女子校に入学しました(バレたら即終わりです)
第五章 九条綾乃との昼食
午前中の授業が終わった。
チャイムが鳴る。
その瞬間。
教室の空気が一気に緩んだ。
「お昼だー!」
ひまりが元気よく立ち上がる。
元気すぎる。
授業中もちゃんと椅子に座っていたことが不思議なくらいだった。
「悠、一緒に食べよ!」
「もちろん」
美月も笑う。
「今日は中庭?」
「賛成!」
ひまりが即答する。
決定まで三秒だった。
民主主義とは何なのか。
私は鞄から弁当を取り出した。
その時だった。
「柏木さん」
突然声をかけられる。
振り返る。
そして固まる。
九条綾乃だった。
教室がざわつく。
ものすごくざわつく。
理由は分かる。
学校中の人気者が転校生へ話しかけているのだから。
私だって逆の立場なら見る。
たぶん。
「えっと……?」
私が困惑すると。
九条さんは静かに言った。
「ご一緒してもいいかしら」
止まる時間。
固まる私。
固まる美月。
固まるひまり。
数秒後。
最初に復活したのはひまりだった。
「もちろん!」
勝手に決まった。
いや別に嫌ではない。
嫌ではないが。
心の準備というものがある。
「ありがとう」
九条さんは小さく微笑んだ。
その瞬間。
周囲から悲鳴のような声が上がる。
「九条さんが笑った」
「レアだ……」
「尊い……」
人気アイドルかなにかだろうか。
本当に。
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数分後。
私たちは中庭へ移動していた。
春風が気持ち良い。
芝生も綺麗だ。
おしゃれな学校である。
改めて思う。
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「いただきます」
みんなで手を合わせる。
そして昼食開始。
私は少し安心していた。
食事中なら会話も落ち着くだろうと。
甘かった。
非常に甘かった。
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「悠のお弁当だ!」
ひまりが反応した。
早い。
気付くのが早い。
「美味しそう!」
「そうかな」
「そうだよ!」
ひまりは目を輝かせる。
私は弁当を見た。
普通だった。
叔母が作った弁当。
いや。
正確には学院専属の家政婦さんが作ったらしい。
叔母が料理できる未来は見えない。
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「綺麗だね」
美月も言う。
「彩りとか」
「あー確かに」
ひまりが頷く。
女子らしい会話だった。
男子校なら絶対に発生しない。
たぶん。
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「柏木さんは料理をなさるの?」
九条さんが聞いてきた。
ぎくり。
危ない質問だった。
男としてなら答えられる。
でも。
女子としてはどうだろう。
一瞬悩む。
「少しだけかな」
無難に答えた。
九条さんは頷く。
「素敵ね」
その一言で少し嬉しくなる。
男って単純である。
私だけかもしれないが。
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「九条さんのお弁当は?」
ひまりが聞く。
「見たい!」
すると。
九条さんは少しだけ困った顔をした。
そして蓋を開ける。
全員固まった。
すごかった。
本当に。
芸術作品みたいだった。
「すごっ」
思わず声が出る。
「料亭?」
美月も驚いている。
「毎日これ?」
ひまりが聞く。
九条さんは首を傾げた。
「普通だと思うけれど」
普通ではない。
絶対に。
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その後も会話は続いた。
好きな食べ物。
趣味。
休日の過ごし方。
他愛もない話。
意外なことに。
九条さんは話しやすかった。
静かな人ではある。
でも冷たいわけじゃない。
むしろ優しい。
必要な時にはちゃんと周りを見るタイプだ。
そんな印象だった。
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「そういえば」
九条さんが言った。
「転校してきてどう?」
ぎくり。
危ない。
本当のことは言えない。
なにせ。
女子校への潜入任務中である。
「みんな優しいから安心したかな」
これは本音だった。
美月も。
ひまりも。
九条さんも。
思っていたよりずっと良い人たちだ。
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すると。
九条さんは少し嬉しそうに目を細めた。
「それなら良かったわ」
綺麗だった。
いや違う。
何考えてるんだ私は。
危険だ。
非常に危険だ。
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その時だった。
背後から視線を感じる。
私は振り返る。
校舎の窓。
そこに。
一ノ瀬理央がいた。
眼鏡の奥の目がまっすぐこちらを向いている。
そして。
私と目が合った。
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一ノ瀬さんは。
すぐに視線を逸らした。
だが。
間違いなかった。
見られていた。
観察されていた。
まるで何かを調べるみたいに。
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「どうしたの?」
美月が聞く。
「ううん」
私は笑う。
誤魔化す。
でも。
胸の奥に嫌な予感が残った。
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楽しい昼食だった。
初めて学校が楽しいと思えた。
だが。
忘れてはいけない。
私は男だ。
そして。
この学校には。
私の秘密を疑い始めている少女がいる。
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一ノ瀬理央。
彼女は今。
少しずつ。
確実に。
私へ近付いていた。
もちろん。
この時の私はまだ知らない。
次の授業。
体育の時間が。
私の女子校生活最大級の危機になることを。
第五章 九条綾乃との昼食 完




