↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/27

お泊り会は危険がいっぱい

第十七章 九条綾乃の秘密


夜は静かだった。


---


時計を見る。


---


午前二時半。


---


みんな寝ている。


---


ひまりは大の字。


---


美月はクッションを抱えている。


---


理央は静かに眠っていた。


---


私は目を開けたまま天井を見つめる。


---


眠れなかった。


---


理由は分かっている。


---


色々ありすぎたのだ。


---


恋バナ。


---


お風呂。


---


理央の追及。


---


精神的にはマラソンを完走した気分だった。


---


それなのに。


---


頭だけが妙に冴えている。


---


(麦茶でも飲もうかな)


---


私は静かに布団から抜け出した。


---


音を立てないように部屋を出る。


---


廊下は暗かった。


---


階段を降りる。


---


そして。


---


キッチンへ向かった。


---


◇◇◇


---


冷蔵庫を開く。


---


麦茶を取り出す。


---


コップへ注ぐ。


---


それだけで少し落ち着く。


---


一口飲む。


---


冷たかった。


---


「美味しい……」


---


思わず呟いた。


---


その時だった。


---


「同感ね」


---


声がした。


---


私は飛び上がりそうになった。


---


振り返る。


---


そこにいたのは。


---


綾乃だった。


---


「びっくりした……」


---


「ごめんなさい」


---


綾乃が小さく笑う。


---


どうやら向こうも眠れなかったらしい。


---


「綾乃も?」


---


「ええ」


---


冷蔵庫から麦茶を取り出す。


---


そして。


---


向かい側の椅子へ腰を下ろした。


---


深夜。


---


誰もいない食卓。


---


私と綾乃だけ。


---


少しだけ。


---


緊張する。


---


◇◇◇


---


「眠れないの?」


---


綾乃が聞く。


---


「うん」


---


私は頷いた。


---


「慣れない場所だから」


---


「分かるわ」


---


綾乃も頷く。


---


「私もそう」


---


意外だった。


---


「綾乃ってどこでも寝られそうなイメージ」


---


「何そのイメージ」


---


少し笑われた。


---


「完璧そうだから」


---


正直な感想だった。


---


すると。


---


綾乃は苦笑した。


---


「買い被り過ぎよ」


---


「そんなことないと思うけど」


---


「あるわ」


---


即答だった。


---


珍しい。


---


綾乃が強く否定するのは。


---


◇◇◇


---


少し沈黙が続く。


---


けれど。


---


不思議と居心地は悪くない。


---


麦茶を飲む音だけが響く。


---


「悠」


---


「ん?」


---


「私ってそんなに完璧に見える?」


---


私は少し考えた。


---


そして。


---


「見える」


---


即答した。


---


勉強ができる。


---


運動もできる。


---


周りから信頼されている。


---


落ち着いている。


---


正直。


---


羨ましいくらいだ。


---


綾乃は複雑そうな顔をした。


---


「そう」


---


短い返事。


---


そして。


---


コップの表面を指でなぞった。


---


何かを考えているみたいだった。


---


◇◇◇


---


「私ね」


---


綾乃がぽつりと言う。


---


「中学の頃」


---


「うん」


---


「大失敗したことがあるの」


---


意外だった。


---


私は黙って聞く。


---


「生徒会をやっていたの」


---


綾乃は続けた。


---


「その時」


---


「全部一人でやろうとした」


---


少し自嘲気味な笑顔。


---


「迷惑をかけたくなかったから」


---


「頑張った?」


---


「頑張り過ぎた」


---


綾乃は小さく頷いた。


---


「結果的に倒れたの」


---


私は目を丸くする。


---


「倒れた?」


---


「ええ」


---


「文化祭直前に」


---


笑い話みたいに語る。


---


でも。


---


その時はきっと笑えなかった。


---


そう思った。


---


◇◇◇


---


「その後」


---


綾乃が続ける。


---


「周りにたくさん迷惑をかけた」


---


「みんな優しかったけれど」


---


「私は悔しかった」


---


夜の静かな声。


---


だからこそ。


---


言葉がよく響いた。


---


「それ以来」


---


「ちゃんとしなきゃって思うようになったの」


---


綾乃は笑う。


---


少し寂しそうに。


---


「失敗しないように」


---


「期待を裏切らないように」


---


私は黙った。


---


その気持ちが。


---


少し分かる気がしたから。


---


私も。


---


ずっと秘密を隠しながら生きている。


---


失敗したら終わる。


---


そんな恐怖といつも一緒だ。


---


◇◇◇


---


「でもさ」


---


気付けば口を開いていた。


---


綾乃がこちらを見る。


---


「失敗したから今があるんじゃない?」


---


「え?」


---


「その経験がなかったら」


---


「今の綾乃じゃなかったかもしれないし」


---


自分でも驚くくらい自然に言葉が出た。


---


「それに」


---


私は続ける。


---


「完璧な人なんていないと思う」


---


綾乃が少し目を見開く。


---


「恋バナの時も言ってたよね」


---


「欠点ごと受け入れられる人がいいって」


---


「あ……」


---


綾乃が固まる。


---


覚えていたのかという顔だった。


---


当然覚えている。


---


わりと印象的だったから。


---


「だったら」


---


私は笑う。


---


「綾乃だって失敗していいんじゃない?」


---


静寂。


---


数秒。


---


いや。


---


もっと長かったかもしれない。


---


そして。


---


綾乃はふっと笑った。


---


それは。


---


今日見た中で一番自然な笑顔だった。


---


「ありがとう」


---


その一言だけだった。


---


けれど。


---


妙に嬉しかった。


---


◇◇◇


---


「悠って」


---


綾乃がこちらを見る。


---


「不思議ね」


---


嫌な汗が出た。


---


「え?」


---


「落ち着くの」


---


予想外だった。


---


「私が?」


---


「ええ」


---


綾乃は頷く。


---


「話しやすいし」


---


「安心できる」


---


心臓が少し跳ねた。


---


正直。


---


嬉しかった。


---


でも。


---


少し苦しかった。


---


私は綾乃に大きな秘密を隠している。


---


それなのに。


---


信頼されている。


---


だから。


---


少しだけ申し訳なかった。


---


◇◇◇


---


時計を見る。


---


午前三時半。


---


意外と時間が経っていた。


---


「そろそろ寝ましょうか」


---


綾乃が立ち上がる。


---


「そうだね」


---


私も頷いた。


---


二人で部屋へ戻る。


---


暗い部屋。


---


変わらない寝息。


---


ひまりは相変わらず大の字だった。


---


少し笑ってしまう。


---


「おやすみ」


---


綾乃が小さく言う。


---


「おやすみ」


---


私も返した。


---


そして。


---


布団へ入る。


---


目を閉じる。


---


今日一日。


---


色々あった。


---


でも。


---


悪くなかった。


---


むしろ。


---


楽しかったと思う。


---


そして。


---


綾乃のことを。


---


少しだけ知れた気がした。


---


完璧に見える人にも。


---


悩みがある。


---


不安がある。


---


弱い部分がある。


---


それを知れたことが。


---


なぜだか嬉しかった。


---


知らないうちに。


---


私と綾乃の距離は。


---


少しだけ近付いていた。


---


第十七章 九条綾乃の秘密 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。