表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者は神になれない  作者: ふたり旅団
魔王国編
132/136

俺のとっておきを見せてやる

◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ロウガは静かに息を整えた。


右腕を覆っていた獣の力を解き放ち、人としての姿へ戻る。


獣人変化は絶大な力を引き出す切り札だ。


だが、その代償として体力の消耗も激しい。


長期戦になれば不利になる。


(今は燃費を抑えるのが最良だ)


琥珀色の瞳は、レヴェナントだけではなく、その背後で見守るノクスも捉えていた。


ノクスは一歩も前へ出ない。


まるで舞台の演出家のように、戦いを眺めているだけだった。


次の瞬間。


漆黒のハルバードが頭上から轟音とともに振り下ろされる。


ロウガは半歩だけ身をずらし、その一撃を紙一重で躱した。


だが、地面へ叩きつけられるはずだった刃が、不自然な軌道を描く。


地面に触れる寸前。


まるで獣が牙を剥くように、下から鋭く跳ね上がった。


(馬鹿力め!)


予測を超えた軌道だった。


回避が一瞬遅れる。


頬を鋭い刃が掠め、深く裂いた。


鮮血が夜風へ散る。


しかし、レヴェナントは止まらない。


追撃。


さらに追撃。


巨大な武器とは思えない速度で連撃を繰り出し続ける。


受ければ骨ごと砕かれる。


避けても余波が肉を裂く。


ロウガの肩、腕、脇腹へと浅い傷が次々と刻まれていく。


それでも視線は、一度もノクスから逸れなかった。


刹那。


ロウガは左手の指を軽く弾く。


乾いた音だけが響く。


何も放たれていない。


そう見えた。


だが次の瞬間。


空気そのものが細く裂け、透明な刃となって一直線にノクスへ走る。


肩を貫く。


さらに二発。


三発。


十発。


数十もの真空の刃が暴風雨のように襲いかかり、黒衣を切り裂き、全身を寸断した。


「そんな小技に、ここまでの威力を持たせるとは大したものだ」


仮面の奥から、楽しげな声だけが響く。


「並みの者なら、これだけで十分倒せるだろう」


「暗殺者にでも転向したらどうかね」


裂けた身体が黒い煙のように揺らぐ。


肉が繋がる。


骨が戻る。


衣まで元通りになり、最後には肩の傷さえ跡形もなく消え去った。


「だがボクに、そんなものは通じないよ」


「残念だったね。君は無力だ」


ノクスは肩を竦める。


その態度には焦りも痛みも存在しない。


「……如何なる攻撃も、ボクたちの不滅の肉体には通じない……」


ロウガは返事をしない。


代わりに、レヴェナントの一撃を肘で受け流し、距離を半歩だけずらす。


その瞳は静かだった。


傷を負うたび、情報は増える。


ノクスは決して近づかない。


レヴェナントは倒しても影へ戻り、完全な姿で現れる。


そして二体は、まるで一つの意思で動いている。


偶然ではない。


すべて繋がっている。


点だった違和感が、一本の線になり始めていた。


(そういうことか……)


胸中で呟く。


まだ確信には至らない。


だが、試す価値は十分にある。


狼の耳がわずかに動いた。


風が鳴る。


ロウガは低く腰を落とし、静かに構え直した。


次の一手で。


この不死の正体を暴く。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



レヴェナントの猛攻を受け流しながら、ロウガの視線は相手ではなく、その先に立つノクスへ向けられていた。


違和感は、こいつらの不自然な再生能力。


傷を負っても、壊れても、まるで最初から何事もなかったように元へ戻る。


それは回復ではない。


もっと別の理屈だ。


レヴェナントが再びハルバードを振り下ろす。


ロウガは半歩だけ踏み込み、その柄を掴んだ。


重量級の武器が軋む。


そのまま獣のような膂力で捻り上げると、武器は持ち主の手を離れた。


「使わせてもらうぞ!」


右腕が再び獣人変化を起こす。


筋肉が膨れ上がり、銀色の体毛が逆立つ。


巨大な獣腕がハルバードを振り抜いた。


「もう一度死んでこい!」


暴風を伴った一閃。


黒い甲冑の脚部が両断され、レヴェナントの巨体が崩れ落ちる。


「無駄なことを」


ノクスが静かに呟く。


足元の影が液体のように伸び、倒れたレヴェナントを飲み込んだ。


その間にも、ロウガの右腕はさらに膨張する。


周囲の風が渦を巻き、奪い取ったハルバードへ収束していく。


「レヴェナント!」


呼び声と共に影が裂けた。


漆黒の甲冑が再び姿を現す。


傷一つない。


そして。


ロウガに奪われたはずのハルバードまで、当然のようにその手に握られていた。


(……そういうトリックか)


確信が走る。


ロウガは手元のハルバードを大きく振りかぶった。


獣腕の膂力。


風の加速。


常人では投げることさえ叶わぬ巨大武器が、一筋の暴風となって放たれる。


据え置き式の巨大な弩砲すら霞む威力だった。


轟音。


ノクスの上半身が吹き飛ぶ。


黒い肉片が宙を舞う。


「無駄だよ。ボクには通じない」


軽い声だけが響いた。


砕け散った肉体が、時間を逆再生するように元へ戻っていく。


飛び散った破片が引き寄せられ、切断面が閉じ、最後には衣服の乱れすら消えていた。


「そういうことなのか」


ロウガは静かに息を吐く。


あまりにも綺麗すぎる再生。


傷だけではない。


時間そのものが巻き戻されたかのような復元だった。


「まさかとは思ったが、時間を巻き戻せるのか」


「おそれいったよ。ボクの力にそこまで迫ったか」


ノクスは仮面の奥で笑う。


「正確には、一定時間前の自分と入れ替わる。それがボクの力さ」


不用意に前へ出ない理由。


傷つくことを避け続けた理由。


すべてが一本の線で繋がった。


「なるほど。そいつは凄いな」


ロウガは獰猛な笑みを浮かべる。


「そして、相方の隠れ蓑になっているとはな。見事に騙された」


投げ放ったハルバードは大きく弧を描き、ノクスの足元の影へ落下する。


その瞬間。


影そのものが慌てるように横へ逃れた。


ロウガの琥珀色の瞳が細くなる。


「そっちがお前の本体か、レヴェナント」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ロウガは静かに拳を構え直した。


琥珀色の瞳は、黒い仮面の道化ではなく、その足元に落ちる影を見据えている。


「レヴェナント。お前は不死なんて能力じゃない」


一拍置き、断言する。


「あの甲冑を、どこからか召喚して操る能力ってところだろ」


ノクスの仮面がわずかに傾いた。


レヴェナントは相変わらず微動だにしない。


だが、その沈黙すら今は演出の一部に思えた。


最初は、二体とも再生能力を持つのだと考えていた。


しかし、違和感は積み重なっていた。


レヴェナントは影へ回収された直後、間を置かず姿を現す。


しかも傷だけではない。


奪われた武器までも、当然のように元へ戻っていた。


それは再生では説明がつかない。


壊れた甲冑を回収し、新たな甲冑と入れ替える。


そのすべてを、ノクスの影に擬態することで隠していた。


「口がきけないのも、フェイクというところか」


「流石にそこまでは作っていないさ」


ノクスは肩をすくめる。


「レヴェナントが喋れないのは事実だよ」


「どうだかな」


ロウガは鼻で笑う。


「この謎解きとて、完全ではないかもしれんからな」


「なるほど。力だけではなく、頭も回るようだね」


軽い拍手が荒野に響く。


まるで正解者を称える教師のような態度だった。


その余裕が、逆に答えを物語っている。


(七十点、といったところか)


ロウガは内心でそう結論づけた。


レヴェナントの正体は大筋は掴めた。


だが、まだ届いていない部分がある。


とりわけノクスの能力。


時間を巻き戻す。


一定時間前の自分と入れ替わる。


本人はそう語った。


だが、あれが真実とは思えなかった。


時間に干渉するほどの力なら、それに見合う魔力の奔流が生じるはずだ。


しかし、その兆候はない。


まるで呼吸をするように能力を使っている。


あまりにも自然すぎた。


(何かをごまかしている)


そう確信できても、証明には至らない。


そして現実は、何一つ変わっていなかった。


(毒はほぼ抑えた。だが、力は戻らん)


体内を巡る毒は制御できている。


それでも本来の力には届かない。


万全なら押し切れる相手でも、今はそうはいかない。


(それに、奴らの戦術も攻略したわけじゃない)


見抜いたのは奇術の仕掛けにすぎない。


舞台裏を少し覗いただけだ。


再生を繰り返す戦法そのものは、なおロウガを追い詰め続けている。


弱体化したまま、この包囲を突破するのは容易ではない。


だからこそ。


腹を決めるしかなかった。


ロウガは重心を深く落とし、静かに構える。


その全身から空気が張り詰めていく。


「喜べ」


獰猛な笑みが浮かんだ。


「俺のとっておきを見せてやる」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ