女子校に入学しました(バレたら即終わりです)
第八章 一ノ瀬理央
翌朝。
私は人生で二番目くらいに緊張していた。
ちなみに一番は女子校へ入学すると決まった日である。
あれを超えるイベントはそうそうない。
たぶん。
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教室へ向かう廊下。
私は深くため息を吐いた。
昨日のことを思い出していた。
保健室。
体力測定。
そして。
一ノ瀬理央。
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(絶対怪しまれてるよなぁ……)
間違いない。
あの視線。
あの反応。
完全に何かを疑っていた。
問題は。
どこまで気付いているかだった。
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私は教室へ入る。
すると。
そこに問題の人物がいた。
一ノ瀬理央。
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窓際の席。
本を読んでいる。
昨日と同じ。
いつ見ても絵になる。
だが。
今の私からすると恐怖の対象だった。
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(見ないようにしよう)
(関わらないのが一番だ)
私は自分の席へ向かった。
その時だった。
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「柏木さん」
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止まる。
心臓も止まりそうになる。
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恐る恐る振り返る。
理央が立っていた。
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「少しお話いいかしら」
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終わった。
私の高校生活が終わった。
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「な、なにかな?」
女子モード全開で答える。
声が少し裏返った。
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理央は静かに言った。
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「昼休みに時間をいただける?」
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予想外だった。
今じゃないらしい。
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「昼休み?」
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「ええ」
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「別にいいけど」
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「ありがとう」
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理央はそれだけ言って席へ戻った。
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私は席へ座る。
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そして。
机に突っ伏した。
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(なんだあれ)
(怖い)
(怖すぎる)
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完全に面談のお知らせだった。
先生に呼び出される時より怖い。
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「おはよー!」
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ひまりが飛び込んでくる。
元気である。
朝から元気すぎる。
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「元気ないね!」
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「ちょっとね」
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「また倒れる?」
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「倒れないよ」
たぶん。
精神的には倒れそうだが。
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美月もやってくる。
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「体調どう?」
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「もう大丈夫」
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「よかった」
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優しい。
本当に優しい。
なおさら正体がバレたくない。
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そんなことを考えているうちに。
午前の授業は終わった。
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昼休み。
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運命の時間だった。
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理央が立ち上がる。
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「柏木さん」
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呼ばれた。
終わった。
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私は観念して立ち上がる。
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「どこ行くの?」
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美月が聞く。
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「ちょっと話してくるだけ」
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「ふーん」
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ひまりは何も考えていなさそうだった。
助かる。
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理央に連れられて向かった先は中庭だった。
昼休みだというのに人が少ない。
静かな場所。
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逃げ場がないとも言う。
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「それで」
私は聞く。
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「話って?」
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理央はしばらく黙った。
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そして。
まっすぐ私を見る。
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眼鏡の奥の瞳。
鋭い。
本当に鋭い。
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そして。
理央は言った。
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「柏木さん」
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「うん」
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「あなた、本当に女子なの?」
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心臓が止まった。
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完全に。
本当に完全に。
止まったと思った。
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「え?」
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必死に平静を装う。
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理央は続ける。
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「違和感があるの」
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「違和感?」
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「ええ」
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理央は指を折りながら説明を始めた。
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「姿勢」
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ぎくり。
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「歩き方」
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ぎくり。
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「言葉遣い」
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ぎくり。
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「反応」
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ぎくり。
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全部だった。
全部見られていた。
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探偵かこの人は。
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「考えすぎじゃないかな」
私は笑う。
必死に。
とにかく必死に。
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理央は黙る。
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数秒後。
小さくため息を吐いた。
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「そうね」
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「あはは」
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「証拠はないもの」
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証拠。
その単語に冷や汗が流れる。
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だが。
理央は意外にも追及をやめた。
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「ごめんなさい」
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「え?」
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「変なことを聞いたわ」
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そう言って頭を下げる。
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私は少し拍子抜けした。
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もっと追及されると思っていた。
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「気にしてないよ」
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「ありがとう」
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理央は微かに笑った。
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その笑顔を。
私は初めて見た。
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意外だった。
冷たい人かと思っていた。
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でも違う。
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理央はきっと。
真面目すぎるだけなのだ。
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その時だった。
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「いたーーー!」
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聞き慣れた声。
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ひまりだった。
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美月もいる。
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さらに。
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「探したわよ」
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九条綾乃までいた。
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なんで全員来るんだ。
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「お昼食べよ!」
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ひまりが叫ぶ。
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「理央も一緒に!」
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「え?」
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今度は理央が固まる番だった。
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「だめ?」
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ひまりが聞く。
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「・・・別に」
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理央は少しだけ頬を染める。
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その様子を見て。
私は思った。
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この人。
案外押しに弱いのかもしれない。
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こうして。
昼食メンバーは五人になった。
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朝倉美月。
小鳥遊ひまり。
九条綾乃。
一ノ瀬理央。
そして私。
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賑やかな昼休みだった。
本当に。
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だけど。
問題は終わっていなかった。
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理央は確かに謝った。
追及もやめた。
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だが。
私には分かる。
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あの目は。
まだ諦めていない。
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一ノ瀬理央は。
まだ私を疑っている。
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そして。
そんな彼女が。
放課後。
さらに意外な提案をしてくることを。
この時の私はまだ知らなかった。
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第八章 一ノ瀬理央 完




