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レベル0の雷帝  作者: ゆき
魔導闘技大会

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22/30

21 大魔女モルウェン

 バチッ バチバチッ


 レベナント家の広い庭に火花が散る。

 ダナフォルトが杖を持ち直して、短く息を吐いた。


 パリンッ


「!?」

 リハーナの前に張っていたシールドが割れる。


 リハーナが息を切らしながら、杖を握り締めて、一歩下がった。


「簡易シールドの精度が悪いね。魔力の穴だらけだ」


「はぁ・・・はぁ、はぁ・・・詠唱無しで・・・ここまで・・・・」

「あと、息も上がりすぎ。体力が無くて、魔力に頼りすぎている」

 ダナフォルトがリハーナの杖を指で押さえる。


「魔族は弱点をよく見る。まだ、複数魔族の単独撃破は無理だろうね。1体か2体くらいなら倒せるかもしれないけど」

「も、もう一回お願いします!」


「駄目だ。今日はもう終わり」


 ダナフォルトが杖を消して、瞳を元の色に戻した。

 リハーナがふらっとして、その場に座り込んだ。


「あと、自分の限界を知ること。ベルフェゴールにハーブティーを調合してもらおう。ベルフェゴール」

「はい」

 ダナフォルトがベルフェゴールの名を呼ぶと、どこからともなく現れた。


「リハーナに回復のハーブティー調合してやってよ」

「かしこまりました」

 ベルフェゴールが胸に手をあてて頷く。


「すごいです、師匠様・・・」

 リハーナがダナフォルトを見上げてほほ笑む。


「学校にいる師匠様とは別人ですね。どちらが本当の師匠様ですか?」

「どっちも俺だって。今まではラグナディア雷帝国内で能力を使う必要なかったしな・・・」


 ダナフォルトが近くの岩に座った。


「あ、魔導闘技大会でアンデッドは使うなよ」

「はい。師匠様の言う通り、魔導闘技大会は戦闘能力の底上げが目的ですものね」

 リハーナが座ったまま、杖を消した。


「ダナフォルト様、リハーナ様、先ほどメルディ家を名乗る少女が来ました。客間で休んでいただいております」

 ベルフェゴールが客間の窓を見上げながら言う。

 ダナフォルトを見て、意味深に瞬きをした。


「モルガーナ?」


「はい。私がフォーマンセルに入れてほしいってお伝えした子になります。申し訳ありません、明日ご紹介するつもりだったのですが」


 リハーナが少しふらつきながら立ち上がった。


「お、大丈夫か? もう少し休んでいたほうが・・・」

「大丈夫です。師匠様にモルガーナを紹介しないと」

 リハーナが髪を耳にかけて、屋敷のほうへ歩いていった。


 ベルフェゴールが前を歩いて、「ご案内いたします」と話していた。

 

「・・・・・・ん?」

 ダナフォルトが顔を上げる。

 岩を下りて2人の後ろをついていった。 

 






「失礼します」


「わぁっ、リナお姉さま!」


 茶色の巻き髪を白いリボンで結んだ少女がリハーナを見てぱっと明るくする。

 あどけない顔で、ふわふわのワンピースを着ていた。


「・・・・・」

 ベルフェゴールとダナフォルトが無言で目を合わせる。


「モルガーナ、どうしていきなり来たの? 明日私と一緒に来るって言ったじゃない」


「リナお姉さまが急に出ていくなんて寂しくて来てしまいましたわ。それに、突然弟子入りするなんて、私聞いてなかったのですからね!」

「それは・・・ごめん、だけど」


 リハーナが少し困ったような顔をしていた。


「あ、師匠様、彼女がモルガーナ=メルディです。師匠様だからお話しするのですが・・・実は彼女禁忌魔法をたくさん使えるので、メルディ家の一部屋に閉じ込められていたらしくて」


「へぇ・・・・」

 ダナフォルトが瞼を重くする。


「私も屋敷にいるのをずっと知らなかったんです。幼く見えますが、実力は確かです。フォーマンセルの足を引っ張ったりはしませんから」


「はい! ダナフォルト様のことはリナお姉さまから聞いております。雷帝・・・でしたね。今後ともよろしくお願いします」

「・・・あぁ」


「・・・・・」

 モルガーナが深々と頭を下げる。


「リハーナ様」

 ベルフェゴールがすっとリハーナの隣に立って、声をかける。


「リハーナ様はダナフォルト様との手合わせの後ですから、ハーブティーを呑んで、休憩室で少し横になっていてください。それがいいですよね? ダナフォルト様」


「そうだな。体を休めるのも学びだ」


「でも・・・・」

「モルガーナから話は聞いておくよ。とにかく休んでろ。リハーナは自分が思っている以上に疲れてるんだからな」


「・・・承知しました」


 ダナフォルトが半ば強引に、リハーナに休むように促していた。

 ベルフェゴールがリハーナを連れて部屋から出ていく。



 バタンッ・・・






 ドアが閉まった。

 リハーナの気配が完全になくなったのを確認して、ダナフォルトがモルガーナに近づいた。


「久しぶりだな、モルウェン」


 ダナフォルトが低い声で言う。 


「まさかこんなところで会うとは思わなかったよ。何やってるんだ?」

「見たままよ。メルディ家にいるの」


「相変わらず人間のふりが上手いな」


「エルフ族は人間に近い種族だからね」

 ダナフォルトが言うと、モルガーナが髪を後ろにやった。


「ダナフォルトに会うのは、80年ぶりかしら。相変わらず歳をとらないのね」


「そっちもだろ? つか、今はモルガーナって名乗ってるのか?」


「そう、モルウェンの名を出すと、色々面倒だからね」

 急に大人びた口調で話し始めた。


「上位魔族も出てきたんでしょ? ドルゴールが亡くなったのも聞いたわ。メルディ家は居心地がよかったんだけど、そろそろ外に出なきゃって思ってたの」


 モルウェンは西のアクエリア水帝国で、名を馳せた大魔女だった。

 旅には出ないものの、魔族との戦闘において、何度もアクエリア水帝国の住人を救っていた。


 水帝エレナは絶大な信頼を置いていたが、エレナが亡くなると同時に人前から姿を消して、何十年も消息不明だった。


「リハーナに近づいて何するつもりだ? 何を企んでる?」

 ダナフォルトが睨みつける。


「何も。私もリナお姉さまのこと大好なだけ。ダナフォルトこそ、リナお姉さまになんてことしたの? 何回も殺したみたいじゃない!」


「・・・アンデッドなんかわかるわけないだろ?」


「どちらにしろ、リナお姉さまに危害を加えたことには変わりないわ。ダナフォルトなんかにリナお姉さまを預けられない」

 モルガーナが挑発するように言った。


「さっきから、リナお姉さまって・・・」


「ふふ、一緒の布団で寝たりもしてるの。羨ましいでしょ?」

「はぁ!? ババァが何言ってるんだよ」


「嫉妬してもしょうがないわよ。あぁ、ダナフォルトは見たことないんだものね。リナお姉さまのあーんな姿やこーんな姿・・・」

 モルガーナが頬に手をあてて目をつぶった。


「寝てるときも、とーっても可愛いんだから」

「正体バラすぞ」


「なんとでもいいなさい。私とリナお姉さまの仲はとってもいいし、簡単に崩れるような絆じゃないから・・・ま、ダナフォルトは一生味わえないと思うけどね」


「そんなのわからないだろ?」


「・・・・・」

 モルガーナがぴたりと動きを止める。


「やっぱり、あんたのところにリナお姉さまを置いておくのは危険だわ」


「危険なのはそっちだろ。表に出ろよ」



「いい度胸ね」


 モルガーナがカップを置いて立ち上がる。




「望むところ・・・・」




 ガタンッ


 リハーナが部屋に入ってきた。


「モルガーナ、ごめんね、言い忘れてた。私、モルガーナから借りた魔法石ひとつ割っちゃって・・・」


 ダナフォルトとモルガーナが一瞬で元の位置に戻った。

 モルガーナがにこやかに、座り直してリハーナを見る。


「全然問題ありません。魔法石はたくさんありますから」


「あれ・・・?」


「リナお姉さま、どうされましたか?」


「あの・・・今すごい魔力を感じたような・・・」


「リハーナは疲れてるんだよ。ほら、早く休んできな」


「あ、はい・・・」

「そうだ。古い魔導書読みたいって言ってただろ? 読みやすそうなの、持ってきてやるよ」


「嬉しいです! ありがとうございます!」

 リハーナの表情が明るくなる。


 ダナフォルトがリハーナを連れて部屋から出ていった。

 モルガーナが頬杖をついて、つまらなそうにクッキーを口に入れていた。

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