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レベル0の雷帝  作者: ゆき
魔導闘技大会

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25/30

24 リハーナの信頼

 ダナフォルトが肘をついて、戦闘の様子を眺めていた。

 魔導闘技大会は熱気と活気に満ちていたが、ダナフォルトは無表情だった。

 1回戦の各トーナメントが終わっても、一言も発さなかった。

 

「ダナフォルト様」

「ん?」


「トーナメントが無事終わったのに、さっきから表情が険しいですね。何かありましたか?」

 ベルフェゴールがまっすぐ前を見たまま、ダナフォルトに話しかける。


「いや・・・集中してただけだ。リハーナたちは1回戦残れたみたいだな」

「威勢のいいギルドマスターが相手でしたけどね。あのモルウェンがいるのですから、順調に勝ち上がりそうですね」

「さぁ・・・・どうか、わからないけどな」


「なるほど、モルウェンが全力で戦わなかったのには何かそれなりの理由があるのですね。今のダナフォルト様の緊張感と繋がります」

 ベルフェゴールがにやっとする。


「私も注視したほうがいいでしょうか。神秘罰騎士団(ジャッジメント)がいるのであれば、リハーナ様は狙われてしまいますものね」

「・・・・知ってたのかよ」


「まぁ・・・ダナフォルト様の瞳を通して、見ることができますから。でも、彼らは身を隠すのが上手い。私でもわかりません」

 口に手をあてながら、ざっと周囲を見渡していた。



 1回戦が終わり、勝者と敗者に分かれた者たちが互いを称えあっている。

 怪我人はほとんどなく、死者が出るような戦いにはなっていない。

 聖女が待機していて、すぐに回復できる体制を組んでいた。


 国全体が一つになり、魔導闘技大会を楽しんでいるように見えた。


 雷帝ダナフォルトの周りだけは、空気が張り詰めていた。


「師匠様!!」

 リハーナが駆け寄ってきた。

 クラウドとナターシャが呼吸を浅くして、後ろからついてくる。


「1回戦勝ち抜くことができました」

「あぁ、見てたよ。よかったな」

 ダナフォルトが立ち上がって、表情を明るくした。


「勝ったのに、クラウドたちは浮かない顔だな?」


「俺たち何もできなかったしな。動くこともできなかった」

「ただ、杖を持って立ってるだけだった・・・」

 ナターシャが俯いて悔しそうに言う。


「リナお姉さま、出店で美味しいパンが売っていました。甘くて、シナモンの香りがするんですよ」

 モルガーナがテンション高く、紙袋を持って駆け寄ってきた。


「モルガーナ、どこに行ってたの?」

「美味しいものを探してましたの。あつあつが美味しいので是非。はい」

「あ、ありがとう。これ、私がすっごくすきなパン。ねぇ、クラウドたちも食べる?」


「ありがとう、もらうよ」

「お腹すいてたの。嬉しい。ありがとうね」


「仕方ないわね。リナお姉さまと楽しみたかったのに・・・」


 モルガーナが袋を開けるとパンの甘い香りがした。

 リハーナが木の実のついたパンを、クラウドたちに配る。


「師匠様たちはいかがですか?」

「俺はいいよ」

「私も本日は食欲がなく・・・。お気遣いありがとうございます」

 ベルフェゴールがやんわりと断る。


「ふうん、退屈そうね?」

「モルガーナ、もう少し押さえろよ。アステリア王国の生徒たちは、自分と同じ学校の生徒の活躍を見に来てるんだからな」

「仕方ないじゃない。リナお姉さまに襲い掛かろうとした向こうがいけないのよ」


「何もしなかったら闘技大会の意味がないだろうが。補佐に回れよ。コントロール下手すぎるだろ」


 モルガーナがダナフォルトを睨みつける。


「うるさいわね、レベル0固定が」

「イキるなよ、ロリババア。血圧上がるぞ」

「なんですって?」


 モルガーナがダナフォルトの前に立つ。


「こんな可愛い少女を見・・・」


「っと、まぁまぁ・・・落ち着いてください。みんなが見てますよ」

 ベルフェゴールがモルガーナとダナフォルトの間に滑り込む。


 3人がきょとんとした顔で、ダナフォルトとモルガーナを見つめていた。


「あれ? 2人はこの前会ったばかりじゃないのですか?」

 リハーナが、目を丸くしていた。


「えっ!? あ、会ったばかりだよ。なぁ、モルガーナ」

「そそそ、そうよ。会ったばかりですわ。うん、うん、美味しいですわ。美味しすぎてつい・・」

「確かに美味しいからな。ちょっとズレるよな」

「そ、そう。ズレるの」

 モルガーナが紙袋からパンを出して、食べながら頷く。

 

 明らかにぎこちなかったが、モルガーナの火力を見た後だからか、クラウドもナターシャも放心状態だった。

 リハーナは首をかしげていたが、特につっこむことなくパンをもぐもぐ食べていた。


「とにかく、あまり目立つなよ」

「はいはい」

 モルガーナがダナフォルトに紙袋を渡した。

 パンが1つだけ入っている。


「じゃ、クラウド、ナターシャ、戻るわよ」

「えっ、俺たち?」

「貴方たちの動きが遅い原因が分かったから、少し練習に付き合ってあげる。というか、付き合いなさい。2回戦が始まるまでの数時間で立て直さなきゃ」


「わわっ、ちょっと・・・・」

「いや、戦闘前だから・・・ほら、魔力を整えないと」

 クラウドが両手を振って、一歩下がる。


「何、甘いこと言ってるの?」

 モルガーナが本気で怒っていた。


「そもそも、リナお姉さまとパーティー組んでるのに、自分たちがどれだけ弱いかわかってないのね。戦う直前まで、鍛え直してあげるわ」


「え・・・・」

 モルガーナがクラウドとナターシャの服をつまんで闘技場内に戻っていく。




「師匠様・・・」

 残されたリハーナが、すっとダナフォルトに近づいた。


「師匠様・・・申し訳ありません。私、まだ補佐魔法しか使えていないのに、勝ち上がってしまいました」

「謝ることないって。モルガーナが魔法打つの早すぎるんだ。かなりの実力者だろうからな」

 ダナフォルトが伸びをしながら言う。


「でも、次はリハーナの活躍も期待してるよ」


「師匠様は何か隠していますね?」

「え?」

 リハーナがダナフォルトの顔を覗き込む。


「目が泳いでいます。きっと、モルガーナから何か聞いたのでしょう?」

「えっ、いや、何も・・・」


「ふふ、師匠様は嘘が下手ですね」

 目を細めて笑う。


「モルガーナを見ていればわかります。私に、何か起こるのですね」


「い、いや・・・・・・」

 ダナフォルトが紙袋に爪を食い込ませる。


「でも、大丈夫です」

「どうして・・・」


「何かあれば師匠様が助けてくれますもの、ね」


 リハーナの笑顔が、フォルティナと重なる。


「・・・・!!」

 ダナフォルトが息をのんだ。

 ベルフェゴールがダナフォルトをちらっと見て、視線を逸らした。


「もう! モルガーナ! あまりクラウドたちをいじめないでってば。これから戦闘なんだから」



「早く立ちなさい」

 モルガーナが杖を回す。

 クラウドがその場に座り込んで、ナターシャが肩を支えていた。


「だって、まだ魔力を練って・・・」

「遅いの。瞬発力が無い。早く立って」


 モルガーナがふらつくクラウドとナターシャを無理やりに立たせていた。

 周りにいたアステリア魔法学校の生徒たちが止めようとしていたが、モルガーナが睨むと何も手を出せずにいるようだった。


 リハーナが慌てて、2人モルガーナの間に入る。



「・・・・俺なんか信頼できると思うか? ベルフェゴール」

「ん?」


「どうして、リハーナは俺を信頼してるんだ? フォルティナも・・・」

 ダナフォルトが椅子に座って項垂れる。


「俺は・・・フォルティナに何かあれば、ラグナディア雷帝国だって潰すかもしれない・・・。ドルゴール、ガードグ、エレナたちのような英雄じゃないんだ」

 瞳を赤くしたまま言った。


「ベルフェゴールだって、そう思うだろ?」

「そうですね」


 ベルフェゴールが白い手袋をはめる。


「正直、私としては・・・ダナフォルト様には我々のような悪魔と魔族を束ね、是非とも頂点に立っていただきたい方です・・・・・でも、残念ながら、ダナフォルト様は信頼されているのでしょうね。こんなに国民が集まるのですから・・・」


「・・・・・・」


 ベルフェゴールが長い瞬きをしてから、モルガーナたちを眺めていた。

 ダナフォルトが目を閉じたまま、じっとしていた。

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