女子校に入学しました(バレたら即終わりです)
第六章 体育という名の危機
昼休みが終わった。
私は自分の席で静かに座っていた。
心は静かではなかった。
むしろ大荒れだった。
なぜなら。
時間割に書かれている次の授業が問題だった。
体育。
たった二文字。
しかし今の私にとっては死刑宣告に等しい。
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(体育かぁ……)
私は時間割を見つめる。
見つめても消えない。
当然だった。
現実はそんなに優しくない。
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「どうしたの?」
美月が声をかけてくる。
「顔怖いよ?」
「そうかな」
「怖い」
即答だった。
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ひまりも会話へ参加する。
「もしかして体育苦手?」
「まあ……ちょっと」
間違ってはいない。
得意でもない。
だが問題はそこじゃない。
圧倒的に。
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「大丈夫だよ!」
ひまりが胸を張る。
「私も苦手だから!」
「全然安心できないんだけど」
「あっはは!」
笑って誤魔化された。
理不尽だった。
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その時。
先生が教室へ入ってくる。
「体育だから更衣室で着替えてねー」
終了。
私の人生が終了した。
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(更衣室)
(忘れてた)
(いや忘れてない)
(考えないようにしてただけだ)
頭を抱えたくなる。
女子更衣室。
当然女子しかいない。
そして私は男だ。
状況が終わっている。
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「行こー!」
ひまりが立ち上がる。
「うん」
美月も続く。
私も立ち上がる。
足取りは重い。
死地へ向かう兵士のようだった。
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更衣室。
そこには大量の女子生徒がいた。
当然である。
女子校なのだから。
しかし今の私には恐怖の光景だった。
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(どうしよう)
(どうする)
(どうする俺)
入る前から心拍数が危険だった。
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そんな私を見て。
九条綾乃が首を傾げる。
「柏木さん?」
「えっ?」
「顔色が悪いわ」
ぎくり。
最近そればっかりだった。
みんな観察力が高すぎる。
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「ちょっと緊張してて」
「体育で?」
「うん」
「そう」
綾乃は納得したようだった。
助かった。
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しかし。
本当の危機はこれからだった。
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更衣室へ入る。
私は一番隅へ移動した。
目立たない場所。
最高である。
誰も近寄るな。
お願いだから。
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だが。
願いは三秒で砕け散った。
「悠ー!」
ひまりだった。
近い。
毎回近い。
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「一緒に着替えよう!」
「なんで!?」
危なかった。
思わず素が出かけた。
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「友達だから!」
ひまりは満面の笑顔だった。
意味が分からない。
友達の定義がおかしい。
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「私はここで大丈夫だから」
必死に断る。
すると。
美月もやって来た。
「柏木さん恥ずかしがり屋なんだね」
「そ、そうかも」
その設定で行こう。
今決めた。
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「じゃあ先に着替えとくね」
「うん!」
神だった。
美月は神だった。
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その隙に私はカーテン付きの簡易更衣スペースへ逃げ込む。
助かった。
本当に助かった。
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(ふう……)
私は大きく息を吐く。
今回ばかりは本気で危なかった。
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叔母から渡された対策グッズを確認する。
完璧。
問題なし。
今だけは叔母に感謝した。
一ミリだけ。
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数分後。
着替えを終えた私は外へ出る。
体育用ジャージ姿。
なんとか無事だった。
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「似合う!」
ひまりが言う。
またそれだ。
今日何回目だろう。
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「ありがとう」
反射的に答える。
もはや慣れてきてしまった。
少し複雑だった。
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その時だった。
「・・・」
視線を感じる。
一ノ瀬理央だった。
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理央はジャージ姿の私を見ている。
じっと。
静かに。
観察するように。
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(怖い)
本当に怖い。
なぜあの人だけ探偵みたいな視線なのだろう。
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「何かしら」
理央が呟く。
「え?」
「いえ」
それだけ言って視線を逸らした。
だが。
嫌な予感は消えなかった。
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グラウンドへ移動する。
春の風が吹いている。
天気は良い。
体育日和だった。
私以外には。
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「今日は体力測定を行います」
先生が言った。
歓声と悲鳴が上がる。
クラス中が騒がしくなる。
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私はひとつ安心していた。
走るのは別にいい。
問題は更衣室だけだった。
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そう思っていた。
甘かった。
非常に甘かった。
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「まずは身長と体重を測ります」
先生が言う。
沈黙。
そして。
私の脳内に警報が鳴り響く。
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(待て)
(今なんて言った)
(身長と体重?)
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嫌な汗が背中を流れる。
まずい。
とてもまずい。
体育より危険なイベントが出てきた。
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その時。
一ノ瀬理央がこちらを見る。
そして。
ほんの少しだけ。
口元を緩めた。
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まるで。
何かを見つけたような顔だった。
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私の女子校生活最大の危機は。
まだ始まったばかりだった。
第六章 体育という名の危機 完




