2 英雄の最期の言葉
ヴェルガルド炎帝国は賑やかに活気づいていた。
魔道具も豊富で、魔法石を叩き売りしている商人のおばさんまでいた。
ダナフォルトは真っすぐ、ドルゴールのいる屋敷に入っていった。
「ダナフォルト様、お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
「あぁ、ありがとな」
「っ・・・・」
ダナフォルトがフードを取る。
ドラゴン族の兵士が涙をこらえながら、ダナフォルトを案内していた。
「ドルゴール」
簡素な創りの木のベッドに、もうすぐ死を迎えるドルゴールが横になっていた。
かつて、英雄として称えられた右腕は弱弱しかった。
「ダナフォルト・・・・」
「久しぶりだな、死に際に会えてよかったよ。俺が到着する前にくたばるかと思ってたからさ」
「フン、相変わらず、口の悪い奴だ」
ダナフォルトが軽く笑って、ドルゴールの傍にある椅子に座った。
兵士がそっと扉を閉める。
「ドラゴン族も老けるんだな」
「ガキにはこの渋いかっこよさがわからないのか」
「ガキじゃないって。もう100年以上生きてるんだから」
「ダナフォルト」
「・・・・・」
ドルゴールがダナフォルトの頬に手を伸ばす。
「結局、悪魔と契約したお前だけが残ってしまったな」
「・・・別にいい。契約したときに覚悟していた。見送るのは慣れてる」
ダナフォルトが悲しそうに笑いかける。
「エレナはお前のこと好きだたんだぞ」
「は?」
「ガードグは賭け事が好きで、装備を全部取られた時があったなぁ。あの時は俺が殴り掛かって、エレナが止めて・・・ダナフォルトはただ爆笑してるだけだったなぁ」
「はは、走馬灯でも見てるのかよ。とっとと休めって」
ドラゴンの鱗が浮き出た、ドルゴールの手を握り締めた。
「あとは、俺に・・・」
「雷帝ダナフォルト、パーティーで一番年下だった、お前を一人残していくのは心配だな。他の2人に怒られそうだ」
「もうどれだけ生きてると思ってるんだよ。心配するなって」
「お前はいつまでも、最年少の、俺たちのリーダーだ」
「!!」
ダナフォルトが目を丸くする。
「・・・無理はするな。シンプルに生きろ。深く考える必要はない。目の前のことだけでいい。お前の力は、まだこの世に必要だから、生き残るんだ」
「・・・・・・」
「ただ、目の前の守るべきものを・・・」
― 守れ ―
「ドルゴール」
ドルゴールの手の力が抜けて、息を引き取った。
ダナフォルトは無言のまま、しばらく椅子に座って窓の外を眺めていた。
「・・・じゃあな、親友」
立ち上がる。
光が差し込み、鳥がじゃれあいながら飛んでいくのが見えた。
「ドルゴール様・・・・」
炎帝ドルゴールの周りにいた、ほんの数人だけが集まり、小さな葬式を開いた。
英雄が静かに送り出されるのは、魔族に炎帝がいなくなったと気づかなくするためだった。
ダナフォルトが白い花を棺に置いて、軽く飛ぶ。
帝国軍の指揮官らしき男に声をかけた。
「ヴェルガルド炎帝国の軍はすぐに動ける状態にあるよね? エレナのときも、ガードグのときも、死んでから数日から数週間、魔族の攻撃が止まらなかったんだ」
「はい、炎帝ドルゴール様から指示を受けています。軍は既に配置しており、24時間体制をとっています」
「さすが、ドルゴール。ぬかりがないな」
「我々、帝国軍はドルゴール様に鍛えられた力があります。必ず民を守ります。でも・・・・・」
男が堪えきれず涙を流す。
「ドルゴール様がいらっしゃらなくなるのは寂しいですね。自分が幼き頃から指導を受けていたので・・・」
「そうだよな」
あちらこちらですすり泣く声が聞こえていた。
ドルゴールは一般人として暮らしていたが、多くの民から愛されていた。
英雄だったということを隠しても・・・。
ダナフォルトが長い溜息をついた。
棺に向かって一礼してからフードを押さえながらヴェルガルド炎帝国から出ていった。




