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勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
魔王国編
168/235

最後の質問

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(……迫ることは出来る……)


レオニスは、最後の質問を決めた。


これまでの二つとは違う。


直接、真実を尋ねるものではない。


だが。


もし、この質問に意味があるのなら。


これまで考えてきた推論を、一つ先へ進めることが出来る。


(……小賢しい知恵で思いついた、最も確信に近づくための答え……)


危険な賭けだった。


そして。


残された質問は、もうない。


額から汗が流れ落ちる。


目の前にいる男は、変わらず静かだった。


レオニスの命など、ヴァルドにとっては簡単に奪える。


だからこそ。


この場で命を賭けると言葉にすることには、意味があった。


「……最後の質問です……」


心臓の音が、やけに大きく聞こえる。


これは、ほとんど反則に近い質問だった。


提示された条件を利用しながら、その外側を突こうとしている。


だが。


通れば。


自分にとって、これ以上ない札になる。


「命の対価を払えば、勇者の儀の真実に迫れますか!」


レオニスは、ヴァルドを見返した。


(……命を差し出すなら、真実を勝ち取る……)


一瞬。


ヴァルドの金色の瞳が、わずかに細められた。


「……確かに」


静かな声だった。


「その質問に答える回答は、事前に提示していなかったな」


沈黙ではない。


だが。


肯定でも、否定でもなかった。


レオニスは眉を寄せる。


ヴァルドは少しだけ考えるように目を伏せた。


「あえて言うなら」


そして。


「私には、わからない……だ」


「……?」


予想していなかった答えだった。


ヴァルドほどの存在ならば、知らないことなどない。


少なくとも。


レオニスは、そう考えていた。


「物事は多面的だ」


ヴァルドは言った。


「真実は、一つとは限らない」


その声は静かだった。


「ある場面だけを切り取れば、それは真実に見えるだろう」


「だが、それだけで全てを知ったことにはならない」


ヴァルドの視線が、遠くへ向けられる。


そこにいたのは。


誰にも届かない場所から全てを見下ろす超越者ではなかった。


むしろ。


過去を知り。


そして、その過去を振り返っている一人の人間のようにも見えた。


「約束を破る代わりに」


ヴァルドは再び、レオニスを見る。


「私が、君に札を一枚見せよう」


レオニスの表情が変わる。


「真実の全てではない」


「一端の内容を教えよう」


「……内容は……」


「儀式の始まりに関することだ」


空気が張り詰める。


ヴァルドは、今度はレオニスを試していた。


「君が、それを知るために命を払う価値があると判断したのなら」


一拍。


「コールしたまえ」


ヴァルドの声に、感情はなかった。


だが。


だからこそ、その言葉は重かった。


「賭け金は、君の命だ」


そう告げる。


レオニスの前へと、その真実に迫るためのカードを晒した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(……“勇者の儀”のはじまり……)


レオニスは、目の前に置かれたカードを見つめた。


その価値は、想像していた以上に大きい。


“勇者の儀”。


王国では、幾度となく行われてきた儀式。


王も、教皇も、それを王国の宿願と語っていた。


だがレオニスが調べた王国の記録には、その儀式が何のためにはじまったのかを示す記述はなかった。


聖導師であるイシュリアンですら、その起源を知らない。


ならば“勇者の儀”が、何のためにはじまったのか。


それを知ることができれば。


自分たちが向かおうとしている場所に、どんな意味があるのか。


誰も知らない到着点に、何が待っているのか。


その答えに近づける。


まるで、目の前に置かれた魅惑の果実だった。


――命を対価にしてでも、手を伸ばす価値がある。


レオニスは、そう判断した。


だが同時に、どうしても理解できないことがあった。


ヴァルドは、それほどのことを知っている。


それにもかかわらず。


“勇者の儀”が達成されることを望んでいるのかという問いには、肯定もしなかった。


否定もしなかった。


どちらでもない。


(……この人は、何者なんだ……)


レオニスは、改めてヴァルドを見る。


“勇者の儀”のはじまりを知っている。


その事実だけで十分だった。


もし、これまで聞いたヴァルドの言葉がすべて真実なら。


彼は“勇者の儀”が生まれた、その時から何らかの形で関わっている。


その可能性が、レオニスの中で現実味を帯びていく。


手が震えた。


手だけではない。


全身が震えている。


大地を踏んでいるはずなのに、その感覚すら曖昧になっていく。


それでも逃げるつもりはなかった。


自棄になったわけでもない。


レオニスには、ひとつの確信があった。


だからこそ。


震える唇を開く。


「……コールします」


乾ききった喉から、どうにか声を絞り出した。


ヴァルドは、静かに頷いた。


「よかろう。君の覚悟を受け取った」


そして。


ゆっくりと、人差し指をレオニスへ向ける。


「君には、君たちが“勇者の儀”と呼んでいるものの、はじまりを体験してもらう」


「た、体験……?」


予想していなかった言葉に、レオニスは目を見開いた。


「原初の勇者と、君たちが呼んでいる存在の追憶だ」


ヴァルドの黄金の瞳が、静かにレオニスを捉える。


「それを自身の目で見て、考えてみるといい」


「それが、真実の一端となりうる」


それが。


レオニスが意識できた、最後の言葉だった。


次の瞬間。


世界が消えた。


視界は白く染まり。


レオニスの意識は、まったく別の場所へと引き込まれていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

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