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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の旅編
175/235

旅の記録(7)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(アウレリア!?どういうことだ!?)


レオニスは叫びたかった。


目の前にいる少女は、確かにアウレリアと名乗った。


だが、これはレオンハルトの記憶。


レオニス自身が問いかけることはできない。


ただ見ているしかない。


その事実が、ひどくもどかしかった。


そんな中でも、レオンハルトは目の前の少女が何者なのかを問わなかった。


まだ、思考が定まっていない。


ただ一つ。


自分が生きている理由だけを求める。


「……なぜ、俺は……生きている……?」


レオンハルトの脳裏に、最後の光景が蘇る。


冥王を撃ち抜いた、遠くから飛来した光。


それが最後の記憶だった。


「冥王は……どうなった……」


「あの蝶の翅みたいなのが生えた奴のことなら、どっかに飛んでいったわよ」


「……奴も、生きている……のか」


「たぶんね」


少女はあっさりと答えた。


レオンハルトは、再び目を閉じようとした。


だが――閉じることができない。


眠ることすら、許されない。


身体は動かない。


剣を握ることもできない。


そして何より――。


何もできなかった。


文字通り。


すべてを失った。


最愛の女性。


リオネーラ。


最高の親友。


セレグナス。


そして――。


自分自身の矜持さえも。


レオンハルトの奥歯が、ぎりりと鳴った。


「……俺は、すべてに誓う!」


動かない身体。


それでも声だけは、止まらなかった。


「冥王は、俺が必ず滅ぼす!」


憎悪に満ちた言葉ではない。


それは、己自身へ叩きつける誓いだった。


「だが、今は駄目だ!」


「俺には力がない!」


「あいつとの差が、あり過ぎる!」


「それでは……誓いが果たせない!」


一度、言葉を切る。


そして。


「だが、見ていろ……先の未来を!」


「必ず奴を倒す術を見つける!」


「そして――必ず誓いを果たす!」


それは、破ってはならない誓約。


自らに課した、禁忌とも呼べる決意だった。


死に限りなく近づいたレオンハルトという存在を、それでも現世へ繋ぎ止める。


冥王を倒す、その時まで。


死ぬことすら許さない。


その道を、レオンハルトは自ら選んだ。


「……アウレリアと言ったな」


「一つ、問いたい」


「何?」


「俺の命を救ったのは、君か?」


「ああ、それ?」


少女は、当然のことのように答えた。


「あの場で動いていた人間は、あんた一人だったからね」


「まだ生きている人間を、捨て置けないでしょ」


その言葉に、レオンハルトは目を細めた。


「では……あの時、冥王を攻撃したのも君か?」


目覚める前の記憶。


あの光が幻でなければ。


冥王は確かに、その一撃に苦しんでいた。


「まぁ、そうね」


少女は、あっさりと認める。


「あたしがやった」


その瞬間。


レオンハルトは確信した。


――冥王を倒す力は、この世界に存在する。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「そういや、あんたの名前は?」


少女が尋ねる。


「……レオンハルト」


「じゃあ、あんたは――レオンだね」


「…………」


その言葉を聞いた瞬間。


レオニスは、思わず息を呑んだ。


(……レオン……?)


偶然。


そう考えることもできる。


だが、レオニスは知っていた。


アウレリアは、人の名前を短く呼ぶことがある。


グラーディスを「グラディ」。


イシュリアンを「リアン」。


本人の許可など気にすることもなく、親しげな呼び方へ変えてしまう。


目の前の少女も、同じだった。


(……こんな偶然が、本当にあるのか……)


(どういう因果なんだ……)


レオニスには、このアウレリアの過去が分からない。


何者なのかも。


なぜ、ここにいるのかも。


それでも、レオンハルトは一つの疑問を抱いていた。


「アウレリア」


「うん?」


「君の使った力は、一体何だ?」


「どのようにして身に着けた?」


レオンハルトは、アウレリアの力を疑っていた。


長い修練を積んだ。


戦士として、己を鍛え抜いた。


自分こそが最強の戦士である。


そう信じていた。


――今となっては、その自信は粉々に砕かれている。


それでも。


目の前の少女が、自分より強い戦士には見えなかった。


「どうやって、冥王に攻撃したんだ?」


「ああ、これだよ」


アウレリアは、傍らに置いていたものを手に取った。


そして、レオンハルトへ差し出す。


「……弓?」


それは、レオンハルトが見たこともない弓だった。


白と銀を基調とした本体。


そこへ青と金の装飾が施されている。


武器としての機能だけを求めた形ではない。


複雑でありながら、どこか神聖さすら感じさせる。


「『聖弓』というらしいよ」


「……どうやって手に入れたんだ?」


「手に入れたというか、貸してもらってる」


「貸してもらっている?」


「うん」


「……俺にも使えるのか?」


「無理だろうね」


アウレリアは、あっさりと言った。


「あたしにしか使えないって言ってたから」


断言だった。


(……聖剣ではないのか?)


レオニスの時代に、聖弓という武器は存在しない。


聖剣。


聖槍。


聖盾。


聖杖。


それらとは別に、新たな聖なる武器が存在している。


(……これが同種のものだというのなら)


(この時代にも、姫巫女フィデリアに相当する人物がいることになる)


疑問は、さらに増えていく。


「貸してもらっていると言ったが……誰からだ?」


「誰が、こんな武器を作れるというのだ?」


レオンハルトの問い。


それは、そのままレオニスが知りたい問いでもあった。


(そうだ……)


(その人物は、一体誰だ?)


「うーん」


アウレリアは少し考える。


「作ったかどうかは知らないけど、その人の名前は……」


一拍。


少女は、少しだけもったいぶるように間を置いた。


そして――。


「シャルバート様」


「…………」


レオニスの思考が止まった。


(まさか……その名前は!?)


シャルバート・ウル・ヴァース。


それは――。


これより遥かな未来。


魔王国の宗主と定められることになる人物の名だった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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