20 魔力0?
アステリア魔法学校はどこを通っても魔導闘技大会の話題で持ちきりだった。
授業中にもかかわらず、生徒も先生も、どこかそわそわしている。
カン カン
ダナフォルトが魔法陣の描かれた布の上で、刃の色を見ながらエメラルドのような魔法石を打っていた。
「・・・・・」
「師匠様、刃がどんどん黒くなってます・・・」
リハーナが深刻な表情でダナフォルトに話しかける。
「見りゃわかるって。つか、リハーナの刃はなんでそんなに色が変色するんだよ。青とか紫とか・・・」
「魔力の流れを見て、魔法石の打ち方を変えるんですよ」
「んー、難しいな。そもそも魔力0だし、俺の場合流す魔力が無いんだよな」
リハーナの刃は、魔法石を一度打っただけで水属性から火属性に変化していくようになっていた。
ダナフォルトは魔法石を打つたびに黒く、どんどん錆びていった。
「・・・でも、師匠様、これは逆にすごいです」
「ここから引き返せると思う?」
「無理かと・・・」
「だよね」
ダナフォルトのように刃が黒くなっている者は誰もいない。
ほとんどの生徒は、刃の属性変更に成功していた。
「さぁ、錬金術は精神を集中しなければいけない。刃の色は変えられたかな?」
「アルトラ先生!」
「なんだい?」
「先生は魔導闘技大会に参加するんですか?」
アルトラ先生が金色の髪をかき上げて、にやっと笑う。
「もちろん、魔法学校時代からの友人とエントリーするつもりだよ。魔法学校の先生もエントリーしていいんですよね? ダナフォルト君」
「えっ、あーいいよいいよ。あ・・・・」
バキッ
ダナフォルトが使っていた刃は真っ二つに折れた。
クラス中がダナフォルトの持っていた刃を見つめる。
「ダナフォルト君・・・遊んでいないかい?」
「いたって真剣だよ」
「そうです、師匠様は真剣ですよ。真剣にやって錆びたんです。確かにこの学校は進学校、レベル0なんて師匠様しかいません。でも、普段はレベル0だから仕方ないじゃないですか」
「・・・リハーナ、言いすぎだろ・・・」
リハーナがダナフォルトを庇ったが、味方を刺すような形になっていた。
「はははは・・・戦闘のときとは大違いだな。ほら、ダナフォルト、俺の刃を見てくれ。これが錬金だよ」
クラウドがダナフォルトの傍に来て、七色の刃の属性を次々に変えていってみせた。
周囲からはおぉっと、歓声が上がっている。
アルトラ先生が頷きながら拍手していた。
「さすが生徒会長だ」
「ありがとうございます。とはいえ、俺もまだまだですから。ダナフォルト、俺にその刃を貸してくれないか?」
「え? あぁ・・・ほら」
ダナフォルトが折れた刃を置いて、伸びをした。
クラウドがダナフォルトの錆びた刃を持って、魔力を流しながら魔法石を打っていく。
「なるほど、原因は属性の混濁か」
「そ、よくわかったね。俺、普段は魔力0だから、感覚でしか属性を認識できないんだ」
「・・・・・?」
ダナフォルトが淡々と言う。
リハーナが何かを言いかけて、口をつぐんだ。
カーン カーン カーン カーン
授業終了のチャイムが鳴った。
アルトラ先生が明日の小テストの説明を簡単にして、教室から出ていく。
「クラウドも魔導闘技大会出るんだろう? 生徒会メンバーでエントリーするのか?」
「そうだね・・・できればそうしたかったけど」
クラウドが頭を掻く。
「ペリオが体調を崩していてね、魔力が安定しないから辞退したいと話していたんだ。ヌヌもルシファーのことで精神的に落ちているから、今のところ俺とナターシャしかいないんだ。フォーマンセルは絶対だろ?」
「そうだね、絶対だ」
ダナフォルトが自分の刃を黒い布で包んで、鞄に入れた。
「そこで、リハーナに頼みがある。僕ら生徒会と一緒に出てくれないかい?」
「お断りよ。今まで師匠様を馬鹿にしてきた者たちなんかと、組みたくないから!」
「いや、あのときは色々誤解してて・・・」
「関係ないわ。嫌いな者と、パーティーは組めない」
リハーナが速攻で断って、そっぽを向いた。
クラウドが肩を落とす。
「リハーナ、クラウドたちと出てみなよ」
「でも、師匠様・・・」
「戦闘においてパーティー内での連携は最重要課題だ。レベルの差はあるかもしれないが、リハーナのことをある程度を知っている者のほうがやりやすいだろ」
「レベルの差? だって、俺はレベル26、リハーナはレベル28のはずでは・・・?」
「リハーナはレベル68だ。周りには言うなよ」
ダナフォルトが声を潜めた。
リハーナがすぐに周囲の目を気にしていた。
「え!?」
クラウドが持っていた本を落としかけていた。
「戦闘はレベルじゃないけどな。師匠としてはリハーナには出てほしいよ」
「・・・承知しました。師匠様の命令なら仕方ありません・・・」
「リハーナ・・・どうして、レベルを偽ってるんだい?」
クラウドが小さな声で聞く。
「・・・魔法学校に入るためよ。基礎を覚えて、強くならなきゃいけないの・・・・私がレベルが高いのは少し事情があるだけだから」
リハーナのレベルは、死んでも経験値となって、生き返った時にレベルが上がり続けるからだった。
実際にルシファーとの戦いで、レベル62からレベル68までアップしている。
「そうか。まぁ、事情については触れないよ。色々あるみたいだしね」
クラウドがさらっと流す。
「ねぇ、クラウド。私を入れても、まだ3人なのよね?」
「そうだね。あと一人・・・ダナフォルトは当然無理だしな・・・」
「はは、俺は見学させてもらう側だからね。120年前だったら組みたかったけど、今回は雷帝として見させてもらうよ」
ダナフォルトが笑いながらペンケースの蓋を閉めた。
「師匠様、もう一人は、私の知人を紹介したいのですがいいと思いますか?」
「ん? 俺は別にいいけど、クラウドたちは?」
「もちろん、リハーナの推薦なら歓迎するよ」
クラウドが口に手をあてて頷いた。
「どんな子かな? 攻撃タイプ? 補佐系?」
「オールラウンダーだと思う。ちょっと人見知りだけど、実力は確かよ。外に出ないから魔法学校に通っていないけど、会ってみれば強いことがわかるから」
リハーナが自信を持って話していた。
「なるほど。エントリーの前に顔合わせをしておこうか。連携をとるためにも、互いにどんな力を持っているか、知る必要がありそうだし」
「わかった。伝えてみるわ」
「俺もナターシャに話してくるよ。期間も短いし、早めに日程候補を出そう。ここで待っててくれ。すぐに戻ってくるから」
「うん」
リハーナが制服のリボンを握って頷いた。
ダナフォルトが立ち上がって、鞄を肩にかけた。
「じゃ、リハーナ、俺は先に帰ってるよ。ゆっくり作戦練ってきな」
「あ、師匠様・・・あの・・・」
リハーナがダナフォルトを引き留める。
「魔力0と言っておりましたが・・・・師匠様は、今、魔力ありますよね?」
「!」
「うっすら見えます。雷属性ではない・・・炎でも水でもない・・・何属性の魔力なのでしょう・・・そのせいで、錬金がうまくいかなかったのではないですか?」
「へぇ・・・すごいね」
ダナフォルトが少し驚いてから、笑みを浮かべる。
「よく見抜いたな。100年以上経つけど、この魔力に気づいた者はエレナだけだったんだ。でも、錬金が上手くいかなかったのは、それだけじゃないかな。この魔力はね・・・ちょっと特殊なんだよ」
「特殊・・・・?」
「自分の中にあるのに、扱いにくいんだ。もらったものだからね。でも・・・悪くないかな」
ダナフォルトが右手を見つめながら、何度か握って解いていた。
「師匠様、それは・・・」
「あ、リハーナ、知人ってメルディ家の者だろ?」
「えっ、どうしてそれを・・・」
「なんとなくだよ。今度、屋敷に連れてきてくれ。俺も会ってみたいしさ」
ダナフォルトが軽い口調で言う。
リハーナが何か聞こうと考えている間に、ダナフォルトが教室から出ていった。
「師匠様・・・なんだか今日・・・機嫌がいい・・・?」
リハーナが小さく呟いて、自分の机を片付けていた。




