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お泊り会は危険がいっぱい

第十四章 お風呂という最終試練(前編)


恋バナ大会は大いに盛り上がった。


ひまりは終始テンションが高かったし。


美月は楽しそうに笑っていたし。


綾乃も珍しく恋愛の話をたくさんしていた。


理央は相変わらずだったけれど。


それでも。


全体としては楽しい時間だったと思う。


少なくとも。


みんなにとっては。


---


(終わった……)


---


私はクッションに顔を埋めそうになる。


---


(生き残った……)


---


恋愛トーク。


好きなタイプ。


理想の恋人。


男の考え方。


---


危険地帯ばかりだった。


---


だが。


なんとか切り抜けた。


---


私は油断していた。


---


完全に。


---


その時だった。


---


「じゃあ次はお風呂だね!」


---


ひまりが元気よく言った。


---


時間が止まった。


---


「え?」


---


「お風呂!」


---


ひまりが笑顔で答える。


---


違う。


そうじゃない。


---


聞き間違いであってほしかった。


---


「お風呂?」


---


「うん!」


---


ひまりは元気いっぱい頷く。


---


「せっかくのお泊まり会だし!」


---


「みんなで入ろう!」


---


終わった。


---


本当に終わった。


---


◇◇◇


---


女子たちは当然のように準備を始めた。


---


タオル。


着替え。


ヘアゴム。


化粧水。


---


色々出てくる。


---


私は出てこない。


---


現実逃避しか出てこない。


---


(無理だろ)


---


(絶対無理だろ)


---


(どう考えても無理だろ)


---


現在の私は女子として生活している。


---


だが。


中身は男だ。


---


一緒に風呂へ入る。


---


そんなの自殺行為である。


---


「悠?」


---


美月が首を傾げた。


---


「どうしたの?」


---


「な、なんでもない」


---


大いにある。


---


命に関わる問題がある。


---


「疲れた?」


---


綾乃が聞く。


---


「ちょっとだけ」


---


半分本当だった。


---


精神的に。


---


「なら早くお風呂入っちゃおうよ!」


---


ひまりが言う。


---


全然分かっていない。


---


いや。


当然だ。


---


分かるわけがない。


---


◇◇◇


---


私は必死に考えた。


---


回避方法。


---


案その一。


---


「今日は入らない」


---


却下。


---


怪しすぎる。


---


案その二。


---


「体調が悪い」


---


却下。


---


さっきまで元気だった。


---


案その三。


---


「最後に入る」


---


これだ。


---


たぶん。


---


「私、最後でもいいかな」


---


できるだけ自然に言う。


---


「え?」


---


ひまりが振り返る。


---


心臓がうるさい。


---


「人が多いのあんまり得意じゃなくて」


---


お願いだから納得してほしい。


---


本当に。


---


お願いだから。


---


数秒後。


---


「あー!」


---


ひまりが手を叩いた。


---


「そういう人いるよね!」


---


「私の従姉妹もそう!」


---


助かった。


---


思わず天を仰ぎそうになる。


---


「なるほど」


---


美月も頷く。


---


「じゃあ後で入る?」


---


「うん」


---


「了解!」


---


第一関門突破。


---


しかし。


---


まだ何も終わっていなかった。


---


◇◇◇


---


「じゃあ先入ってくるー!」


---


ひまりがタオルを持つ。


---


「行きましょうか」


---


美月も立ち上がった。


---


二人は楽しそうに部屋を出ていく。


---


残ったのは。


---


私。


---


綾乃。


---


理央。


---


嫌な組み合わせだった。


---


特に理央。


---


最近妙に鋭い。


---


何かに気付いているわけではない。


---


たぶん。


---


でも。


---


勘が良すぎる。


---


私はクッションを抱えた。


---


理央がこちらを見る。


---


嫌な予感。


---


「悠って」


---


来た。


---


「お風呂苦手なの?」


---


心臓が跳ねた。


---


「え?」


---


「なんとなく」


---


理央は静かな声で言う。


---


「前から少し思ってた」


---


まずい。


---


非常にまずい。


---


「そう?」


---


「うん」


---


理央は頷く。


---


「体育の時もそうだったし」


---


固まる。


---


体育。


---


嫌な単語だった。


---


「体育?」


---


「着替え」


---


理央は続ける。


---


「更衣室あまり使わないよね」


---


頭が痛くなった。


---


覚えていたのか。


---


そんなことを。


---


「そうだっけ」


---


「そう」


---


理央は即答した。


---


「保健室で着替えてたこともあったし」


---


「空いてる部室使ってたこともある」


---


「トイレ使う時もあったよね」


---


全部覚えている。


---


怖い。


---


本当に怖い。


---


なんでそんなことを覚えているんだ。


---


「人が多いの苦手だから」


---


私は慌てて答えた。


---


「ふーん」


---


理央は短く返した。


---


それ以上は言わない。


---


だが。


---


納得したようには見えなかった。


---


◇◇◇


---


微妙な空気になる。


---


その時だった。


---


「私は分かるけれど」


---


綾乃が口を開いた。


---


「え?」


---


思わず見る。


---


綾乃は穏やかに微笑んだ。


---


「人前で着替えるの苦手な人っているでしょう?」


---


「まあ」


---


理央が答える。


---


「私も少し苦手だもの」


---


「そうなの?」


---


ひまりなら驚いていたと思う。


---


だが。


---


綾乃は普通に頷いた。


---


「大勢いるところは落ち着かないわ」


---


そして。


---


理央を見る。


---


「別に珍しいことじゃないと思うけれど」


---


理央は少し考え。


---


やがて頷いた。


---


「そうね」


---


追及終了。


---


私は心の底から安堵する。


---


助かった。


---


本当に助かった。


---


綾乃は何気なく言っただけだろう。


---


でも。


---


今の私には救世主だった。


---


◇◇◇


---


しばらくして。


---


風呂場の方から騒がしい声が聞こえてきた。


---


嫌な予感しかしない。


---


そして。


---


予感は当たった。


---


勢いよく扉が開く。


---


「ただいまー!」


---


ひまりだった。


---


髪が少し濡れている。


---


テンションは据え置きだった。


---


「悠まだ!?」


---


「まだだけど」


---


「じゃあ一緒に入ろう!」


---


終わった。


---


「え?」


---


「もう一回入ろ!」


---


なんで。


---


なんで二回目なんだ。


---


「いいじゃん!」


---


よくない。


---


全然よくない。


---


私は必死に次の言い訳を探し始めた。


---


第十四章 お風呂という最終試練(前編) 完

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