7 弟子にしてください
数週間が過ぎ、住人たちが力を取り戻していくと、瓦礫はあっという間に片付けられていった。
司祭アルバスの指示の元、身寄りのない子供たちのための孤児院も増設された。
また、崩れていた魔法学校も帝国騎士団長ハリスツイード率いる軍が、なるべく早く形だけでも戻したいと、徹夜で修復していた。
「すごいですね。瓦礫だった街がもう戻りつつあります」
「形だけかもしれないけどな」
「でも、あれ程のダメージを受けて、ここまで修復するとは」
「この国の住人は優し過ぎるんだよ」
ベルフェゴールが窓から街を眺めながら言うと、ダナフォルトが小さく呟いた。
「といいますと?」
「本当の悪を知らない。だから、大人は全員レベル50前後であっても、80%が衣食住に特化した魔法を職業にしてる。戦闘の魔法は学校で覚えた程度だろうな」
「確かにこれだけ緻密な魔法操作ができるなら、魔族の侵入を防げたと思いますね」
「・・・・・・」
ダナフォルトが遮光カーテンを閉めてソファーに寝転がる。
「・・・でも、殺し合いの魔法なんか、覚えてほしくなかったんだ。俺たち4人の目指した世界は、バカみたいに平和で、戦いの無い世界だったからな。今思えば、ただのエゴだよ。いつ崩れるかわからない平和だって、頭ではわかってたんだけどな」
自虐的に笑った。
「ダナフォルト様は、たまに頭が弱い部分がありますよね?」
「レベル0だから仕方ないだろ。つか、永遠に0だしな」
「まったく・・・・」
ベルフェゴールが笑みを浮かべながら呆れていた。
「ふわぁーこの本ももうすぐ読み終わるな。ベルフェゴール、新しい本持ってきて」
「かしこまりました。どんな本がよろしいでしょうか?」
「俺が好みそうな本」
ダナフォルトが開き直って伸びをする。
本の栞を抜いて、残り少ないページを捲っていた。
「あー、そういえば、アステリア魔法学校も元に戻ったらしいな。来週から授業始まるらしいんだけど、通わなきゃ駄目?」
「はい。もちろんでございます」
「えー、雷帝だって明かしたのに? 気まずいんだけど」
「魔法学校は必須です。では、空気の入れ替えでもしましょうか」
ベルフェゴールがにっこり笑って窓を開ける。
「帰らない!!」
「だから・・・・」
「ダナフォルトと会うまで帰らないわ!」
風に乗って外の会話が聞こえてきた。
「おや? ダナフォルト様、呼ばれているようですよ?」
「わかってて窓を開けただろ?」
ダナフォルトの言葉に、ベルフェゴールは笑みを崩さなかった。
「お引き取りください! 貴女はダナフォルト様の何なのですか!?」
「クラスメイトよ!」
「クラスメイト・・・でも、怪しいです。美少女でちょっと胸があるからって、ダナフォルト様に近づいて、騙そうとしているとしか思えません」
「だって、ダナフォルト様、クラスメイトとの交流は無いって言ってたもん」
「そうです! ダナフォルト様がクラスメイトと仲良くしているところなんか見たことありません!」
「そうだそうだ!」
ミュゼリアとベアルリアが交互に怒鳴っている。
アステリア魔法学校の制服が見えて、ダナフォルトが頭を掻いた。
「クククク、ひどい言われようですね」
「ベルフェゴール、マジで性格悪いな」
「悪魔なもので」
ベルフェゴールが心底楽しそうに笑っていた。
「ここまで言っても帰らないなら、殺すまで」
「抹消抹消!」
「っ・・・・」
ダナフォルトがだるそうに立ち上がって、瞳を赤くする。
シュッ
「はい、終わり」
ミュゼリアとベアルリアが杖と大剣を出したところで手首を掴む。
「ここで殺し合いは無しって言ってただろ?」
「でも、ダナフォルト様を守るためなので・・・」
「はぁ・・・彼女がクラスメイトなのは確かだ。俺が話すから下がってて」
「・・・かしこまりました」
2人が武器を消して、渋々、一歩下がった。
「・・・・・ダナフォルト・・・」
「俺に何の用だよ。リハーナ」
ダナフォルトがリハーナに話しかける。
「今まで隠してきたことに、文句を言うなら・・・」
「・・・弟子にしてほしいの」
「は?」
「私を弟子にして!!!!」
「・・・・・・・・!?」
想定外の話に言葉に、ダナフォルトが固まった。
「な、な、な、な・・・・・・」
ミュゼリアとベアルリアが同時に震えていた。
2人が声を上げる前に、ダナフォルトが制止する。
「あ・・・・貴方の魔法を見て、この目で見て・・・強くなるには貴方の弟子になるしかないと思った」
ダナフォルトが緊張で涙目になっているリハーナを見て、ため息をつく。
「俺は弟子とかとってないんだ。レベル0だし、教えることなんかないし、そもそもアステリア魔法学校の生徒だしな。軍の強化は考えてるが・・・ま、クラスメイトとする会話じゃない。じゃあ、そうゆうことだから・・・」
「お願い、弟子にして!」
「ダナフォルト様が駄目だと言っております。これ以上長居するつもりなら、強制的にここから追い出します」
「何度でも何度でも来る。認めるまでここにいる。私はメルディ家の末裔だから・・・」
「!?」
ダナフォルトの顔色が変わった。
「この意味が・・・本当に貴方が雷帝なら・・・魔王を倒したという英雄の雷帝ならわかるはず・・・」
「メルディ家?」
ベアルリアが首をかしげる。
「俺の弟子になって、何をするつもりだ?」
「上位魔族、傲慢のルシファーに惨殺された一族の恨みを晴らすの」
「メルディ家・・・・聞いたことがあります。純血の魔法使いの一族・・・」
ミュゼリアが顔をしかめた。
「120年前、メルディ家は魔王討伐のために優秀な魔導士5人が向かったけど、上位魔族に敗れてしまい、見せしめに一族全員が殺された、とか」
「ん? 全員殺されたなら、彼女は?」
ベアルリアがもう一度首をかしげる。
「私・・・英雄ダナフォルトの見てきた世界を学んで・・・強くなって、強くなって、上位魔族を倒したい。魔王討伐のパーティーに・・・」
「ハハハハハ、無理に決まってるだろ? 敵を目の前にしたら戦うことさえできなかった奴が、魔王討伐のパーティーに入れるわけないだろうが」
「・・・・・」
ダナフォルトがリハーナをわざと大げさに馬鹿にしていた。
「そうね・・・前の私じゃダメ。でも、これから・・・」
リハーナは反論することなくダナフォルトの言葉を受け止めていた。
「あまり俺の仲間を軽く思うなよ。誰かのために、あんなに尽くせる奴らはいない」
ダナフォルトが背を向けて、軽く手を振る。
「ダナフォルト様・・・?」
ミュゼリアがダナフォルトのわずかな焦りを感じ取っていた。
「子供の夢に付き合う暇はないよ。行くぞ」
「何を言われたって、ここを動かないから・・・」
「あ、そ」
バタン
ダナフォルトが門を閉める。
リハーナは屋敷の前に立ったまま動かなかった。
「ミュゼ、ベア、屋敷に戻るぞ」
「でも・・・・」
「いいのですか?」
「放っておけ、ただのガキが騒いでるだけだ。すぐ帰る」
強い口調で言って、足早に扉から離れていく。
「あ、ダナフォルト様」
「・・・・・・」
途中すれ違ったアルトを無視していた。
終始無言のまま、ダナフォルトが早歩きで階段を上っていく。
ガラン
「ベルフェゴール・・・・」
ダナフォルトが勢いよく、食事の間のドアを開ける。
ベルフェゴールがハーブティーを調合していた。
「ん? そんなに息巻いて、どうされましたか?」
「知ってて・・・俺をあいつに会わせるために魔法学校に入れたわけじゃないだろうな?」
「あいつ? さぁ・・・なんのことでしょう?」
食器を拭きながら、意味深な笑みを浮かべる。
「リハーナ=メルディだ」
「あ、メルディ家ですか。懐かしいですね、ダナフォルト様」
「・・・・本当に悪魔だな」
「何をいまさら」
ダナフォルトが深く息を吐く。
長い瞬きをして、食事の間から出ていった。




