お泊り会は危険がいっぱい
第十二章 お泊まり会当日(後編)
「この写真送るね!」
ひまりがスマホを振る。
「待って」
美月が慌てて止めた。
「少し加工してから!」
「また?」
「また」
当然のように頷く。
私はスマホ画面を見る。
何が違うのか分からない。
本当に分からない。
「ほら、こっちの方が盛れてるでしょ」
「そう?」
「そう!」
力説された。
しかし。
私には同じ写真にしか見えなかった。
「悠は?」
突然話を振られる。
「えっ」
まずい。
何も分からない。
「こっちの方が綺麗だと思う」
勘で答えた。
すると。
「分かってるじゃん」
美月が笑った。
助かった。
完全に運だった。
その後。
ひまりが持参した大量のお菓子が開封された。
ポテトチップス。
チョコレート。
クッキー。
グミ。
机が埋まる。
「食べ放題だー!」
ひまりが万歳した。
「誰がお金出したの?」
「お小遣い!」
「使いすぎでは?」
理央が冷静に言う。
「未来の私が何とかする!」
駄目な発言だった。
美月が笑う。
綾乃も少し笑っている。
気付けば。
私も一緒に笑っていた。
学校では見られない表情。
こういう時間も悪くないかもしれない。
そう思った。
話題は自然と学校の話になった。
先生のこと。
テストのこと。
文化祭の失敗談。
ひまりの黒歴史。
「言うなー!!」
部屋中に笑い声が響く。
私は少し肩の力を抜いた。
(案外なんとかなるかも)
今日何度目か分からない油断だった。
その時。
「そういえば」
理央が口を開いた。
なぜだろう。
少しだけ嫌な予感がした。
「ひまりって小さい頃からこんな感じなの?」
「もっとすごかったわよ」
部屋の入口から声がした。
ひまりのお母さんだった。
「落ち着きが全くなくて」
「お母さん!?」
「木に登って落ちたり」
「やめて!?」
「池に落ちたり」
「なんで覚えてるの!?」
全員大爆笑だった。
ひまりは床を転がっている。
そして。
自然な流れで。
理央の視線が私へ向いた。
「悠は?」
心臓が跳ねた。
「小さい頃」
理央が続ける。
「どんな子だったの?」
来た。
何気ない質問。
だが。
私にとっては危険だった。
女の子としての幼少期。
そんなものは存在しない。
「普通だったよ」
とりあえず答える。
「例えば?」
追撃。
早い。
「外で遊ぶのが好きだったかな」
「へえ」
理央が見る。
まだ終わらない。
「どんな遊び?」
まずい。
非常にまずい。
頭が真っ白になる。
「虫取りとか」
言ってから気付いた。
しまった。
女の子っぽくない。
そう思った瞬間。
「分かる!」
ひまりが勢いよく挙手した。
救世主だった。
「私もやってた!」
「ひまりはやりそう」
美月が笑う。
「カブトムシも捕まえた!」
「むしろひまりの方が男の子っぽいわね」
綾乃が言う。
再び笑いが起きる。
助かった。
本当に助かった。
しかし。
理央だけは黙っていた。
眼鏡の奥で。
何かを考えるように。
少しだけ。
不安が残った。
◇◇◇
夕方。
一階へ降りる。
食卓には料理が並んでいた。
唐揚げ。
ハンバーグ。
サラダ。
スープ。
豪華だった。
「すごい……」
思わず声が漏れる。
「いっぱい食べてねー!」
ひまりのお母さんが笑った。
「いただきます!」
全員で手を合わせる。
そして。
美味しかった。
本当に美味しかった。
「おかわり!」
ひまりが立ち上がる。
まだ食べ始めて数分しか経っていない。
早い。
とにかく早い。
「成長期ね」
綾乃が言う。
「私たち全員成長期だけど」
美月が突っ込む。
「細かいことは気にしない!」
まったく説得力がなかった。
理央がぽつりと呟く。
「食費が心配」
「失礼だよ!」
ひまりが抗議する。
だが。
誰も否定できなかった。
◇◇◇
夕食が終わる。
再び部屋へ戻る。
窓の外は真っ暗だった。
机の上にはお菓子。
ジュース。
クッション。
完全にお泊まり会の空気だった。
昼間の賑やかさとは少し違う。
少しだけ。
みんなの距離が近くなった気がする。
そんな時間だった。
そして。
ひまりが突然立ち上がった。
「よし!」
大きな声。
嫌な予感がした。
今日一番の嫌な予感だった。
「せっかくだし質問大会やろう!」
「始まった」
美月が苦笑する。
「毎年やるものね」
綾乃も頷く。
理央も当たり前のような顔をしていた。
私だけ分からない。
「質問大会?」
思わず聞く。
「そう!」
ひまりが笑顔になる。
「何でも聞いていい大会!」
地獄だった。
絶対に地獄だった。
最初は平和だった。
好きな食べ物。
好きな映画。
休日の過ごし方。
趣味。
その程度。
なんとか乗り切れる。
しかし。
徐々に。
本当に徐々に。
話題が変わっていく。
「好きな人いる?」
美月が何気なく言った。
空気が変わった。
「あー!」
ひまりが食いつく。
「来たね」
綾乃が苦笑する。
「恋バナね」
理央が静かに言った。
嫌な予感が確信へ変わった。
ひまりが身を乗り出す。
「じゃあ恋愛トークしよう!」
「賛成!」
「反対」
私だけだった。
もちろん却下された。
「じゃあ最初は悠から!」
ひまりが指差す。
「えっ」
全員の視線が集まる。
逃げ場はない。
男の感覚で答えれば怪しまれる。
無理に女の子らしく答えても怪しまれる。
つまり。
最初から詰んでいた。
私は悟った。
お泊まり会で一番危険なのは。
お風呂でも。
深夜でもない。
恋愛の話だった。
第十二章 お泊まり会当日(後編) 完




