女子校に入学しました(バレたら即終わりです)
第七章 保健室
体力測定が始まった。
私は今。
人生で一番緊張しながら身長計の列へ並んでいた。
理由は単純。
男だからである。
そして女子校だからである。
終わっていた。
色々と。
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(落ち着け)
(まだ大丈夫だ)
私は自分へ言い聞かせる。
身長くらいなら問題ない。
最近は背の高い女子も多い。
百七十センチ近くあっても不自然ではない。
問題はその後だった。
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「次、柏木さん」
先生が呼ぶ。
順番が来た。
私は身長計へ乗る。
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「百六十九・八ね」
先生が記録する。
セーフ。
たぶんセーフ。
少なくとも誰も騒いでいない。
助かった。
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しかし。
安心したのも束の間だった。
次は体重測定である。
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(終わった)
私は思った。
心の底から。
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叔母から渡されていた対策資料。
その中には書いてあった。
「絶対に体重測定を回避しなさい」
と。
ふざけるなと思った。
今となっては正論だった。
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私がどうやって逃げようか考えていると。
突然。
視界が揺れた。
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「あれ……?」
立ちくらみ。
昨日からまともに眠れていない。
緊張続きだった。
身体が限界を迎えていた。
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「柏木さん!?」
誰かの声。
美月だった。
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次の瞬間。
足から力が抜ける。
景色がぐらりと傾いた。
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「危ない!」
誰かに支えられる。
柔らかい香りがした。
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そのまま。
私の意識は少しだけ遠のいた。
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・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・
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気が付くと。
白い天井が見えた。
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「ここは……」
保健室だった。
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「起きた?」
優しい声。
横を見る。
九条綾乃が椅子へ座っていた。
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「九条さん?」
「気分はどう?」
「えっと……大丈夫」
正直あまり大丈夫ではない。
状況的に。
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「急に倒れたのよ」
綾乃が言う。
「先生も心配していたわ」
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私は慌てて起き上がった。
そして気付く。
測定。
体重測定。
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「あっ!」
思わず声が出る。
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「なに?」
綾乃が驚く。
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「体力測定……」
「途中で中断になったわ」
「え?」
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綾乃は頷いた。
「保健室へ運ばれたから」
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救われた。
本当に。
心の底から。
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私は生まれて初めて。
倒れてよかったと思った。
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「安心した?」
綾乃が聞く。
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「えっ」
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「顔に出てる」
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ぎくり。
最近みんな鋭すぎる。
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「そんなに体力測定が嫌だったの?」
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鋭い。
無駄に鋭い。
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「まあちょっと」
誤魔化しておく。
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「変な人ね」
綾乃は小さく笑った。
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その笑顔に。
少しだけ見とれそうになる。
危ない。
危険だ。
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私は慌てて視線を逸らした。
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すると。
綾乃がペットボトルを差し出してくる。
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「はい」
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「ありがとう」
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「無理しないで」
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優しかった。
思っていた以上に。
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学校中で人気なのも分かる。
美人で。
優しくて。
頭も良い。
完璧じゃないか。
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欠点はないのだろうか。
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そう思っていると。
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「痛っ」
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綾乃が小さく声を上げる。
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「どうしたの?」
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「机の角にぶつけたの」
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あった。
普通にあった。
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少し安心した。
完璧超人ではなかったらしい。
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その時。
保健室のドアが開く。
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「悠ーーー!」
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ひまりだった。
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「大丈夫!?」
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「大丈夫だよ」
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「本当に!?」
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近い。
相変わらず近い。
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その後ろから美月も入ってくる。
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「心配したんだからね」
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「ごめん」
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少し申し訳なくなる。
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すると。
最後にもう一人。
保健室へ入ってきた。
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黒髪。
眼鏡。
冷静な目。
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一ノ瀬理央。
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私は少し硬直した。
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理央は静かに私を見る。
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そして。
保健室のカルテ棚へ視線を向けた。
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ほんの一瞬。
本当に一瞬だけ。
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だが。
私は見逃さなかった。
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理央は。
何かを探していた。
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まるで。
保健室でしか手に入らない情報を。
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「お大事に」
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理央はそう言った。
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それだけ言って。
保健室を出て行く。
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しかし。
私の胸には嫌な予感だけが残った。
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あの人はまだ疑っている。
むしろ。
以前より強く。
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そして。
私の勘は告げていた。
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次に動くのは。
きっと一ノ瀬理央だと。
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もちろん。
この時の私はまだ知らない。
翌日。
理央が私を呼び止め。
単刀直入にこう聞いてくることを。
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「柏木さん。
あなた、本当に女子なの?」
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第七章 保健室 完




