お泊り会は危険がいっぱい
第十三章 恋バナ大会
「じゃあ最初は悠から!」
ひまりが元気よく指を差した。
「えっ」
終わった。
まだ始まって数秒なのに終わった。
「なんで私からなの?」
「気になるから!」
「多数決!」
「反対」
「一対四だから可決!」
民主主義が憎い。
「じゃあ質問です!」
ひまりが正座する。
なぜか司会進行役になっていた。
「悠の好きなタイプは?」
来た。
ついに来た。
私は必死に考える。
男目線で答える。
↓
詳しすぎて怪しい。
↓
女子らしく答える。
↓
不自然になる。
↓
詰み。
完全に詰みだった。
「優しい人かな」
とりあえず無難な答えを出す。
「無難ー!」
即ツッコミ。
「無難だね」
美月まで笑う。
「みんなそう言うわ」
綾乃も苦笑した。
「でしょうね」
私だって分かっている。
無難すぎると。
しかし危険は続く。
「どんな優しい人?」
美月。
「年上?年下?」
ひまり。
「具体的には?」
理央。
追撃が早い。
早すぎる。
「その……」
私は考える。
男としてなら簡単だ。
でも。
今の私は女子。
「一緒にいて安心できる人」
「ほうほう」
ひまりが頷く。
「頼れる人」
「なるほど」
美月も頷く。
どうやら正解らしい。
助かった。
そう思った。
しかし。
「顔のタイプは?」
ひまり。
助かっていなかった。
「顔?」
「イケメン派?」
「優しい顔派?」
「スポーツ系?」
「頭いい系?」
質問の嵐だった。
「特にないかな」
私は逃げた。
「嘘だ」
理央だった。
「え?」
「誰だって多少はあるでしょ」
鋭い。
本当に鋭い。
私は思わず黙った。
その沈黙を見て。
「まあいいか」
理央は引いた。
だが。
何かを考えている顔だった。
◇◇◇
次は美月だった。
「私は一緒にいて楽しい人かな」
「おおー!」
ひまりが盛り上がる。
「あとご飯がおいしく食べられる人」
「現実的」
綾乃が言う。
「大事だよ?」
美月が胸を張る。
「確かに」
私は頷いた。
「でしょ?」
少し嬉しそうだった。
好きなデート。
好きな告白。
理想の恋人。
話は尽きない。
女子の恋バナって本当に長いんだなと思った。
◇◇◇
続いてひまり。
「イケメン!」
即答だった。
「早い」
「正直」
「清々しい」
三方向からツッコミが飛ぶ。
「面白い人もいい!」
「増えた」
「優しい人も!」
「さらに増えた」
「あと背が高い人!」
「欲張り」
部屋中が笑いに包まれた。
「ひまり恋愛経験あるの?」
美月が聞く。
「ゼロ!」
ドヤ顔だった。
なぜ誇らしげなのか分からない。
「その顔はやめなさい」
綾乃が笑った。
◇◇◇
そして。
話題は綾乃へ移った。
空気が少し変わる。
「綾乃は?」
ひまりが聞く。
綾乃は少しだけ考えた。
そして。
「尊敬できる人かしら」
静かな答えだった。
「へえ」
全員が耳を傾ける。
「一緒にいて成長できる人」
「素敵」
美月が言う。
「外見より中身?」
ひまり。
「そうね」
綾乃は頷いた。
「もちろん清潔感は大事だけど」
「大人だ……」
ひまりが感動している。
「完璧な人じゃなくてもいいと思うの」
綾乃は続けた。
「誰でも欠点はあるでしょう?」
「うん」
「その欠点ごと受け入れられる相手なら素敵じゃないかしら」
私は思わず見つめてしまった。
綾乃らしい。
そう思った。
完璧そうに見えて。
ちゃんと人を見ている。
そんな答えだった。
「悠?」
不意に声をかけられる。
「え?」
「見過ぎ」
美月が笑った。
「っ!」
顔が熱くなった。
「赤い」
ひまりが言う。
「赤くない!」
「赤い!」
「赤くない!」
「赤い!」
また始まった。
「仲良いわね」
綾乃が苦笑する。
「違うから!」
私とひまりの声が重なった。
なぜかさらに笑われた。
◇◇◇
最後は理央だった。
「理央は?」
少しの沈黙。
そして。
「隠し事をしない人」
理央はそう言った。
なぜか。
心臓が跳ねた。
「へえ」
美月が首を傾げる。
「秘密がある人って苦手なの」
理央は続ける。
「本当のことを言わない人とか」
ギクリ。
ものすごく刺さった。
今の私は。
秘密の塊みたいなものだ。
「信用できないから」
理央が言う。
私は思わず目を逸らした。
理央は気付いていない。
たぶん。
ただの恋愛観。
それだけだ。
でも。
なぜか胸が痛かった。
◇◇◇
その時。
ひまりが手を叩いた。
「あっ!」
嫌な予感。
本日何度目か分からない嫌な予感だった。
「男子ってどんな女子が好きなんだろうね!」
「気になる」
美月も頷く。
「確かに」
綾乃も興味があるらしい。
そして。
理央が私を見た。
「悠はどう思う?」
終わった。
私は本来。
男子側だ。
だから分かる。
だが。
分かると言えない。
非常に言いづらい。
「人によるんじゃないかな」
逃げた。
「例えば?」
ひまり。
「詳しく」
美月。
「聞きたいわね」
綾乃。
包囲網だった。
私は必死で頭を回転させる。
「その……」
「明るい子とか?」
「うんうん!」
ひまりが嬉しそうに頷く。
「あと優しい子」
無難路線継続。
「料理できる子とか?」
美月が聞く。
「男子ってそういうの好きなの?」
ひまりも乗っかる。
「うーん……」
私は考える。
そして。
つい。
口が滑った。
「男子って意外とそういう所見てるから」
沈黙。
一瞬だけ。
空気が止まった。
しまった。
言い方がおかしい。
男子側の言い回しだった。
理央が目を細める。
「ずいぶん詳しいね」
心臓が凍った。
「えっ」
「いや、その……」
言葉が出ない。
まずい。
絶対まずい。
だが。
「理央」
綾乃が口を開いた。
「今は恋愛相談じゃなくて恋バナでしょう?」
「そうね」
理央が視線を外した。
助かった。
本当に。
危なかった。
恋バナ大会はその後も続いた。
初恋の話。
告白されるなら直接かメッセージか。
理想のデート。
将来結婚したい年齢。
話題は尽きない。
笑い声が絶えない。
楽しい時間だった。
けれど。
理央だけは時々こちらを見ていた。
まるで。
何かを確かめるように。
そして私はまだ知らない。
その小さな違和感が。
やがて大きな疑念へ変わっていくことを。
第十三章 恋バナ大会 完




