22 感情を理解すること
午前2時、月が雲に隠れていた。
ラグナディア雷帝国から1キロ離れた場所で、魔族の影がうごめく。
― ディグド・グルシャ ―
バチッ
ダナフォルトが魔族の集団に向かって、雷を纏う剣で切り裂いていった。
魔族は反撃する隙も無く消えていく。
「・・・・・・・」
ダナフォルトが軽く息を吐いて、剣を持ち直していた。
パチ パチ パチ パチ
「ん?」
「お見事ね」
モルガーナが拍手しながらふわっと飛んできた。
ダナフォルトが剣を回す。
「モルウェン、いつからいたんだよ」
「今来たばかり。ラグナディア雷帝国を狙ってくる魔族っていまだに多いのね」
「まぁ、上位魔族が復活した分、魔族の動きも変わったよ。弱いのは変わりないけど、前ほどではない」
「私も久しぶりに戦おうと思ったんだけど、ダナフォルトに先を越されちゃった」
モルガーナが杖を出して両手で握り締めた。
「魔導闘技大会に出るって正気か? モルウェン、ひとりの圧勝になるだろうが」
「一応、生徒会長やってるっていう、クラウドの許可は下りたわ。でも、言われたとおりに炎を出したら、ものすごく驚かれちゃって。アステリア魔法学校は進学校だっていうから、アレくらい普通だと思ったんだけど」
「・・・いや、100年以上生きてるエルフ族と、まだ14年しか生きてない子供を混同するなよ」
ダナフォルトが顔を引きつらせる。
「魔導闘技大会が始まる前に軽く準備運動したかったの。力を押さえながら戦うって結構難しいからね」
杖をなぞって、小さく詠唱する。
ドンッ
「っと」
ダナフォルトが一歩下がった。
モルガーナの杖先から光線が放たれていた。
一直線に輝き、遠くにいた魔族が数体倒れる。
「こんな感じだと死んじゃうし」
「魔導闘技大会で死人を出すなよ」
「もし、死人が出そうになったら、ダナフォルトが止めに入るんでしょ?」
「当然だ」
「・・・・・・本当に、甘いんだから。ラグナディア雷帝国が平和ボケするのも納得ね」
モルガーナが瞼を重くして息をつく。
「それより、わざわざここまで来たってことは何か話でもあるんだろ?」
ダナフォルトが持っていた剣を消した。
「言っておくけど、リハーナと同じ部屋にはさせないからな。強引に屋敷に住みつくとか、メルディ家も自由すぎるだろ・・・ったく・・・・」
「おそらく、魔導闘技大会の間に、リナお姉さまはさらわれるわ」
「は・・・?」
モルガーナが杖を丸い羅針盤のようなものに変えた。
宙に浮かせて、針の動きを見ながらダナフォルトの目を見る。
「神秘罰騎士団という集団の名前を知ってるでしょ?」
「・・・あぁ、ゼウシティア王国の国王が気にしていた奴らだな。姿はほとんど見せず、独自の経典から外れる者を狙い、裁くとか・・・でも、今まで会ったことは無いよ」
「奴らが、リナお姉さまを狙ってる」
「!!」
羅針盤の針が震えた。
「これは私が独自に編み出した、神秘罰騎士団の持つ魔力を探知する魔道具。奴らがラグナディア雷帝国にいるの」
「マジかよ・・・」
ダナフォルトが口に手をあてる。
「”アンデッド”か・・・」
「そう。彼らにとって”アンデッド”は経典からかけ離れてる、異質なもの。魔導闘技大会で、必ず姿を現す、混乱に乗じて、リナお姉さまを連れていくわ」
モルガーナが羅針盤を手に置いて、シャボン玉を割るように消した。
「運命よ。これは、大魔女モルウェンとしての予言」
ザアァ
「・・・・モルウェン・・・」
モルガーナが本来の魔力を解放して、両手を広げていた。
青い透き通るような魔力が広がっていく。
ダナフォルトが赤い瞳を光らせた。
「敵は魔族だけじゃないのよ。私も全力を尽くすけど、もしものときはダナフォルトの力を借りるから。絶対にリナお姉さまは守ってみせる」
「・・・どうして、モルウェンはリハーナを気にかけるんだ?」
ダナフォルトが剣を消してモルガーナに近づく。
「そもそも、昔は魔法への研究にしか興味が無かっただろ? エレナがパーティーに誘ったとき、『魔族と戦いたいのは新たな魔法を試したいだけだから』って断ってたよな。どうゆう心境の変化だ?」
「・・・言われてみれば、どうしてかしら・・・?」
モルガーナが魔力を戻して自分の手を見る。
「いつから・・・・・何か魔法にかかっている感覚もないのに・・・リナお姉さまを守ろうとしてるのは・・・憧れ・・・なのかしら? でも、どうして憧れたの・・・?」
「はは、案外俺ら似てるのかもな」
「え・・・?」
「じゃ、先戻るから。魔族の残党がいたらよろしく」
「ちょっ・・・・」
ダナフォルトが笑いながら、転移魔法陣を展開する。
モルガーナが何か聞き返そうとしたが、すぐにその場から離れていった。
取り残されたモルガーナが、首をかしげる。
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― XXX年前
『ダナフォルトは何考えてるかわからない!』
『は・・・?』
旅の休憩中、エレナが急にダナフォルト指して声を上げた。
『わからなーい!』
『げ、まずい。エレナの飲み物に酒が入っていた』
ガードグが酒の瓶と水の瓶を並べながら言う。
『最悪だな』
ドルゴールが頭を抱えた。
『いつも無表情、もっと表情に出してくれなきゃわからない。感情を表情に出すの。表現するの!!!』
『落ち着けって、エレナ・・・』
『感情がわからないんだもん!』
『・・・・・・』
『あははは、ダナフォルトは何を飲むかな?』
ドルゴールが押さえている間に、ガードグがダナフォルトとエレナの間に割り込む。
ダナフォルトが足を組んで座り直す。
『・・・・なんでもいいよ』
『じゃあ、ハーブティーにしようか。回復用の・・・』
『ごめん、俺・・・やっぱり、おかしいよな。ガードグたちとは違うし、エレナが言うように何考えてるかわからないだろ? 悪魔と契約してるからなのか、感情の把握も難しいんだ』
ダナフォルトがぽつりぽつり言う。
『レベル0だし、悪魔と契約してるし・・・力だって悪魔の力を使わなきゃいけない。それに・・・』
『ダナフォルト!』
ガードグがダナフォルトの頭をぽんと叩いた。
『悪いのは、全部エレナだ。気にするな』
にこやかに言う。
『私悪くない! 悪いのはダナフォルトだー!』
『酒癖が悪いんだよなぁ、エレナは。ほら暴れるなって』
『こうなったら、魔法で勝負・・・』
『訳の分からないこと言うな。あー、面倒くさい。毒じゃないし・・・薬草でも飲ませておくか』
ドルゴールがじたばたするエレナを押さえつけながら、荷物に手を伸ばす。
『・・・・・・・』
ダナフォルトが困惑していると、ガードグが続けた。
『自分自身が何を考えてるのかわからないってのは、別に悪いことじゃない。誰かが把握していなきゃいけないなんて縛りもない』
『・・・・?』
『でも、俺たちはダナフォルトを信じてるし、ダナフォルトも俺たちを信じていればいいんだよ。感情は・・・そうだな、俺たちがいなくなった後に、ふと思い出す程度でいいからな』
ガードグがさわやかにほほ笑んでいた。
ダナフォルトが無言のまま、立ち上がる。
『ハーブティーが効くよ。ちょっと待ってて』
『ダナフォルト、ありがとな。エレナ無駄に魔力を練るな』
『詠唱無しで、水龍を呼ぶから。エレナ様の本来の強さを・・・・』
『おいおい、呼ばれた水龍も迷惑だろ。ガードグ、笑ってないで手伝ってくれ』
『ごほん・・・悪い、つい・・・』
ガードグがエレナの暴れっぷりを見て、咳ばらいをした。
『すーいりゅー、私にちからをー』
『勘弁してくれ・・・これ、正気に戻ったら絶対落ち込むだろうな』
『水龍呼んだから、伝説として語り継いでやろうぜ』
ドルゴールが口角を上げた。
ダナフォルトが荷物から出したハーブにお湯を注いで、エレナの介抱を手伝っていた。




