1 レベル0の雷帝
「ふふ、今日の紅茶のお味はいかがでしょうか?」
「別に、いつもと同じだって」
「私が学校に通うように言ったから拗ねてるのですか? でも楽しいでしょう?」
「楽しそうに見えるか?」
ダナフォルトの契約した悪魔であり、執事でもあるベルフェゴールが笑いながら言う。
見た目は19歳くらいの青年で、白い手袋をはめていた。
ベルフェゴールが悪魔だということを知る者は、この屋敷にはいない。
同僚のミュゼリアでさえ、知らなかった。
ダナフォルトがカップを置いて寝転がる。
「つか、なんで唐突に学校へ行けって言いだしたんだよ。朝も早起きしなきゃいけないし」
「当然、私の嫌がらせです」
「だろうな」
ベルフェゴールが楽しそうにしながら、ダナフォルトのカップを下げていた。
「レベル0の雷帝の扱いが面白くて」
「やっぱり悪魔だな。はぁ・・・ガキの相手はだるいんだよ。できればずっと寝てたいね」
「人間の考えは勉強になります。レベルでしか測れない子供たちは純粋というか、世間知らずというか・・・本当に可愛らしいですねぇ」
ベルフェゴールがほほ笑む。
「仕方ないだろ。今は比較的平和な世の中だからな」
ダナフォルトが天井を見つめながら言う。
「そういえば、アステリア魔法学校の魔力が揺らいでるんだよ」
「といいますと?」
「こうゆう感じだ」
手を挙げてぶらぶらする。
「なんていえばいいんだろうな。一定だった魔力の中に、波が立っているような感覚だ」
「なるほど・・・それは興味深いですね」
「ま、どうせ・・・」
突然、ダナフォルトの指先に電流のようなものが走った。
「・・・・」
ダナフォルトがぱっと起き上がって、黒いローブを羽織る。
「いかがされました?」
「魔族だ。ラグナディアのすぐそこまで来てる」
「それはそれは・・・いってらっしゃいませ」
「速攻終わらせるから、誰も来るなと、ミュゼとベアに伝えておいてくれ。どうせ雑魚だ」
「かしこまりました」
ベルフェゴールが丁寧に頭を下げた。
ダナフォルトが目を閉じて周囲の魔力を集める。
足元に転移魔法陣が展開された。
シュッ
魔法陣はラグナディア雷帝国の外に続いていた。
ダナフォルトがフードを被る。
サァァアアアアア
7体の人間のような姿をした魔族が角と尻尾を隠して歩いていた。
ダナフォルトを見つけると、図体のでかい魔族が近づいてくる。
「人間の子供、いい匂いだ・・・・ぼうや、いくつかな?」
「おじさんたち、魔族?」
ダナフォルトが試すような口調で見上げる。
「そうだよ。特にお前のような魔力の無いガキも大好物だ」
尻尾を出してにんまりする。
「デズ、俺たちの目的はラグナディア雷帝国の人間だろうが」
「そうだよ。人間のフリして潜入する計画が台無しじゃん」
「雷帝がいるっていうから気を付けないと。でも、ぬくぬく暮らしている人間のいい匂いがするんだよな。甘くて美味しい・・・」
「あぁ、我慢できない。むしゃぶりつくしたいわ」
「私は頭からかぶりつきたい!」
鋭い牙を出す。
魔族たちが人間の変装を解いて、人間をどうやって食べるか話していた。
「見つかったのはこのガキ一人。俺がここでこいつを食えばいい話だ。前菜ってところだな。まずは、右腕から」
「前菜はみんなで食べるものよ。私が7等分にしてあげる」
女魔族がよだれを垂らして、ダナフォルトに襲い掛かる。
― リディト・グルシャ ―
ダナフォルトが唱えると、瞳が赤くなり、女魔族の両手両足に金色に輝く剣が突き刺さった。
女魔族を宙に浮かべながら、ダナフォルトが涼しい顔で息をつく。
「な!?」
シュッ
― オン ―
他の6体の魔族も同じように金色に輝く剣が突き刺さった。
「み・・・見えなかった・・・・」
「魔力は無いはず・・・どこにこんな力が?」
「魔力の無い・・・・?」
「聞いたことがある。お前・・・まさか・・・・」
ダナフォルトが剣の刺さった図体のでかい魔族に近づく。
「レベル0の雷帝」
バチンッ
ダナフォルトが人差し指を空に向けると、剣に雷が落ちて、魔族が焼け焦げて跡形もなく消滅していった。
「俺、その名前で言われるの嫌いなんだよね。特に魔族には」
ダナフォルトが肩にふりかかる煙を払った。
魔法大国でありながら、ラグナディア雷帝国はほとんど戦闘が起こらない。
ラグナディア雷帝国に魔族が1体も入らないのは、ダナフォルトが強すぎるからだった。
突然、ダナフォルトの前に転移魔法陣が展開される。
中から出てきたのは、ミュゼリアだった。
「ダナフォルト様!」
「ベルフェゴールに来るなっつったのに」
「違います! あのっ・・・」
ミュゼリアが目から大きな涙をこぼしながら言う。
「東のヴェルガルド炎帝国・・・・炎帝のドルゴール様が・・・・もうすぐ・・・とのことで・・・ダナフォルト様に・・・」
「!?」
ミュゼリアが言葉を詰まらせた。
「わかった。すぐ行くよ。ミュゼとベアたちは俺が留守にしている間、ラグナディア雷帝国を頼む」
ダナフォルトがミュゼリアの頭をぽんと撫でて、マントを羽織り直した。




