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お泊り会は危険がいっぱい

二話 お泊り会は危険がいっぱい

第十一章 前夜


お泊まり会。


それは一般的な高校生にとって楽しいイベントである。


友達の家へ集まり。


お菓子を食べて。


ゲームをして。


夜更かしをして。


思い出を作る。


素晴らしい青春イベントだ。


普通なら。


---


「行きたくない……」


私はソファへ倒れ込んだ。


帰宅して三分。


もう限界だった。


---


「おかえり」


叔母が紅茶を飲んでいた。


相変わらず優雅だった。


---


「ただいま」


---


「どうしたの?」


---


「人生終わった」


---


「また?」


---


またとは何だ。


---


「今度は本当に終わった」


---


「体育の時も同じこと言ってたわよ」


---


「今回はレベルが違うんだよ!」


---


思わず立ち上がる。


---


「女子のお泊まり会だぞ!?」


---


「そうね」


---


「そうねじゃない!」


---


私は机を叩いた。


叔母は紅茶を一口飲む。


温度差がひどい。


---


「分かってる?」


私は指を差す。


---


「お泊まり会だぞ?」


---


「聞いてるわ」


---


「女子だけだぞ?」


---


「聞いてるわ」


---


「俺男だぞ?」


---


「それも聞いてるわ」


---


「じゃあもっと危機感持て!」


---


叔母は少し考えた。


そして。


---


「楽しそうね」


---


「なんでそうなるんだ!」


---


本気で意味が分からない。


---


「まずお風呂だぞ!」


---


「そうね」


---


「どうするんだよ!」


---


「後で入る」


---


「簡単に言うな!」


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「着替えは?」


---


「隠れる」


---


「寝る時は?」


---


「寝たふり」


---


「全部精神論じゃねえか!」


---


叔母は不思議そうな顔をする。


---


「でも今までもそうだったじゃない」


---


「え?」


---


「女子校入学は?」


---


「気合い」


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「更衣室は?」


---


「気合い」


---


「体育は?」


---


「気合い」


---


「理央さん対策は?」


---


「気合い……」


---


言い返せなかった。


悔しい。


---


叔母は満足そうに頷く。


---


「ほら」


---


「納得いかねえ……」


---


「実績があるわ」


---


確かに今まで全部その場の勢いだった。


認めたくはないが。


---


「というか」


叔母が少し笑う。


---


「友達できたのね」


---


私は少し黙った。


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「まあ」


---


「朝倉さん?」


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「うん」


---


「小鳥遊さん?」


---


「うん」


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「九条さん?」


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「うん」


---


「一ノ瀬さん?」


---


「……うん」


---


叔母がにやっと笑う。


嫌な予感しかしない。


---


「青春じゃない」


---


「違う」


---


「ラブコメね」


---


「違う」


---


「ハーレム?」


---


「違う!」


---


即答だった。


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「なんで否定するのよ」


---


「普通に友達だから!」


---


「ほう」


---


信じていない顔だった。


---


「それに理央なんて俺を疑ってるんだぞ」


---


「気になるのよ」


---


「何が?」


---


「あなたのこと」


---


「嫌な意味でな!」


---


「好きだからかもしれないじゃない」


---


「理論が飛躍しすぎてる!」


---


叔母は楽しそうだった。


本当に楽しそうだった。


---


「でもね」


---


珍しく真面目な声になる。


---


私は少し驚いた。


---


「なに?」


---


「本当に嫌な相手だったら」


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叔母は言う。


---


「お泊まり会なんて誘われないわよ」


---


「……」


---


「女の子にとって結構特別なの」


---


私は黙る。


---


「その中に入れてもらえたんでしょう?」


---


返事はできなかった。


---


でも。


---


少しだけ。


---


ほんの少しだけ。


---


嬉しかった。


---


友達ができた。


---


女子校へ来る前の私なら。


そんな未来は想像していなかった。


---


叔母はそんな私を見て笑う。


---


「良かったじゃない」


---


「まあな」


---


「最初の日は泣きそうだったのに」


---


「泣いてない」


---


「帰りたいを二十回くらい言ってたわよ」


---


「数えるな」


---


「メモしたもの」


---


「やめろ!」


---


理事長のやることではなかった。


---


叔母は立ち上がる。


---


そして部屋の奥へ消えた。


---


数秒後。


---


大きな段ボール箱を抱えて戻ってくる。


---


嫌な予感がした。


---


「何それ」


---


「お泊まり会対策セット」


---


予感が当たった。


---


「作ったの?」


---


「昨日の夜に」


---


暇なのか。


---


叔母は箱を開ける。


---


中には大量の物が入っていた。


---


「予備のウィッグ」


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「なんで」


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「メイクセット」


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「なんで」


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「応急処置セット」


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「なんで」


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「非常用言い訳リスト」


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「一番いらない」


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紙を見る。


---


『体質なんです』


『恥ずかしいので』


『その話は遠慮してください』


『実家の方針です』


---


雑だった。


---


「これ本当に使えるのか?」


---


「たぶん」


---


「たぶんかよ」


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さらに箱の奥から紙を取り出す。


---


「隠密行動マニュアル」


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「スパイじゃないんだよ」


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「女子校潜入任務行動記録表」


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「タイトルからアウト!」


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「非常脱出ルート一覧」


---


「どこから脱出する前提なんだ!」


---


叔母は大笑いしていた。


---


納得いかない。


---


しかし少しだけ気が楽になる。


---


不思議なものだった。


---


一時間後。


---


私は自室にいた。


---


ベッドの横には旅行用バッグ。


---


着替え。


洗面用具。


充電器。


そして。


秘密を守るための対策グッズ。


---


(本当に行くんだな……)


---


今さら実感する。


---


女子だけのお泊まり会。


---


男の私が参加する。


---


頭がおかしい。


本当に。


---


私はベッドへ倒れ込んだ。


---


天井を見上げる。


---


不安はある。


ものすごくある。


---


でも。


---


少しだけ楽しみな自分もいた。


---


美月。


ひまり。


綾乃。


理央。


---


みんなと過ごす休日。


---


そういう時間は嫌いじゃなかった。


---


「……」


---


理央の顔を思い浮かべる。


---


まだ疑われている。


---


それは間違いない。


---


それでも。


---


最近少しだけ思う。


---


あの人も悪い人じゃないのかもしれない。


---


たぶん。


---


本当にたぶんだけど。


---


時計を見る。


---


深夜十一時。


---


明日になればお泊まり会だ。


---


私は毛布を引き寄せる。


---


そして小さく呟いた。


---


「明日が来なければいいのに……」


---


もちろん。


---


そんな願いが叶うはずもなかった。


---


女子だけのお泊まり会。


---


そこには。


---


私が想像している以上の危機が待っている。


---


そして。


---


一ノ瀬理央もまた。


---


同じ夜空を見上げながら考えていた。


---


「明日なら……分かるかもしれない」


---


何が。


---


誰にも分からない。


---


だが確実に。


---


運命の土曜日は近づいていた。


---


第十一章 前夜 完


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