4 ベルゼブブ
― 守れ ―
「ったく、難しいことを託していくな。あいつは」
ダナフォルトがドルゴールの最期の言葉を思い出しながら、崩れたアステリア魔法学校を見渡していた。
「大切なもの・・・か。雷帝としての務めを果たそうとすることは・・・大切なものを守るっていうのか? 俺には、ぶっちゃけ、大切なものがわからないって」
「さっきから、一人で何を言ってるの?」
ベルゼブブが顔をしかめる。
「遠くに言った奴らに文句言ってたんだよ」
先に動いたのはダナフォルトだった。
軽く飛んで、瞬時に魔法陣の上に立つ。
ザッ ザッ ザッ ザッ
次々に魔法陣を展開して、飛び移るようにしながら、足で発動のタイミングを調整していた。
詠唱は無く、杖だけで魔法を生成していた。
「言っておくけど、あんたの戦い方は覚えてるから」
ベルゼブブが双剣の一方をブーメランのように投げて、ダナフォルトの魔法陣に突き刺した。
「なるほど、一応、力は昔のままってことね」
剣は魔法陣に刺さったまま動かなくなった。
ダナフォルトがベルゼブブのほうを見て、口角を上げる。
「へぇ、ちゃんと俺のこと本当に覚えてるんだ」
「当たり前でしょ。憎らしくて忘れたくても忘れられないわ!」
「こっちは忘れかけてたよ」
ジジッ
ベルゼブブが右手を翳して、魔法陣から双剣を引き抜いて笑う。
「ダナフォルト、あんた珍しいのよね。だって、レベル0、全てを魔力に変換できなきゃ何もできない雑魚じゃない」
ベルゼブブが翼を広げて、ダナフォルトを追いかける。
ダナフォルトがくるっと回って、攻撃をかわした。
「消耗戦には弱いのよね? 魔力が無ければなーんにもできないんだから」
「その何もできない奴にやられたのがお前らの魔王だよ」
「魔王様を侮辱しないで!!!」
ベルゼブブが叫ぶように言う。
「あのお方は素晴らしい方。まぁ、魔族の食事になるあんたらのような者には、魔王様の良さがわからないかもね」
「・・・・・」
ダナフォルトが無視して杖の魔法石をずらした。
魔法陣と魔法陣の間を、軽やかに渡る。
「昔のあんたにはあんたの能力を熟知して、戦略を立てるドルゴールもいない、どれだけの魔力があるか感知してカバーできるエレナも、魔力が満ちるまで時間稼ぎができるガードグもいない」
「・・・そうだな・・・・」
ダナフォルトが魔法陣を見つめながら言う。
ベルゼブブがダナフォルトに攻撃を繰り出す。
「そして・・・」
バチン
「昔みたいに、火力を上げてくれる仲間は誰一人としていない!」
ベルゼブブが挑発するように笑う。
瞬時にダナフォルトがシールドを展開してベルゼブブの闇をまとった刃を弾く。
「もし、あんたにレベルがあったらそんなこともなかったのかもね。あんた以外の3人はレベル99だったもの。どうせ、あんたは足手まとい」
「・・・・・」
「所詮は雷属性しか使えないレベル0。周りに持ち上げられて英雄になっただけの奴なんだから」
高らかに声を張り上げて、笑っていた。
「・・・・・・」
ダナフォルトもベルゼブブが長期戦に持ち込もうとしているのはわかっていた。
ベルゼブブの言う通り、漂う魔力が切れた瞬間、ダナフォルトはレベル0の子供に戻ってしまう。
魔王戦で火力のサポートをしていたのは、ドルゴールとエレナだった。
ダナフォルトが懐かしさに、頬を緩める。
7つ目の魔法陣に飛び乗って杖をベルゼブブに向けた。
― ガリディア・ウルス ―
雷鳴が轟く。
ドーン ギギギギギギギ
衝撃で瓦礫が浮き上がった。
ベルゼブブが双剣でシールドを作って、ダメージを軽減しながら地面に叩きつけられた。
「ぐっ・・・・」
ガタン
凹んだ瓦礫から血を拭って這い出てくる。
キィンッ
「あまり着やすく俺の仲間の名前を出すなよ。お前ら魔族なんかが、口に出していい名前じゃない」
ダナフォルトが杖を剣に変えてベルゼブブに突き付ける。
「これくらい・・・なんてことないわ・・・」
「随分息が上がってるようだが?」
「久しぶりの戦闘を楽しんでるだけ。みーんな弱くて、すぐ死んじゃうからね」
ベルゼブブが剣をくるくる回しながら扉がる。
ダナフォルトから距離を取った。
「でも、この魔法でも昔ほどの火力は無いみたいね。エレナの水属性があれば、もっと違ったのかもね。あ、エレナはもうとっくに寿命で死んじゃったか」
「・・・・・・」
ダナフォルトが無表情になる。
「ち・な・み・に・・・」と楽しそうに尻尾を丸めた。
「当然、雷属性の王国に来るんだから、雷属性の属性攻撃は効かないようになってる。ふふ、レベル0のあんたは、炎も水も風も使えないのよね? ここであんたを潰せば・・・・」
― 炎閃光 ―
ゴオオォォォオオオ
「!?」
ダナフォルトが炎を纏った剣でベルゼブブと双剣を切り裂く。
「黙れ、クズが」
「あれ? 斬られちゃった・・・?」
ベルゼブブが炎の中で首を傾げた。
「そうだよ。普通の魔族なら即死だな。ちなみに俺が雷しか使えないってのはガセだ。あいつらのほうが得意だったから、使う必要がなかっただけだ」
ダナフォルトが剣の炎を消す。
しゅうううぅぅぅぅううううう
「ついでに言うと、ガリディアの魔法陣は位置を間違えた。久しぶりで、忘れてたんだよね」
「負け惜しみが・・・・」
「頭おかしくなったのか? 勝ったのはこっちだ」
「っ・・・・・」
ベルゼブブが歯ぎしりをした。
ベルゼブブの足が煙のように白くなっていく。
「・・・まぁ、いいわ。せっかく、ここで雷帝を殺して、褒めてもらおうと思ったのに。でも、情報収集できただけで、褒めてもらえる。これからは、魔族の時代よ」
「甘いんだよ、雑魚が」
「あはははは、またね、ダナフォルト。次は殺しにくるから」
ベルゼブブが余裕な笑みを浮かべながら消えていった。
炎が鎮火されていく。
七つの大罪は切り裂いたくらいでは死なない。
心臓は別のところに保管されている。
だから、エレナは石化の魔法を使って、ベルゼブブの行動を永久に止めていた。
ダナフォルトがベルゼブブの気配が完全になくなるのを確認して、ため息をついた。
剣を杖に変えて、持ち直す。
「・・・・・・」
しばらく、自分が放った魔法の跡を眺めていた。
50年以上は使っていない魔法ばかりだった。
「ダナフォルト・・・」
「・・・あ、あぁ、ごめんごめん」
クラスメイトのリハーナが瓦礫から出ようともがいていた。
リハーナは逃げるのと、回復に魔力を使い、もう力が残っていなかった。
ダナフォルトがふわっと飛んでリハーナの足元に飛んでいく。
杖を向けてすっと瓦礫を浮かせた。
「っ・・・」
リハーナが力を振り絞って瓦礫から這い上がる。
ダナフォルトが手を差し出した。
リハーナが手を掴む。
「ありがとう・・・助かったわ。まさか、貴方が雷帝だったとは・・・でも、生き残ってる学校の人たちがどれくらいいるかわからないの」
「!!」
「私もレベルは高いほうだったと思ってたけど・・・まだまだね。えっ」
ダナフォルトがはっとした顔で、杖を落とした。
いきなりリハーナを自分のほうへ引き寄せる。
「フォルティナ!?」
ダナフォルトがリハーナの瞳を見つめて、とある少女の名前を呼ぶ。
「え・・・・・・?」
ダナフォルトの瞳が普通の色に戻っていく。
「フォルティナ・・・?」
「あ、ごめん、ごめん。ちょっと昔を思い出して・・・つか、早く助けられる人を助けなきゃな。俺、回復魔法はあまり使えないんだ。人を連れてくる」
ダナフォルトが杖を消して、アステリア魔法学校の外へ向かっていった。
リハーナが呆然としながら、自分の手を握り締めていた。




