プロローグ
北のラグナディア雷帝国は高い教育水準の魔法学校が複数あった。
中でも雷帝ダナフォルトのいるアステリア魔法学校は、帝国内有数の進学校にあたる。
「この水滴を宙に浮かべる魔法は、繊細な能力を使います」
「おぉー」
「さぁ、みんなも杖を使ってやってみて」
若々しい女教師がくるっと杖を回した。
クラスメイトたちが授業に集中している中、たったひとり、レベル0の14歳の雷帝ダナフォルトだけがあくびをしながら頬杖をついていた。
112年前まで、魔族は魔王を中心に繁栄を極め、人々の生活を脅かしていた。
150年の間、多くの種族が生き残りをかけて、何度も軍を率いて戦ってきた。
でも、魔王を倒せる者は現れなかった。
雷帝ダナフォルト率いる、ドルゴール、エレナ、ガードグのパーティー以外は・・・。
「わぁ、できた!」
女子生徒が目を輝かせる。
「さすがレクト様、覚えが早い!」
「大したことないよ。まだレベル23だし」
クラスの中心的な人物、レクトが得意げに水を浮かべていた。
「いいなぁ、私なんかまだレベル18だから」
「模擬戦闘はレベル順に勝てるわけじゃないしね」
「でも、レベルは高いほうがいいに決まってる」
「あまりレベルの話をするなって。ほら、このクラスにはレベル0で入学してきたダナフォルトがいるんだからさ」
男子がダナフォルトを見ながら笑っていた。
ダナフォルトが窓の外を眺めながら無視する。
「この学校偏差値いいはずなのになんで、レベル0が混ざってるんだよ」
「止めなって」
「コネだろ、レベル15以下のやつなんて見たことないしな」
「絶対そうだよ。だって、あいつの家金持ちっぽいし」
男子たちがダナフォルトをからかう。
先生が何もしないダナフォルトを見て、呆れたようにため息をつく。
先生たちは事情を知らないため、何も言わずにダナフォルトに教育することを諦めていた。
ダナフォルトが雷帝ということを知っているのは、ラグナディア帝国のほんの一部の者たちしかいない。
一番大きな王国ゼウシティア王国の国王は、夢の中で女神の啓示を受けた。
東西南北にある帝国に、魔王を倒した者たちを配置し、数十年の間は魔族の脅威を抑えるというものだった。
北のラグナディア雷帝国はダナフォルト
南のサラスヴァリ風帝国はガードグ
西のアクエリア水帝国はエレナ
東のヴェルガルド炎帝国はドルゴール
4人はパーティーを解散し、魔族の勢力を抑えるために東西南北にある帝国に一般人と紛れながら暮らしていた。
魔王討伐から100年以上経ち魔族の脅威も薄れてきた頃、南のサラスヴァリ風帝国のガードグ、西のアクエリア水帝国のエレナは寿命で亡くなった。
英雄たち2人のの最期は静かだった。
ダナフォルトは2人が死んだとき、白い花を置いて、何も言わずに去っていった。
ダナフォルトだけが歳を取らなかった。
「・・・・・」
ダナフォルトは遠くを見つめながら、遠い昔を思い出していた。
「それでは授業終了ですね。各自、杖をしまって、家に帰ってからも練習するように」
「はい!」
女教師が魔法を解いて、本をまとめる。
魔王を討伐して100年以上が経ち、比較的穏やかな日々が流れていた。
カーン カーン カーン カーン
授業終了のチャイムが鳴り響く。
「あー、今日1日終わった。お前今日どこ行くの?」
「塾だよ。俺、まだレベル17だからさぁ」
ダナフォルトの前の席の生徒が話していた。
「レベルの話ばかり。実戦が無きゃ本当の能力なんてわからないんだから」
レベル28のリハーナが黒く長い髪を後ろにやって、ダナフォルトを見る。
ダナフォルトが当然のように無視する。
ガランッ
ダナフォルトのメイド、14歳、銀髪ショートのミュゼリアが勢いよく扉を開ける。
「ダナフォルト様! お迎えに上がりました」
「ミュゼ、今回は私がダナフォルト様を迎えに行くって言ったのに」
「ベアは支度が遅いのよ」
「だって・・・」
隣にいるのはミュゼリアの双子の妹でメイド、青髪ショートのベアルリア。
「げ・・・」
ダナフォルトがあからさまに嫌そうな顔をする。
クラスメイトたちがざわつく。
屋敷の者たちは一般人として暮らしているダナフォルトを、目に余るほど過保護に扱っていた。
・・・が、周りの生徒たちは事情を知らない。
レベル0のダナフォルトがコネで入ったと噂されるのも当然だった。
ダナフォルトがだるそうに腕を回しながら教室を出ていく。
「教室には来るなって言っただろうが。ったく」
「ダナフォルト様に一刻も早く会いたくて」
「私も私も!」
ミュゼリアとベアルリアが交互に主張していた。
ダナフォルトが頭を掻いて、ため息をついて階段を下りていく。




