しかない。


それでも、冥王に傷を与える武器を生み出せた。


ならば。


完全な知識があれば。


あるいは――。


聖録そのものがあれば。


冥王を打倒できる力を得られるのではないか。


(……もしかして)


レオニスの中で、ひとつの考えが浮かぶ。


(その“聖録”とやらに、“勇者の儀”の正体が隠されているのか?)


これまで積み重なった情報が、一本の線になりつつあった。


だが。


「期待しないようにしなさい」


「……?」


シャルバートの言葉が、その思考を止めた。


「あれは原典ではありません」


静かな声だった。


「写本です」


「……」


「故に、危険なものなのです」


シャルバートは、レオンハルトを諭すように続ける。


「私は、あれの八割を見ました」


「その結論を言うと?」


レオンハルトが問う。


シャルバートは、僅かに目を伏せた。


「おそらく――」


そして、静かに告げる。


「写本は、原典のすべてを写してはいないのです」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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