第二十三話 あなたのせいなんです
「待ってください。私は、候補令嬢の皆様を追い詰めることをやめると申しました。制度を今すぐ終わらせてほしいとは、まだ……」
「これは王家の責任だ。お前が決めることではない」
「私が決めることではない?」
「お前一人へ背負わせないと言っている」
その言葉に、胸の奥が冷えた。
レオナルトは、オルガへ命じた。
「六人をそれぞれ別の控室へ。近衛をつけ、家へはまだ連絡するな。本人の希望を確認してから対応する」
「承知いたしました」
候補令嬢たちは次々にガゼボを出ていく。
アンネは私へ小さく頭を下げ、マルグリットは何か言いたそうに振り返る。
クララとエリザは無言。リディアは唇を噛んでいる。
最後に残ったセシリアは、レオナルトへ深く一礼した。
「候補制度を終わらせても、起きたことまで消えるわけではございません」
その言葉が、誰へ向けられたものなのかはわからない
セシリアが去ると、ガゼボには私とレオナルトだけが残った。
卓上には、伏せた六枚の紙。
冷めた紅茶。踏み荒らされたタイムから採取した、泥のついた小さな葉。
「なぜ、私の話を途中で終わらせたのですか」
「お前をこれ以上、争いの中心へ置けない」
「また、上辺だけの守るためですか」
レオナルトが黙る。
その沈黙は、日曜日の五年間と同じ形をしていた。
「殿下は、いつもそうです」
卓上の紙を握ると、くしゃりと音を立てる。
「私のためだと仰って、一人で決めます。冷たくすることも、婚約者にすることも、候補制度を終わらせることも」
「制度を作ったのは王家だ。責任を取るのも王家だ」
「制度の責任と、私へ尋ねないことは別です!」
声がガゼボへ響いた。
白い柱の外で近衛が動く気配がしたが、誰も入ってこない。
「候補令嬢の皆様を追及しようとしたのは私です。途中でやめると決めたのも私です。間違っていたのなら、自分で間違いに気づき、自分の言葉で謝りたかった」
「お前が謝る必要はない」
「ほら、また決める!私は、殿下が正しい処置をなさったことに怒っているのではありません。私の目の前で、私の人生がまた決められたことに怒っているのです」
胸の奥に詰まっていた言葉が、止まらない。
「日曜日を最も長い面会日にしたのは王家です。私を日曜日へ置いたのも、最有力候補として六人の前へ差し出したのも王家です」
「それは、俺が十二歳のときに決まったことで……」
「では、五年間冷たくしたのは誰ですか!」
レオナルトの肩が強張る。
「私は毎週、殿下の前で笑っていました。何を話せばよいのか考え、少しでもお邪魔にならないようにして、冷めた紅茶を飲みました。殿下は、私が傷ついていると知ろうともしなかった」
「……そうだ」
「ほかの候補令嬢には本の感想を仰り、剣術をご覧になり、曲をお聞きになった。なのに私には、何もなかった」
記憶を失ったふりをしていることを、もう考えられなかった。
日曜日の私が、ようやく口を開いていた。
「殿下が私を特別に思っていないように見せたかったのなら、失敗です。日曜日に置かれているだけで、私は最有力候補として妬まれました」
「特別に扱えば、さらに狙われると思った」
「私は、何一つ守られていた覚えなんてありません!」
レオナルトの言葉を遮る。
胸が痛い。喉が熱い……なのに、今だけは止まりたくなかった。
「何も知らされず、一人で耐えていたことを、守られていたとは呼びません。私が何を望んでいるのか、殿下は一度でもお尋ねになりましたか?」
返事はない。
「階段から落ちたあとも同じです。私が記憶を失ったと思った途端、婚約者だと言い出した」
「お前を王宮で保護するために必要だった」
「だから、先に聞かなくてもよかったのですか?」
レオナルトの前に、一歩近づいた。
「私は目覚めたばかりで、何もわからない令嬢だったはずです。その私へ、殿下は婚約者だと教えました。信じるしかない言葉を使って、私の立場を変えたのです」
「……ああ」
「厨房へ行きたいと言ったときも、畑へ行きたいと言ったときも、殿下は許してくださいました。嬉しかったです。自分の望みを受け取ってもらえたと、初めて思いました」
喜びまで否定したくはない。
だからこそ、余計に苦しかった。
「でも、肝心なことは何も聞かない。婚約者でいたいのか。候補制度をどうしたいのか。殿下を好きなのか。私が答える前に、殿下が最善だと思う形へ動かしてしまう」
「フィオナ……」
「私は、殿下の駒ではありません!」
「フィオナっ!」
白い柱の間を風が抜ける。
伏せた紙が一枚、卓から落ちた。
「私が大人しくしていたから、勝手に決めてもよいと思っていたのでしょう?」
「違う!」
「では、なぜ一度も聞かなかったのですか!」
レオナルトの口が開き、また閉じる。
その沈黙だけで、わかってしまった。
理由はあったのだろう。
王太子としての事情も、七家への配慮も、安全のための判断も。
けれど、そのすべての下に、私本人へ尋ねることを避けた臆病さがあったのかもしれない。
「私は、ずっと殿下のせいではないと思おうとしていました……制度のせい。家のせい。候補令嬢たちの嫉妬のせい。私がうまく笑えないせい。何かが足りないせい」
涙は出なかった。
代わりに、握った紙が音を立てる。
全部、自分の中へ押し込めた。
「でも違いますっ!殿下が何も言わなかったから、私は五年間、理由もわからず苦しみました。殿下が私を日曜日へ置いたまま冷たくしたから、皆様は私を最有力の敵だと思った。殿下が記憶を失った私へ勝手に婚約者だと言ったから、また争いが始まった」
声を震わせながら、顔を上げた。
「あなたのせいなんです!」
レオナルトは動かなかった。
「全部が!!」
ブックマーク、★★★★★、リアクション
よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ




