第二十一話 お集まりいただき、ありがとうございます
翌日の午後、日曜日のガゼボには、月曜日から土曜日までの候補令嬢が揃っていた。
私が日曜日に着ていた白と金のドレスは、衣装室で背を切られている。
代わりに選んだのは、飾りの少ない淡い青のドレス。
候補の曜日を示す色でも、婚約者として用意された華やかな衣装でもない。
卓上には六枚の紙が並んでいる。
書かれているのは、候補令嬢たちの家の秘密ではなかった。
月曜日――書庫から戻ったあと、フィオナの日曜日の面会時間を非難した。
火曜日――記憶喪失が演技ではないかという噂を広めた者と親しい。
水曜日――階段の直前、フィオナと二人でいた。
木曜日――王宮の警備や通用口に詳しい。
金曜日――厨房へ品物を納める商家と取引がある。
土曜日――王妃宮へ候補令嬢たちの様子を報告している。
どれも、犯人だと断じる証拠ではない。
これまで私へ向けられた言葉と、確認したいことだけを記したものだ。
それでも六人の顔は硬かった。
「お集まりいただき、ありがとうございます」
私がまず、口を開く。
「昨日、私が植えたタイムが踏み荒らされました。私の部屋から日記が盗まれ、日曜日に着ていたドレスが切られております」
アンネの指が、カップの取っ手を強く握る。
リディアは扇の陰で目を細めた。マルグリットは背筋を伸ばし、エリザは卓上の紙へ視線を走らせる。クララは唇を結び、セシリアだけが私を真っ直ぐ見ていた。
「それで、私どもを犯人として呼びつけたのですか」
「いいえ、セシリア様。犯人だと決めつけるためではございません」
「では、何のために?」
「私、皆様との過去を覚えておりませんの」
六人を見渡す。
記憶を失ったふりをしていることへの後ろめたさが、舌へ苦味を残す。
「ですから、どなたが私を嫌っていたのか、一人ずつ自己申告していただこうと思いまして」
「そのような聞き方は、あまりに失礼ではなくて?」
リディアが扇を閉じる。
「記憶を失った病人の部屋へ忍び込み、本を盗むより失礼でしょうか?」
「私がしたと仰るの?」
「まだ、どなたのお名前も挙げておりません。ご自分から反応なさったのは、リディア様です」
彼女の頬が赤くなる。
「そもそも、殿下を独占なさっているから、こうなるのではありませんか」
「独占?」
首を傾げた。
火曜日の候補らしく、噂を言葉へすることには慣れているらしい。
「私は殿下を捕まえたことも、閉じ込めたこともありません。殿下には足があります」
マルグリットが堪えきれずに吹き出した。
「笑うところではございません!」
「いや、事実だ。殿下が毎日フィオナの部屋へ通うのは、殿下の足と意思だろう」
「マルグリット様は、フィオナ様の味方をなさるの?」
「味方ではない。ただ、本人の意思まで女同士の責任にするのはおかしいと言っている」
思いがけない援護に、一瞬言葉を失う。
エリザが卓上の紙を指先で示す。
「私どもの事情まで調べて、ここで暴露なさるおつもりでしたの?」
「書かれているのは、私が確認したいことだけです。ご家族の借金も、商売も、将来の望みも調べておりません」
「調べようと思えば調べられた、と?」
「いいえ。そこまでして皆様を追い落としたところで、殿下に選ばれたことになるとは思えませんから」
答えると、ガゼボが静まった。
レオナルトは同席していない。
私が、自分だけで話したいと頼んだからだ。
彼は近衛をガゼボの外へ配置し、自分は姿を見せなかった。
「婚約者だと仰る割には、自信がおありではないのですね」
セシリアが藤色の扇を開く。
「記憶を失ったあなたへ、殿下が都合のよい過去を教えた可能性もございましょう?」
「その可能性はございます」
あっさり認めると、セシリアの扇が止まった。
「私は殿下から婚約者だと聞かされました。ですが、正式な婚約書を見ておりません。皆様が候補であったことも、あとから知りました」
嘘と真実を混ぜて話すことに、胸元が締めつけられる。
「だからこそ、お尋ねしたいのです。私へ怒りを向ける前に、殿下へ何を望み、候補制度をどう思っていたのかを」
「候補制度は、王家と七家の均衡を保つために必要です」
セシリアは迷わなかった。
「個人の好き嫌いで壊してよいものではありません」
「では、私が階段から落ちることも、均衡を保つために必要でしたか?」
藤色の扇が、わずかに揺れた。
「そのような意味では」
「記憶が戻っているかどうかも、婚約者か候補かも、今は関係ありません。階段から落ちたことも、物を壊されたことも、私が受けた被害です」
目の前にある、一枚目の紙へ手を置いた。
「まず、月曜日から伺います。アンネ様」
名を呼ばれた令嬢の肩が、大きく跳ねた。
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