3 平和の崩壊
「は・・・?」
ダナフォルトがラグナディア雷帝国に戻ると、思いもよらない光景が広がっていた。
魔族が入り込み兵士たちが必死になって戦っていた。
あちらこちらで魔族に食われた者たちが倒れている。
主に襲撃されているのは、魔法学校だった。
ヘカテー魔法学校、ヘスティア魔法学校、フォルトゥナ魔法学校、ペルセポネ魔法学校・・・・。
学校の建物は崩れて、教師たちは魔族に捕らえられているか、殺されていた。
「・・・・・!?」
ダナフォルトに悪寒が走る。
大昔に見た光景が頭をよぎる。
― 目の前の守るべき者を、守れ ―
ドルゴールの最期の言葉、よく話していた言葉を思い出していた。
「ダナフォルト様・・・・!」
ベアルリアが杖を握り締めて走ってくる。
「ベア! どうした? 何があった!?」
「ダナフォルト様がこの国からすぐのことです。多くの魔族が押し寄せてきました」
「いや、結界は張っていたはずだ・・・普通の魔族は入れないはず」
「上位魔族です! 暴食のベルゼブブがダナフォルト様のいないときを狙って結界を破壊しました・・・」
ベアルリアが息を切らしながら言う。
「ベルゼブブ・・・?」
「はい、本でしか読んだことないのですが・・・間違いありません。あの強さは、私が見たことのない・・・今まで出会ったこともない魔族です」
ベアルリアが息を切らしながら言う。
上位魔族はレベル96以上でなければ倒せないだろう。
いや、レベル96でも実戦経験が無ければ無理だ。
ダナフォルトが息をのむ。
「ベルフェゴールは屋敷に一歩も入れないと魔族を倒していて・・・ミュゼは怪我人の治療を最優先に・・・他の屋敷の者は戦闘に出ていますが食い止められず・・・」
「・・・はは・・・俺は肝心なときに何をやってるんだろうな。あいつらは、みんな息を引き取るまで、英雄としての役目を果たして死んでいったっていうのに」
ダナフォルトが自虐的に笑って、フードを取った。
「も、申し訳ありません、気づくことができず」
「俺のせいだ」
「だ・・・ダナフォルト様」
執事のドミニクが剣を持ってふらついていた。
魔力切れだ。
「ベア、ドミニクに回復薬を」
「はい!」
「どうか・・・お気をつけて・・・上位魔族はおそらくダナフォルト様をおびき出そうとして・・・ごほっ・・・ごほっ」
「無理しないで」
執事ドミニクを支えて、その場にしゃがんだ。
「ダナフォルト様が来てくれたので、もう大丈夫。ダナフォルト様は強いから」
ベアルリアがドミニクにささやいた。
ぐあああぁぁぁあ
魔族が群がって、もう死んだ一般人を食い漁っていた。
鼻を突くような血の匂い。
突然、瓦礫を踏んで、パン屋の老人が現れる。
「ダナフォルト! レベル0の君がここでできることは無い」
「・・・・・」
パン屋の老人がダナフォルトの肩を叩く。
頭から出血してた。
「ここは俺たちに任せて、外に出るんだ。ラグナディア雷帝国から」
「あははは! 可愛い子供だ。レベル0? 面白い子供ね。好物、好物だー!」
「いつかまた美味しいパンを焼いてやる。お前さんのところは上得意様だからな。さぁ、早く出るんだ。ダナフォルト!!!」
耳のとがった女魔族が現れると、パン屋の老人は斧を持ち直した。
「うおぉぉぉぉおおお」
震える腕を押さえて、女魔族に飛び掛かっていく。
「へ・・・?」
ダナフォルトが女魔族を睨みつける。
ドンッ
額に穴が空いて、そのまま倒れていった。
バタン
「・・・・?」
パン屋の老人は斧を持ったまま呆然としていた。
ダナフォルトはドルゴールのように、兵士を訓練していなかった。
エレナのように回復魔法を教えたり、ガードグのように攻撃をかわす術を教えたりしたこともない。
ダナフォルトは、魔族は全て自分で倒せばいいと思っていた。
寿命がある、あいつらと違うから・・・。
悪魔ベルフェゴールとの契約が切れるまでレベル0のまま歳を取らない。
魔族が完全にこの世を去るまで、自分だけでなんとかなると思い込んでいた。
ラグナディア雷帝国の住人には、残酷非道な魔族と関わってほしくなかった。
「クソが」
こぶしを握り締めて地面を蹴る。
「ダナフォルト・・・?」
「もう心配いらない」
「・・・その瞳・・・赤く・・・」
パン屋の老人が小さく呟く。
ダナフォルトの瞳が赤くなる。
空中から黄金の杖を出して、目の前に突き刺した。
漂う魔力がダナフォルトの周りに集まってくる。
しゅううぅぅうぅぅぅううう
― ディグド・スラム ―
ラグナディア雷帝国に255個張り巡らされた魔法陣が一気に光りだす。
一瞬、魔族と兵士たちとの攻防が止まる。
バチン
ダナフォルトが杖を振ると同時に、帝国内に雷鳴が轟いた。
ドドドドドドドドドド
悲鳴すら上げる間も与えなかった。
魔族に電流が走り、瞬時に魔族が焼け焦げて灰になっていった。
「あの子供・・・レベル0じゃ・・・」
魔族と戦っていた兵士たちが、力が抜けたようにその場にしゃがむ。
動ける者の中にも、今にも死にそうなほど出血している者もいた。
「まさか・・・雷帝・・・様・・・・?」
「いや・・・雷帝は大昔に死んだはずじゃ・・・・だって、生きてたら」
周囲の者たちがあっけにとられた表情でダナフォルトに声をかける。
ダナフォルトがふわっと飛んで、ベアルリアに近づいた。
「屋敷から回復魔法ができる者を呼んできてくれ。なるべく重傷者から先に」
「はい・・・」
「うっ・・・ガストン!」
「い、今、治療を!」
小さく華奢な聖女が、傷を負った兵士たちに駆け寄っていく。
ダナフォルトは血を吐いて倒れている兵士を横目に、杖を持って地面を蹴って飛ぶ。
周囲の魔力は全て、ダナフォルトに集まっていった。
こみあげてくる怒りを、どうにか抑えていた。
魔族と戦って生き残った者たちが、唖然としながらダナフォルトを見つめる。
アステリア魔法学校に上位魔族ベルゼブブがいる。
ダナフォルトの中ではすべてが繋がっていた。
魔力の揺らぎは、気のせいなわけではない。
平和ボケして、もう奴らに会うことは無いと思っていただけだった。
ダナフォルトが飛びながら、地上を見る。
教師は食い殺され、生徒たちも出血したまま倒れている。
机も魔法道具も本もめちゃくちゃになっていた。
ほんの数人残った生徒たちは覚えたての魔法でシールドを張っている。
レベルは20前後、まだ実戦経験の無い生徒ばかりだ。
自分たちを攻撃していた魔族は死んだが、状況が理解できていない生徒しかいないのか、ずっと涙を流しながら、杖を握り締めていた。
ダナフォルトの杖を持つ手に力が入る。
シュンッ
「へぇ、雷帝ダナフォルト。まだ生きてるって噂は本当だったんだ」
瓦礫の上に立って、双剣を持っているのは暴食のベルゼブブだった。
魔王に仕えていた7人の上位魔族の1人であり、大食いの女魔族だった。
「上位魔族である私の部下を一気に殺すなんて・・・ふふ、でも、状況がわかってよかったわ」
口に指をあててほほ笑む。
「エレナもガードグもドルゴールもいない。いるのはレベル0のあんただけ」
「112年前暴食のベルゼブブは確かにエレナがとどめを刺したが?」
「石化したのはとどめって言うのかしら。本当、ありがたいわ。こうやって当時の美貌もそのまま」
「はは、汚いババアが美貌とか気持ち悪い言葉を吐くなよ」
ダナフォルトが煽るように吐き捨てると、ベルゼブブが不機嫌な顔をした。
「相変わらず、クソガキね」
「威勢だけはいいんだよな。お前らは」
ザッ
ダナフォルトが笑いながら、ベルゼブブの前に立って杖を構える。
「ダナフォルト・・・・?」
クラスメイトのリハーナだけが顔をこわばらせながら、ダナフォルトとベルゼブブを見つめていた。




