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レベル0の雷帝  作者: ゆき
魔導闘技大会

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23/30

22 感情を理解すること

 午前2時、月が雲に隠れていた。

 ラグナディア雷帝国から1キロ離れた場所で、魔族の影がうごめく。


 ― ディグド・グルシャ ― 


 バチッ

 

 ダナフォルトが魔族の集団に向かって、雷を纏う剣で切り裂いていった。

 魔族は反撃する隙も無く消えていく。


「・・・・・・・」

 ダナフォルトが軽く息を吐いて、剣を持ち直していた。



 パチ パチ パチ パチ


「ん?」


「お見事ね」


 モルガーナが拍手しながらふわっと飛んできた。

 ダナフォルトが剣を回す。


「モルウェン、いつからいたんだよ」


「今来たばかり。ラグナディア雷帝国を狙ってくる魔族っていまだに多いのね」

「まぁ、上位魔族が復活した分、魔族の動きも変わったよ。弱いのは変わりないけど、前ほどではない」


「私も久しぶりに戦おうと思ったんだけど、ダナフォルトに先を越されちゃった」

 モルガーナが杖を出して両手で握り締めた。


「魔導闘技大会に出るって正気か? モルウェン、ひとりの圧勝になるだろうが」


「一応、生徒会長やってるっていう、クラウドの許可は下りたわ。でも、言われたとおりに炎を出したら、ものすごく驚かれちゃって。アステリア魔法学校は進学校だっていうから、アレくらい普通だと思ったんだけど」


「・・・いや、100年以上生きてるエルフ族と、まだ14年しか生きてない子供を混同するなよ」

 ダナフォルトが顔を引きつらせる。


「魔導闘技大会が始まる前に軽く準備運動したかったの。力を押さえながら戦うって結構難しいからね」


 杖をなぞって、小さく詠唱する。

 

 ドンッ



「っと」

 ダナフォルトが一歩下がった。


 モルガーナの杖先から光線が放たれていた。

 一直線に輝き、遠くにいた魔族が数体倒れる。


「こんな感じだと死んじゃうし」

「魔導闘技大会で死人を出すなよ」


「もし、死人が出そうになったら、ダナフォルトが止めに入るんでしょ?」

「当然だ」


「・・・・・・本当に、甘いんだから。ラグナディア雷帝国が平和ボケするのも納得ね」

 モルガーナが瞼を重くして息をつく。



「それより、わざわざここまで来たってことは何か話でもあるんだろ?」

 ダナフォルトが持っていた剣を消した。


「言っておくけど、リハーナと同じ部屋にはさせないからな。強引に屋敷に住みつくとか、メルディ家も自由すぎるだろ・・・ったく・・・・」


「おそらく、魔導闘技大会の間に、リナお姉さまはさらわれるわ」


「は・・・?」

 モルガーナが杖を丸い羅針盤のようなものに変えた。

 宙に浮かせて、針の動きを見ながらダナフォルトの目を見る。


「神秘罰騎士団(ジャッジメント)という集団の名前を知ってるでしょ?」


「・・・あぁ、ゼウシティア王国の国王が気にしていた奴らだな。姿はほとんど見せず、独自の経典から外れる者を狙い、裁くとか・・・でも、今まで会ったことは無いよ」


「奴らが、リナお姉さまを狙ってる」


「!!」

 羅針盤の針が震えた。


「これは私が独自に編み出した、神秘罰騎士団(ジャッジメント)の持つ魔力を探知する魔道具。奴らがラグナディア雷帝国にいるの」


「マジかよ・・・」

 ダナフォルトが口に手をあてる。


「”アンデッド”か・・・」


「そう。彼らにとって”アンデッド”は経典からかけ離れてる、異質なもの。魔導闘技大会で、必ず姿を現す、混乱に乗じて、リナお姉さまを連れていくわ」

 モルガーナが羅針盤を手に置いて、シャボン玉を割るように消した。


「運命よ。これは、大魔女モルウェンとしての予言」



 ザアァ


「・・・・モルウェン・・・」


 モルガーナが本来の魔力を解放して、両手を広げていた。

 青い透き通るような魔力が広がっていく。


 ダナフォルトが赤い瞳を光らせた。


「敵は魔族だけじゃないのよ。私も全力を尽くすけど、もしものときはダナフォルトの力を借りるから。絶対にリナお姉さまは守ってみせる」


「・・・どうして、モルウェンはリハーナを気にかけるんだ?」


 ダナフォルトが剣を消してモルガーナに近づく。


「そもそも、昔は魔法への研究にしか興味が無かっただろ? エレナがパーティーに誘ったとき、『魔族と戦いたいのは新たな魔法を試したいだけだから』って断ってたよな。どうゆう心境の変化だ?」


「・・・言われてみれば、どうしてかしら・・・?」

 モルガーナが魔力を戻して自分の手を見る。


「いつから・・・・・何か魔法にかかっている感覚もないのに・・・リナお姉さまを守ろうとしてるのは・・・憧れ・・・なのかしら? でも、どうして憧れたの・・・?」


「はは、案外俺ら似てるのかもな」


「え・・・?」

「じゃ、先戻るから。魔族の残党がいたらよろしく」


「ちょっ・・・・」


 ダナフォルトが笑いながら、転移魔法陣を展開する。

 モルガーナが何か聞き返そうとしたが、すぐにその場から離れていった。




 取り残されたモルガーナが、首をかしげる。




-------------------------------------------


― XXX年前


『ダナフォルトは何考えてるかわからない!』


『は・・・?』

 旅の休憩中、エレナが急にダナフォルト指して声を上げた。


『わからなーい!』

『げ、まずい。エレナの飲み物に酒が入っていた』

 ガードグが酒の瓶と水の瓶を並べながら言う。


『最悪だな』

 ドルゴールが頭を抱えた。


『いつも無表情、もっと表情に出してくれなきゃわからない。感情を表情に出すの。表現するの!!!』

『落ち着けって、エレナ・・・』

『感情がわからないんだもん!』


『・・・・・・』

『あははは、ダナフォルトは何を飲むかな?』

 ドルゴールが押さえている間に、ガードグがダナフォルトとエレナの間に割り込む。

 ダナフォルトが足を組んで座り直す。


『・・・・なんでもいいよ』

『じゃあ、ハーブティーにしようか。回復用の・・・』


『ごめん、俺・・・やっぱり、おかしいよな。ガードグたちとは違うし、エレナが言うように何考えてるかわからないだろ? 悪魔と契約してるからなのか、感情の把握も難しいんだ』

 ダナフォルトがぽつりぽつり言う。


『レベル0だし、悪魔と契約してるし・・・力だって悪魔の力を使わなきゃいけない。それに・・・』

『ダナフォルト!』

 ガードグがダナフォルトの頭をぽんと叩いた。


『悪いのは、全部エレナだ。気にするな』

 にこやかに言う。


『私悪くない! 悪いのはダナフォルトだー!』


『酒癖が悪いんだよなぁ、エレナは。ほら暴れるなって』

『こうなったら、魔法で勝負・・・』

『訳の分からないこと言うな。あー、面倒くさい。毒じゃないし・・・薬草でも飲ませておくか』

 ドルゴールがじたばたするエレナを押さえつけながら、荷物に手を伸ばす。 


『・・・・・・・』

 ダナフォルトが困惑していると、ガードグが続けた。


『自分自身が何を考えてるのかわからないってのは、別に悪いことじゃない。誰かが把握していなきゃいけないなんて縛りもない』


『・・・・?』


『でも、俺たちはダナフォルトを信じてるし、ダナフォルトも俺たちを信じていればいいんだよ。感情は・・・そうだな、俺たちがいなくなった後に、ふと思い出す程度でいいからな』

 ガードグがさわやかにほほ笑んでいた。


 ダナフォルトが無言のまま、立ち上がる。


『ハーブティーが効くよ。ちょっと待ってて』

『ダナフォルト、ありがとな。エレナ無駄に魔力を練るな』


『詠唱無しで、水龍を呼ぶから。エレナ様の本来の強さを・・・・』


『おいおい、呼ばれた水龍も迷惑だろ。ガードグ、笑ってないで手伝ってくれ』

『ごほん・・・悪い、つい・・・』

 ガードグがエレナの暴れっぷりを見て、咳ばらいをした。


『すーいりゅー、私にちからをー』

『勘弁してくれ・・・これ、正気に戻ったら絶対落ち込むだろうな』 

『水龍呼んだから、伝説として語り継いでやろうぜ』

 ドルゴールが口角を上げた。


 ダナフォルトが荷物から出したハーブにお湯を注いで、エレナの介抱を手伝っていた。

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