23 開幕
地下の部屋のランプの炎が揺れる。
ダナフォルトとフォルティナの影が伸びていた。
『お兄さまが何度もここに来るなんて珍しい。リハーナがいると、私と体を重ねたくなってしまうのでしょう? お兄さまもわかりやすい方ですね』
「フォルティナ・・・」
『よしよし』
フォルティナが子供をなだめるように言う。
『でも、大好きなお兄さまのお役に立てるならとっても嬉しいです。私はお兄さまだけのものですが・・・』
「もうすぐ・・・魔導闘技大会が始まる」
『お兄さま?』
「愛してるよ、フォルティナ。この愛だけは、誰にも奪えない」
ダナフォルトがフォルティナの手を握って、口元に持ってくる。
『・・・どうかされたのですか?』
「もし、リハーナに何かあったら、お前も消えるんだろう?」
『な・・・何かなんかありませんよ。リハーナはアンデッドなのでしょう?』
ダナフォルトが目を閉じて、ゆっくり深呼吸をする。
「もし、だよ」
『ふふ・・・お兄さまってば、おかわいい人。すごく怖がってる。震えてる。大丈夫よ、大丈夫ですよ・・・』
フォルティナがダナフォルトの頬を撫でる。
『でも・・・もしそんなことがあったら、お兄さまはどうするのでしょうね? 魔王にでもなってくれるのですか?』
「なるよ」
『え・・・?』
ダナフォルトが瞳に涙をにじませていた。
「俺はこう見えて愛が重いんだ。もし、フォルティナが俺の傍から消えていくようなことがあれば、何者にでもなってやる」
『お兄・・・さま、何かあったのですか?』
「リハーナも、だ」
『怖い夢でも見たのですか?』
「・・・・・」
『お兄さま・・・泣いてるのですか? どうしたら・・・』
「・・・・・・」
フォルティナが不安そうな表情でダナフォルトを抱きしめる。
ダナフォルトが瞬きをすると、涙が落ちていった。
パパパパーン
ギルドの音楽隊が華々しい音楽を奏でる。
ラグナディア雷帝国の中央にある闘技場には、多くの魔導闘技大会のエントリー者が集まっていた。
「これで・・・よし」
アルバスの弟子、ドーウェンが魔法のペンでエントリーリストを作成していた。
トーナメント方式で、初回の組み合わせはランダムに決められる。
「おー、すごいな、アルバス」
「準備は万全でございます」
アルバスが誇らしげに話していた。
「ダナフォルト様・・・・」
ドーウェンがダナフォルトに気が付くと、すぐに手を止めてダナフォルトの傍に来た。
「アルバス司祭から命を受けて今回の大会のジャッジを行わせていただく、ドーウェン=ボルトといいます。私の能力にジャッジメントがあり公平に物事を・・・」
「硬くならなくていいって、もっとリラックスしていいよ」
「は・・・はい・・・」
ダナフォルトが笑いながら、ドーウェンの背中を叩く。
「司祭からはエントリーなしなのか」
「もちろん、我々司祭はラグナディア雷帝国に仕えておりますから」
「面倒な仕事任せちゃって悪いね」
「いえいえ、とんでもございません。私もダナフォルト様同様、ラグナディア雷帝国の戦闘能力の底上げが必須だと思っておりますから」
アルバスが髭を触りながら言う。
「それにしても、よくこんなに人数集めたな」
ダナフォルトが闘技場と観客席の盛り上がりを確認する。
観客席では各魔法学校の生徒たちが、校章の描かれた旗を振っていた。
ギルドはギルドの紋章を、軍は国旗を掲げている。
ラグナディア雷帝国の国民全員が、同じ場所にいるようだった。
「魔族の侵攻を全員が見ていますから、我こそはと集まったのでしょう」
「・・・賞品は?」
「優勝者には賞金だけではなく、ラグナディア雷帝国内での1年食事無料券、1年飲み放題券など様々な景品を用意しましたから」
「1年食事無料券は羨ましいな」
ダナフォルトが壁に寄りかかる。
「新しい英雄を生み出すためです。私も身を削ります」
「え・・・アルバスのポケットマネーなの?」
「もちろんです。全財産を投資しました」
「・・・・マジか」
「はい!」
アルバスが鼻息を荒くすると、ダナフォルトが戸惑っていた。
「いや、な・・・なんとかするよ。金銭面は出すから。ごめん、悪かった、アルバス・・・」
「受け取れません! 老い先短い私ができることですから。是非やらせてください」
「・・・・・・・」
ダナフォルトがドーウェンに、「後で何とかする」と目で合図をしていた。
ドーウェンが申し訳なさそうに頷く。
「でも、皆の目的は、何よりも・・・」
「これだな」
ダナフォルトが腕にはめていた星形のブレスレットを取る。
5つの角には魔法石が埋め込まれていた。
「ゼウシティア王国の女神の祝福を受けたブレスレット。持つ者のほしい能力を与えるものだ・・・」
「そんな貴重なものを、本当に渡していいのですか?」
アルバスが目をしばしばさせながら言う。
「上位魔族や魔王を倒す可能性がある者が現れるなら、その者に渡したいんだ」
ダナフォルトがブレスレットを握り締める。
「ダナフォルト様、そろそろ開会式のお時間かと・・・」
「もう、そんな時間か」
ベルフェゴールが声をかけると、ダナフォルトが立ち上がる。
「でも、もう少しこの高揚感の中に居たいのは山々ですけどね。何事もはじまる前は血気盛んで、楽しいものですから」
「おぉ、貴方は・・・」
「ダナフォルト様の執事をしております、ベルフェゴールです。ご無沙汰しております。屋敷の者たちは、魔導闘技大会に出場しますが、私は引き続きダナフォルト様をサポートさせていただきます」
「そうか・・・よろしくな」
ベルフェゴールがにこやかに頷いていた。
ダナフォルトが壇上に上がる。
瞳を赤くして、剣を出した。
深く息を吐いて、大理石に剣を突き刺す。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
バチンッ
天から雷が落ちて、雷鳴が轟く。
ざわざわしていた魔導闘技大会の会場が一瞬にして静まり返る。
「改めて、雷帝ダナフォルト=レベナントだ。準備期間が短かったにも関わらず、よくここまで集まってくれた。本当にありがとう」
ダナフォルトの声が響いた。
「魔導闘技大会の目的は戦闘能力の底上げだ。皆も知っている通り、上位魔族が復活した・・・これからは112年前のように魔族が力をつけてくるだろう。多くの犠牲者を出してしまったが、彼らの命を無駄にしないためにも、戦闘能力を身に着けてほしい」
「そして・・・」と言いながら、星形のブレスレットを掲げる。
正面にいた一部の者から、歓声が上がった。
「次の英雄がラグナディア雷帝国から出てくれれば嬉しい。英雄になることは、簡単なことではないけどな。このブレスレットは持ち主を選ぶ。きっと、次の英雄の元に行くだろう」
赤い魔法石が光に反射してきらきらと輝いた。
ダナフォルトが星形のブレスレットを布で包んで、ポケットに入れる。
剣を引き抜いて、エントリー者をひとりひとり見つめていった。
何かを確認するように・・・。
「・・・次なる英雄に戦闘の女神の祝福があらんことを」
ゴゴゴゴゴゴゴ
ダナフォルトが声高らかに言う。
晴天にもかかわらず、雷が鳴っていた。
「・・・・・・」
ダナフォルトが剣を引き抜いて、壇上から降りていった。
「は、始まるのね・・・・緊張してきた」
「英雄かぁ、なれるかな」
「食事1年分は嬉しいかも」
闘技場内にいた人たちが、小さな声で話していた。
司祭たちがゆっくりと闘技場内に入って、自分の持ち場で立ち止まった。
観客席と闘技場の間に薄い結界を張っていく。
「皆様、トーナメントの順番が決まりました。各自確認をお願いします」
ドーウェンが中央に立ち、空中に名前の書かれたトーナメント表を出した。
人々がの視線が、真っすぐトーナメント表に向いていた。




