女子校に入学しました(バレたら終わりです)
第一話
女子校に入学しました(バレたら終わりです)
第三章 朝倉美月との出会い
「柏木さんの席は、一番後ろの窓側です」
担任の先生がそう言った。
私はほっとした。
一番後ろ。
しかも窓際。
かなり良い席だ。
目立たない。
先生からも離れている。
何かあっても誤魔化しやすそう。
今の私には最高のポジションだった。
(よし)
(とりあえず静かに過ごそう)
(目立たなければ勝ちだ)
そんなことを考えながら席へ向かう。
しかし。
その願いは座る前に消えた。
「こんにちは!」
右から顔が飛び出してきた。
近い。
びっくりするくらい近い。
私は思わず一歩下がった。
女子生徒は気にした様子もない。
明るい茶色の髪。
愛嬌のある笑顔。
ぱっちりした目。
そして異常なまでの人懐っこさ。
「あっ、ごめん!」
女子生徒は慌てて両手を振った。
「びっくりしたよね!」
「えっと……ちょっとだけ」
「だよね!」
悪びれる様子もなく笑う。
本当に明るい。
太陽みたいな人だと思った。
「朝倉美月です!」
元気いっぱいの自己紹介。
私は慌てて頭を下げる。
「柏木悠です」
「知ってる!」
「そうだよね」
「さっき聞いたもん!」
当たり前だった。
今自己紹介したばかりである。
美月は机に頬杖をつきながら私を見た。
じーっと。
かなりじーっと。
見られている。
すごく見られている。
落ち着かない。
(なんだ)
(なにかバレたか?)
(ウィッグずれてる?)
(メイク変だった?)
冷や汗が出る。
しかし次の瞬間。
美月は目を輝かせた。
「可愛い!」
「え?」
「すっごく可愛い!」
予想外だった。
思考が止まる。
可愛い?
私が?
男だけど。
いや今は女子なんだけど。
でも中身は男なんだけど。
混乱する。
「ありがとう……?」
とりあえず返事をした。
女子として。
ここは女子として受け流すべきだ。
そう自分へ言い聞かせる。
美月はさらに距離を詰めてきた。
近い。
本当に近い。
肩が触れそうな距離だった。
「肌綺麗だね!」
「そうかな?」
「うん!」
「髪も綺麗!」
「ありがとう」
「背も高いし!」
「そ、そう?」
褒められている。
たぶん褒められている。
でも素直に喜べない。
なぜなら全部、
女装の完成度を褒められているようなものだからだ。
男として色々複雑だった。
(嬉しくねぇ……)
(いやちょっと嬉しいか?)
(いや嬉しくない)
(どっちだよ俺)
頭の中が忙しい。
そんな私を見て、美月は楽しそうに笑った。
「面白いね!」
「そうかな?」
「うん!」
何が面白いのか分からない。
分からないが楽しそうなので良しとする。
いやよくない。
たぶん。
---
その後も美月の質問攻めは続いた。
「どこから来たの?」
「市内だよ」
「好きな食べ物は?」
「ラーメンかな」
「ラーメン!?」
なぜか驚かれた。
「変かな?」
「もっとケーキとか言うと思った!」
「それは偏見じゃないかな」
「確かに!」
あっさり認めた。
変な人だ。
でも悪い意味じゃない。
話していると不思議と緊張が和らぐ。
初対面なのに。
自然と会話が続く。
たぶん。
美月が人と距離を縮めるのが上手なんだと思う。
---
そんな時だった。
美月が突然言った。
「ねえ」
「なに?」
「友達になろ!」
「えっ」
あまりにも自然だった。
まるで、
今日お天気いいね。
くらいのテンションで言われた。
私は少し戸惑う。
「えっと……早くないかな?」
「そう?」
「まだ今日会ったばかりだし」
「でも話したじゃん!」
「そうだけど」
「じゃあ友達!」
即決だった。
恐ろしいほど即決だった。
美月は満面の笑みを浮かべる。
断る理由もなかった。
むしろ。
少し嬉しかった。
女子校。
女装生活。
バレたら終わり。
そんな不安しかなかった場所で。
最初に声をかけてくれた人だから。
「じゃあ……よろしくね」
そう言うと。
美月はぱっと笑った。
「うん!」
その笑顔は本当に眩しかった。
春の日差しなんかよりずっと。
---
(いい子だな)
私は窓の外を見ながら思う。
少しだけ。
本当に少しだけ。
肩の力が抜けていた。
女子校に入る前は思っていた。
味方なんて一人もいないと。
誰にも正体を知られてはいけない。
ずっと孤独だと。
でも。
違うかもしれない。
もちろん秘密は秘密だ。
絶対にバレるわけにはいかない。
だが。
友達くらいなら作ってもいいのかもしれない。
そんなことを思い始めていた。
---
そして。
その平和な時間は長く続かなかった。
休み時間。
教室のドアが勢いよく開いた。
「転校生だーーー!」
元気すぎる声が響く。
美月が苦笑した。
「あっ」
「どうしたの?」
「ひまり来た」
嫌な予感しかしなかった。
次の瞬間。
それは現実になる。
(なんだその反応)
(嫌な予感しかしないんだけど)
そして数秒後。
私はその意味を身をもって知ることになる。
第三章 朝倉美月との出会い 完




