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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
勇者の旅編
170/235

旅の記録(2)

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



報告を終えた部下が退室すると、レオンハルトは机の上に置かれた報告書へ目を落とした。


今回の戦闘による死者はゼロ。


だが、負傷者は数名。


その中には、重傷者も含まれている。


「……やはり、増えている」


魔物の数だけではない。


凶暴性も、確実に増している。


前月と比較すれば、増加率は五パーセント程度。


一月単位で見れば、誤差と呼べる範囲だ。


だが。


半年で見れば、話は変わる。


以前は百匹程度だった出現数が、今では百三十匹近くまで増えている。


三割近い増加。


親衛隊が討伐へ出る回数も、明らかに増えていた。


以前なら、負傷する隊員など稀だった。


今では違う。


出動するたびに、誰かが傷を負って帰ってくる。


「このまま進めば……二年も経てば、今年の三倍近い魔物が出現する」


呟きながら、レオンハルトは拳を握った。


――セレグナスには、静観してくれと言われた。


だが。


(確かに、この状況は静観すべきではないだろう)


レオニスにも、それは理解できた。


レオンハルトは迷っている。


それでも、状況そのものを正確に見ようとしていた。


少なくとも。


目の前の異変から目を逸らす人物ではない。


やがて、景色が変わった。


そこは家の中だった。


おそらく、レオンハルトの自室。


机に向かい、彼は一人で考え込んでいる。


――早めに原因を究明しなければならない。


セレグナスと会い、上に掛け合うべきではないか。


そんな考えが浮かんだ、その時だった。


「レオンハルト、いるかしら?」


「ああ。入ってくれ」


扉が開く。


入ってきたのは、深くフードを被った女性だった。


レオンハルトが扉を閉める。


すると女性は、ようやくフードを外した。


淡い金髪が、静かに零れる。


――リオネーラ。


だが、その姿にも変化があった。


(また……時間が経っているのか)


レオニスがそう考える間にも、二人の会話は続いていく。


「どうした?こんな遅くに」


「……話があるの」


リオネーラの表情は硬かった。


彼女が口にしたのは、自分の父親。


大神官の、不穏な動きについてだった。


「レオンハルトも気づいているのでしょう。最近の異変を……」


「それは……」


レオンハルトが言葉を濁す。


「わかってる」


リオネーラは静かに言った。


「セレグナスに口止めされているんでしょう?」


その言葉が、レオンハルトの胸を刺した。


沈黙。


だが次の瞬間。


リオネーラの口元が、僅かに緩んだ。


「あなたは、昔から分かりやすいから……」


「……嵌めたのか、俺を」


「そうよ」


リオネーラは微笑んだ。


けれど、その瞳は真剣だった。


「でも、そんなレオンハルトだから信じられる」


そして。


まっすぐに彼を見つめる。


「お願い。私に力を貸して」


――俺は、判断を間違えた。


その声だけが。


レオニスの胸へ、深く沈んだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



また、場面が変わった。


レオンハルトの視線の先にあったのは、何段か高い位置に設けられた席だった。


そこに、この街の大神官が座っている。


その前に、レオンハルトは立っていた。


「……大神官様。報告がございます」


告げられたのは、最近になって増加している魔物についてだった。


街の周辺に張られた結界。


それによって、本来なら魔物の接近は稀なはずだった。


だが、出現数は増えている。


討伐に向かった親衛隊にも、負傷者が出始めていた。


それは間違いのない事実だった。


――■■■■■■■■■■■■。


「……つきましては、対応のため、兵力の増強と装備の強化をお願いしたく参上しました」


「……レオンハルト。その報告は事実か?」


大神官の声は静かだった。


(……何だ?)


レオニスには、レオンハルトが何を考えているのか分からなかった。


いつものように強い感情が流れ込んでくることもない。


「……はい。残念ですが、事実です」


「……そうか」


大神官はしばらく考える素振りを見せた。


そして、問いかける。


「結界が弱まっているというが、お前は直接調査したのか?」


「いえ。大神官様に許可をいただければ、さらに調査を進めたいと考えております」


レオンハルトは真っ直ぐに答えた。


「民に被害が出る前に、原因を究明し、被害を食い止めたいと考えます」


(正論だ)


レオニスにも、それは分かった。


レオンハルトが間違った判断をしているようには見えない。


「ああ、分かった。レオンハルト」


大神官は、そう答えた。


だが。


次の瞬間、その右手がゆっくりと上がった。


「これは、極めて繊細な問題だ。そのことを理解しておるか?」


「……と、おっしゃいますと?」


「隠し事はするな。事実を話せと言っている」


その言葉に、レオンハルトの心音が大きく響いた。


「申し訳ありません、大神官様。私には、その質問の意味が理解できません」


レオンハルトの声に、嘘はなかった。


(……まさか、二人のことでは?)


レオニスの中に、そんな考えが浮かぶ。


だが、確証はない。


「あくまで、真実を話さんというのか?」


「恐れながら、大神官様のおっしゃる真実とは、如何なることでしょうか?」


レオンハルトは、本当に分からなかった。


だからこそ、大神官の次の言葉は唐突だった。


「レオンハルト」


「はい」


「お主を親衛隊隊長に任命したのは私だ」


「……はい。その通りであります」


「……私は、お主を信じたかった」


大神官は、深く息を吐いた。


「……レオンハルト。しばらくの間、お主の親衛隊隊長の任を解く」


「な……何故!?」


「衛兵よ」


大神官は、レオンハルトを見なかった。


「レオンハルトを、しばらく拘束せよ」


「お待ちください!」


レオンハルトが声を上げる。


だが、衛兵たちは動いた。


剣を抜くことすらない。


ただ、淡々と彼の両脇を固める。


(……馬鹿な)


レオンハルトの心に、初めて明確な動揺が生まれた。


(何故、こんなことに……)


理由は告げられなかった。


罪状すら、知らされなかった。


それでも。


レオンハルトは牢へと連れて行かれた。


何も理解できないまま。


ただ、理不尽だけが残された。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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