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女子校に入学しました(バレたら終わりです)

第一話

女子校に入学しました(バレたら終わりです)


第二章 女子校へ


翌朝。


鏡の前に立つ。


紺色のブレザー。


胸元のリボン。


チェック柄のスカート。


肩まで伸びる栗色のウィッグ。


そして。


知らない女の子。


少なくとも客観的にはそう見えた。


「……」


鏡の中の自分と目が合う。


違和感しかない。


本当に俺かこれ。


昨日見た時も思ったが、何度見ても慣れない。


「ほら」


背後から叔母の声。


「完璧じゃない」


「嬉しそうだな」


「そりゃ嬉しいわよ」


「なんで」


「可愛いから」


「その基準で会話するのやめろ」


理事長とは思えない発言だった。


本当にこの人で大丈夫なのだろうか。


学校の将来が少し心配になる。


いや。


今は自分の将来を心配すべきだった。


圧倒的に。


---


「それじゃあ行ってらっしゃい」


「軽いなぁ……」


玄関で叔母が手を振る。


まるで普通の登校風景だ。


普通じゃないのに。


全然普通じゃないのに。


俺は深くため息を吐いた。


「本当に一年なんだよな?」


「そうよ」


「途中でやっぱり無理でしたってならない?」


「ならないわ」


「逃げてもいい?」


「だめ」


即答だった。


逃げ道がない。


俺は観念して家を出た。


---


春の朝。


空は青い。


風は穏やかだ。


桜の花びらが少しだけ舞っている。


季節だけ見れば最高だった。


季節だけなら。


(帰りたい)


まだ家から数十メートルしか離れていない。


それなのに帰りたい。


本気で。


---


電車に乗る。


周囲には学生の姿も多い。


しかし問題はそこではない。


視線だ。


自意識過剰かもしれない。


でも。


どうしても気になる。


(見られてないよな……)


(バレてないよな……)


(大丈夫だよな……)


心臓に悪かった。


---


そして見えてくる。


巨大な校門。


聖ルミナス女学院。


白いレンガ造り。


綺麗な花壇。


手入れの行き届いた中庭。


まるで外国の学校みたいだった。


叔母の趣味なのか知らないが、やたらとお洒落である。


しかし問題は別にあった。


生徒が全員女子だった。


当たり前だ。


女子校なのだから。


だが。


俺にとっては大問題だった。


右も女子。


左も女子。


前も女子。


後ろも女子。


見渡す限り女子。


女子。


女子。


女子。


「帰りたい……」


思わず声が漏れた。


すると。


横を通り過ぎようとしていた女子生徒が振り返る。


「おはようございます!」


「ひゃっ!?」


飛び上がった。


本気で。


女子生徒の方がびっくりしている。


沈黙。


気まずい。


ものすごく気まずい。


「えっと……」


「ご、ごめんなさい!」


俺は反射的に謝った。


すると相手も慌てる。


「こ、こちらこそ!」


なぜ謝り合っているのか分からない。


二人とも困惑したまま別れた。


(終わった)


(コミュニケーション能力が終わってる)


まだ校門も通っていない。


先が思いやられた。


---


校門をくぐる。


校舎へ向かう。


すると周囲から楽しそうな声が聞こえてくる。


「テストやばかったよねー」


「それなー」


「部活行く?」


「放課後カフェ寄ろ!」


普通だった。


驚くほど普通だった。


女子校と聞いてもっと特別な場所を想像していた。


でも実際は普通の高校生たちだった。


少しだけ安心する。


本当に少しだけ。


---


下駄箱。


教室。


廊下。


すれ違う女子生徒たち。


その度に緊張する。


視線を向けられるだけで心臓が跳ねる。


完全に不審者だった。


(落ち着け)


(私は女子)


(私は女子)


(私は女子)


自己暗示である。


かなり悲しい自己暗示だった。


---


一年二組。


教室の前へ到着する。


中から楽しそうな声が聞こえる。


笑い声。


会話。


机を動かす音。


どこにでもある教室。


ただ違うのは。


全員が女子であることだ。


そして。


その中へ飛び込まなければならないことだった。


(帰りたい)


今日三回目だった。


だが帰れない。


---


「大丈夫?」


突然横から声がした。


担任だった。


優しそうな女性教師である。


「顔色悪いけど」


「えっと……少し緊張してて」


ここからは女子モードだ。


一人称も変える。


話し方も変える。


男子らしさを消す。


これが今日からのミッションだった。


「初日だもんね」


先生は笑った。


「みんな良い子たちだから大丈夫よ」


「ありがとうございます」


先生の言葉に少しだけ肩の力が抜ける。


少しだけ。


本当に少しだけ。


---


ガラッ。


教室の扉が開く。


数十人分の視線が集まる。


終わった。


まだ何もしてないのに終わった。


先生が教壇へ向かう。


そして言う。


「みなさん、転校生を紹介します」


ざわり。


空気が揺れた。


全員がこちらを見る。


怖い。


すごく怖い。


逃げたい。


でも逃げられない。


俺は前へ出た。


教室の中央。


全員の視線が刺さる。


心臓が嫌な音を立てる。


大丈夫。


女子口調。


女子口調。


女子口調。


忘れるな。


「柏木悠です」


深呼吸。


そして微笑む。


「よろしくお願いします」


静かになる教室。


まずい。


失敗したか。


声が変だったか。


男っぽかったか。


バレたか。


人生終わったか。


そう思った瞬間だった。


「かわいい……」


後ろの方で誰かが呟く。


「え?」


「めっちゃかわいくない?」


「お人形さんみたい」


「肌白っ」


ざわざわ。


ざわざわ。


空気が一気に変わる。


方向性が違った。


非常に違った。


(これ喜ぶべきなのか?)


(男としては複雑なんだけど)


しかし安心した。


少なくともバレてはいない。


今のところは。


---


だが。


教室の前列。


ひとりだけ騒いでいない女子がいた。


黒髪。


眼鏡。


整った顔立ち。


理知的な雰囲気。


その女子だけが。


じっとこちらを見ていた。


観察するように。


分析するように。


何かを確かめるように。


そして。


小さく首を傾げる。


(なんだあの人)


(怖い)


本能が警報を鳴らしていた。


たぶん。


あの人とは関わらない方がいい。


そんな気がした。


もっとも。


この時の俺はまだ知らなかった。


あの少女。


一ノ瀬理央こそが。


これから俺の秘密へ最も近づく存在になることを。


第二章 女子校へ 完


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