8 弟子になる条件
メルディ家の長女、リハーナ=メルディは召使いらしき者に食事を持ってきてもらって、次の日もダナフォルトの屋敷の前にいた。
次の次の日もいた。
次の次の次の日もいた。
次の次の次の・・・・。
「ダナフォルト様、クッキーとカフェをお持ちしました」
ベルフェゴールが、軽食を置いてお辞儀をする。
「つーか、なんであいつは帰らないんだよ!」
「ダナフォルト様が何もしないからじゃないのでしょうか?」
「いや、執念深すぎるだろ!」
ずっと無視してきたダナフォルトが、ついに話題に出した。
ベルフェゴールがほほ笑む。
「明日から学校が始まるので、きっと、ダナフォルト様にくっついて回るつもりでしょうね」
「最悪だ」
「ちゃんと向き合ったほうがいいんじゃないんですか? 少なくとも、遊び半分で言ったわけじゃなさそうですよ?」
「ったく・・・・・・・」
ダナフォルトが面倒くさそうに、頭を掻いて立ち上がる。
「お出かけですか?」
「すぐ戻るよ。ハーブティー、そのままにしておいて」
「かしこまりました。いってらっしゃいませ」
ベルフェゴールが頭を下げた。
「リハーナ=メルディ」
ダナフォルトが門のいる前にいたリハーナに声をかける。
瞳は赤くなっていた。
「ダナフォルト・・・・」
「ここにずっといられても迷惑だからな。ついてこい」
「あ・・・」
ダナフォルトが転移魔法陣を展開させた。
シュッ
「ひゃっ・・・・」
リハーナが目を開けると、誰もいない闘技場のような場所にいた。
ダナフォルトが杖を出す。
「転移・・・魔法?」
「俺は13の場所に転移魔法陣を張れる。ここはその一つだ」
「ど・・・どこ・・・?」
リハーナが砂埃に目を擦りながら、周囲を見渡す。
「誰もいない・・・見たことのない場所」
「当然だ。たまに、俺が創った魔法を試したりする場所だからな。もう一度聞くけど、弟子になりたいって言葉に二言は無い?」
「もちろん!」
リハーナが食いつくように頷いた。
ダナフォルトが冷静な目でリハーナを見定めようとしていた。
「杖を出せ」
「う、うん」
戸惑いながら杖を出す。
― 七つの月は沈み、八つ目の影が天へと昇る。
その刻、我は古き門の前に立つ。
封印されし石門よ、永き眠りより目覚めよ・・・・
ˆx Nihilø ad Nihiløm,äb Initîo äd Fînem.
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ダナフォルトが金色の髪をなびかせて、杖を動かしながら詠唱を始めた。
人の言葉では聞き取れない、悪魔が使う言葉だった。
ゴオォオオオオ
「!!」
リハーナが身構える。
7つの檻が現れて、中から7体の獰猛な獣が現れた。
1体のドラゴンは爪を立てて、リハーナを睨み、大きな獅子のような獣は炎を噴いていた。
大蛇はとぐろを巻いて、リハーナを見下ろしている。
「久しぶりに出しておいて悪いけど、見定めてくれ」
ダナフォルトが獣たちに声をかける。
「これは・・・・・・?」
「7体とも俺の召喚獣だ。弱い者は嫌いでね、今のところ俺の言うことしか聞かないんだ。あと、手加減とかできないから、本来は俺がサポートしなきゃ味方まで殺しちゃうんだよね」
ダナフォルトが黒い大蛇に近づき、頭を撫でる。
「わかったわ」
リハーナが唾を吞んでから、杖を構えた。
「要は弟子になりたければ、彼らを倒してみろってことでしょ?」
「そう。理解が早くて助かるよ」
「貴方の考えてることはなんとなくわかるの。不思議とね」
リハーナが黒い髪を後ろにやって、笑みを浮かべる。
「・・・・ふうん」
ダナフォルトが無表情のまま、杖を檻に向ける。
「・・・怖くないのか?」
「怖い。でも、これに勝てなきゃ弟子にしてくれないんでしょ?」
「そうだ。足手まといは作りたくない。大昔、俺に弟子入りしてきた者はみんな戦いで死んだからな」
杖先を見つめながら言う。
「俺がいなくなったらスタートだ。7体全て倒せたら認めてやる。もう一度、言っておくが、こいつらは容赦ないからな」
「うん」
「死にそうになっても助けには来れないからな」
「大丈夫、私が勝つ。必ずね」
リハーナが杖を持ち直すと、魔力が1秒凪いだ。
ダナフォルトが一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに視線を逸らした。
転移魔法陣を発動させる。
シュッ
ダナフォルトはリハーナと召喚獣の戦闘の様子を全く見ずに、部屋に戻っていた。
椅子に座って、少し温くなったハーブティーに口をつける。
「ダナフォルト様、お客様です」
ベルフェゴールがドア越しに声をかける。
「今忙しいって・・・」
「お通ししますね」
「おい!」
ベルフェゴールがダナフォルトを無視して、ドアを開ける。
アルバスが目じりに皺を寄せて、ダナフォルトを見つめた。
「ダナフォルト様・・・・」
「なんだ、アルバスか」
「・・・む、その反応は、少しショックではありますが・・・」
アルバスが咳払いをする。
「ハハ、嘘だって。アルバス、よくやってくれてありがとな。おかげで国も元に戻りつつある。魔法学校も早く元に戻るように動いてくれてたんだろ?」
「いえいえ、司祭として当然のことをしたまでです」
アルバスが言いながら、子供のように満面の笑みを浮かべた。
ベルフェゴールが頭を下げて、ドアを閉める。
「でも、アステリア魔法学校の校長は・・・・」
「聞いたよ。俺が直前まで戦ってたんだろ? さすがだよ・・・俺がもっと早く来れていればな・・・・」
「はい。彼女らしい最期でした」
「彼女がいたから助かった生徒も多い。生徒もいきなりこんなことがあって、傷ついてるだろうな」
「そうですね」
アルバスが声を詰まらせた。
「明日から学校が始まりますが、ダナフォルト様は生徒として通われるのですか?」
「まぁな。ぶっちゃけ、正体バレたから気まずいよ。でも、ちょっと色々な契約の問題でね、これからも通わせてもらうよ」
ダナフォルトが立ち上がって、遮光カーテンを閉める。
「はぁ・・・指導にあたっていただきたいという話をしにきたのですが、難しいですか・・・」
「だろうと思った。何度も言ってるだろ? 俺はレベル0だから教えられないんだって」
「実戦教育を、と思ったのですが」
「実戦教育ならまずは軍でしょ。王国騎士団長たちが実戦を求めるなら、声かけてよ」
「え?」
アルバスが顔を上げる。
「おそらく、魔族がこの国に来る頻度も高くなるだろう。上位魔族が来たってことは、マーキングされたようなものだからな。今までは俺が倒してきたけど、今後は軍が感知して戦闘できるようサポートしなきゃいけないからな」
「・・・そうですね。ダナフォルト様はいずれ、旅立たなければいけないお方ですから」
「・・・さぁ、今回はどうかね」
ダナフォルトが軽く伸びをして、椅子に座り直した。
「今のところは予定が無いよ。他の3人が優秀だったから、仲間だった俺も英雄になっただけだし」
「ダナフォルト様・・・」
アルバスが何かを言いかけて呑み込んだ。
キィ・・・・
「失礼します。お口に合えばいいのですが」
「カモミールティーか。大好きだよ。ありがとう」
ベルフェゴールが入ってきてアルバスにハーブティーを差し出していた。
アルバスがソファーに座って、息をつく。
「国の復興の話ですか?」
「そうだよ。真面目な話だから、ベルフェゴールは席を外してて」
「かしこまりました。必要なものがありましたらお呼びください」
「はいはい」
ベルフェゴールが静かにドアを閉める。
しばらくダナフォルトとアルバスが、今後のラグナディア雷帝国の話をしていた。




