21 大魔女モルウェン
バチッ バチバチッ
レベナント家の広い庭に火花が散る。
ダナフォルトが杖を持ち直して、短く息を吐いた。
パリンッ
「!?」
リハーナの前に張っていたシールドが割れる。
リハーナが息を切らしながら、杖を握り締めて、一歩下がった。
「簡易シールドの精度が悪いね。魔力の穴だらけだ」
「はぁ・・・はぁ、はぁ・・・詠唱無しで・・・ここまで・・・・」
「あと、息も上がりすぎ。体力が無くて、魔力に頼りすぎている」
ダナフォルトがリハーナの杖を指で押さえる。
「魔族は弱点をよく見る。まだ、複数魔族の単独撃破は無理だろうね。1体か2体くらいなら倒せるかもしれないけど」
「も、もう一回お願いします!」
「駄目だ。今日はもう終わり」
ダナフォルトが杖を消して、瞳を元の色に戻した。
リハーナがふらっとして、その場に座り込んだ。
「あと、自分の限界を知ること。ベルフェゴールにハーブティーを調合してもらおう。ベルフェゴール」
「はい」
ダナフォルトがベルフェゴールの名を呼ぶと、どこからともなく現れた。
「リハーナに回復のハーブティー調合してやってよ」
「かしこまりました」
ベルフェゴールが胸に手をあてて頷く。
「すごいです、師匠様・・・」
リハーナがダナフォルトを見上げてほほ笑む。
「学校にいる師匠様とは別人ですね。どちらが本当の師匠様ですか?」
「どっちも俺だって。今まではラグナディア雷帝国内で能力を使う必要なかったしな・・・」
ダナフォルトが近くの岩に座った。
「あ、魔導闘技大会でアンデッドは使うなよ」
「はい。師匠様の言う通り、魔導闘技大会は戦闘能力の底上げが目的ですものね」
リハーナが座ったまま、杖を消した。
「ダナフォルト様、リハーナ様、先ほどメルディ家を名乗る少女が来ました。客間で休んでいただいております」
ベルフェゴールが客間の窓を見上げながら言う。
ダナフォルトを見て、意味深に瞬きをした。
「モルガーナ?」
「はい。私がフォーマンセルに入れてほしいってお伝えした子になります。申し訳ありません、明日ご紹介するつもりだったのですが」
リハーナが少しふらつきながら立ち上がった。
「お、大丈夫か? もう少し休んでいたほうが・・・」
「大丈夫です。師匠様にモルガーナを紹介しないと」
リハーナが髪を耳にかけて、屋敷のほうへ歩いていった。
ベルフェゴールが前を歩いて、「ご案内いたします」と話していた。
「・・・・・・ん?」
ダナフォルトが顔を上げる。
岩を下りて2人の後ろをついていった。
「失礼します」
「わぁっ、リナお姉さま!」
茶色の巻き髪を白いリボンで結んだ少女がリハーナを見てぱっと明るくする。
あどけない顔で、ふわふわのワンピースを着ていた。
「・・・・・」
ベルフェゴールとダナフォルトが無言で目を合わせる。
「モルガーナ、どうしていきなり来たの? 明日私と一緒に来るって言ったじゃない」
「リナお姉さまが急に出ていくなんて寂しくて来てしまいましたわ。それに、突然弟子入りするなんて、私聞いてなかったのですからね!」
「それは・・・ごめん、だけど」
リハーナが少し困ったような顔をしていた。
「あ、師匠様、彼女がモルガーナ=メルディです。師匠様だからお話しするのですが・・・実は彼女禁忌魔法をたくさん使えるので、メルディ家の一部屋に閉じ込められていたらしくて」
「へぇ・・・・」
ダナフォルトが瞼を重くする。
「私も屋敷にいるのをずっと知らなかったんです。幼く見えますが、実力は確かです。フォーマンセルの足を引っ張ったりはしませんから」
「はい! ダナフォルト様のことはリナお姉さまから聞いております。雷帝・・・でしたね。今後ともよろしくお願いします」
「・・・あぁ」
「・・・・・」
モルガーナが深々と頭を下げる。
「リハーナ様」
ベルフェゴールがすっとリハーナの隣に立って、声をかける。
「リハーナ様はダナフォルト様との手合わせの後ですから、ハーブティーを呑んで、休憩室で少し横になっていてください。それがいいですよね? ダナフォルト様」
「そうだな。体を休めるのも学びだ」
「でも・・・・」
「モルガーナから話は聞いておくよ。とにかく休んでろ。リハーナは自分が思っている以上に疲れてるんだからな」
「・・・承知しました」
ダナフォルトが半ば強引に、リハーナに休むように促していた。
ベルフェゴールがリハーナを連れて部屋から出ていく。
バタンッ・・・
ドアが閉まった。
リハーナの気配が完全になくなったのを確認して、ダナフォルトがモルガーナに近づいた。
「久しぶりだな、モルウェン」
ダナフォルトが低い声で言う。
「まさかこんなところで会うとは思わなかったよ。何やってるんだ?」
「見たままよ。メルディ家にいるの」
「相変わらず人間のふりが上手いな」
「エルフ族は人間に近い種族だからね」
ダナフォルトが言うと、モルガーナが髪を後ろにやった。
「ダナフォルトに会うのは、80年ぶりかしら。相変わらず歳をとらないのね」
「そっちもだろ? つか、今はモルガーナって名乗ってるのか?」
「そう、モルウェンの名を出すと、色々面倒だからね」
急に大人びた口調で話し始めた。
「上位魔族も出てきたんでしょ? ドルゴールが亡くなったのも聞いたわ。メルディ家は居心地がよかったんだけど、そろそろ外に出なきゃって思ってたの」
モルウェンは西のアクエリア水帝国で、名を馳せた大魔女だった。
旅には出ないものの、魔族との戦闘において、何度もアクエリア水帝国の住人を救っていた。
水帝エレナは絶大な信頼を置いていたが、エレナが亡くなると同時に人前から姿を消して、何十年も消息不明だった。
「リハーナに近づいて何するつもりだ? 何を企んでる?」
ダナフォルトが睨みつける。
「何も。私もリナお姉さまのこと大好なだけ。ダナフォルトこそ、リナお姉さまになんてことしたの? 何回も殺したみたいじゃない!」
「・・・アンデッドなんかわかるわけないだろ?」
「どちらにしろ、リナお姉さまに危害を加えたことには変わりないわ。ダナフォルトなんかにリナお姉さまを預けられない」
モルガーナが挑発するように言った。
「さっきから、リナお姉さまって・・・」
「ふふ、一緒の布団で寝たりもしてるの。羨ましいでしょ?」
「はぁ!? ババァが何言ってるんだよ」
「嫉妬してもしょうがないわよ。あぁ、ダナフォルトは見たことないんだものね。リナお姉さまのあーんな姿やこーんな姿・・・」
モルガーナが頬に手をあてて目をつぶった。
「寝てるときも、とーっても可愛いんだから」
「正体バラすぞ」
「なんとでもいいなさい。私とリナお姉さまの仲はとってもいいし、簡単に崩れるような絆じゃないから・・・ま、ダナフォルトは一生味わえないと思うけどね」
「そんなのわからないだろ?」
「・・・・・」
モルガーナがぴたりと動きを止める。
「やっぱり、あんたのところにリナお姉さまを置いておくのは危険だわ」
「危険なのはそっちだろ。表に出ろよ」
「いい度胸ね」
モルガーナがカップを置いて立ち上がる。
「望むところ・・・・」
ガタンッ
リハーナが部屋に入ってきた。
「モルガーナ、ごめんね、言い忘れてた。私、モルガーナから借りた魔法石ひとつ割っちゃって・・・」
ダナフォルトとモルガーナが一瞬で元の位置に戻った。
モルガーナがにこやかに、座り直してリハーナを見る。
「全然問題ありません。魔法石はたくさんありますから」
「あれ・・・?」
「リナお姉さま、どうされましたか?」
「あの・・・今すごい魔力を感じたような・・・」
「リハーナは疲れてるんだよ。ほら、早く休んできな」
「あ、はい・・・」
「そうだ。古い魔導書読みたいって言ってただろ? 読みやすそうなの、持ってきてやるよ」
「嬉しいです! ありがとうございます!」
リハーナの表情が明るくなる。
ダナフォルトがリハーナを連れて部屋から出ていった。
モルガーナが頬杖をついて、つまらなそうにクッキーを口に入れていた。




