18 提案
「ねぇ、ベルフェゴール」
「なんでしょうか?」
「"フォルティナ"って誰?」
夕食後のデザートを持ってきたベルフェゴールに、リハーナが聞いていた。
「・・・・どこでその名前を聞いたのでしょうか?」
「師匠様が私のことを見て、そう言ってるように聞こえたの」
リハーナが両手でカップを持ちながら言う。
「・・・・・・・」
ベルフェゴールが軽く息をついて、口を開く。
「"フォルティナ"様はダナフォルト様の義妹になります。血のつながりはありません。元々はとある王国の姫君でした」
「義妹・・・?」
「そうですね。遠い昔から、ダナフォルト様のいる、このレベナント家が匿っていたのです。人間同士の醜い争いから・・・」
バタン
「おい」
ダナフォルトが勢いよくドアを開けて入ってくる。
「ベルフェゴール、人の過去をべらべら話すなよ」
「これはこれは、聞こえておりましたか。ダナフォルト様は察しがいいですね」
「ったく・・・油断も隙も無いな」
ダナフォルトが不機嫌そうにしながら、椅子に座った。
「今日は、ダナフォルト様の大好きな木の実入りのクリームパンですよ」
「・・・・・・・・」
ベルフェゴールがほほ笑みながら、朝食のパンを置く。
好物を目の前に、ダナフォルトの頬が少し緩んだ。
「師匠様、今日こそは一緒に学校行けますね! 私はもう食べ終わるので、先に支度をしていますね!」
「あー悪い、俺、今日は議会に行かなきゃいけないんだよ。学校休むから」
ダナフォルトがパンをちぎって口に運ぶ。
クリームの甘みを感じてから、ハーブティーを一口飲む。
「やっぱり美味しいな。このパン」
「ありがとうございます、ダナフォルト様」
「議会ってなんですか?」
「ダナフォルト様は雷帝としてラグナディア帝国の議会に出席しているのですよ。各学校の校長、司祭、各ギルドマスター、帝国騎士団長など、ラグナディア帝国をまとめている者たちが出席する場のことですね」
「はぁ・・・今回はハーネスとルシファーのことが議題になるだろうな。足が重いよ」
「そんなに憂鬱なのですか?」
「そりゃそうだろ。アステリア魔法学校の先生になってからも、ハーネスが魔族になっていたなんて全然気づかなかったんだからな。雷帝として、大失態だ」
「ふふ、ダナフォルト様の甘いところでもあり、可愛いところでもありますよね。本当は何か違和感があったでしょうに・・・」
ベルフェゴールがカモミールのハーブティーを置いてにこやかに言う。
「随分、楽しそうだな」
「ダナフォルト様も完ぺきではなく、たまには人間味があっていいなと思った次第です」
「嫌味な奴だ。あ・・・」
『悪魔』が、と言おうとして、リハーナの顔を見た。
リハーナが首をかしげる。
「ごほっ・・・それより、リハーナ、魔法薬学のノート、俺の分もとっておいてくれない?」
「はい・・・いいですが・・・」
ダナフォルトが咳ばらいをして話題を逸らした。
ベルフェゴールが楽しそうにしながら、空いた食器を片付けていった。
議会は元帝国騎士団長ハーネスへの悲しみと、魔族への怒りで混乱していた。
ダナフォルトは黙って、議会の話し合いを聞いていた。
「ハーネスが魔族に乗っ取られるなんて・・・彼ほどの人望のあった男が・・・信じられない」
帝国騎士団長ハリスツイードが頭を抱えて涙を浮かべる。
「いや、上位魔族ルシファーならあり得るだろう。それにしても、ここまで気づけなかったとは・・・最悪の事態は免れたものの、生徒を死なせてしまった」
「ハーネス校長はいつも礼拝に来ていましたから。まさか・・・今でも信じられません」
ヘカテー魔法学校の校長アイリスが顔を押さえる。
「『魔族の刻印』・・・恐ろしいな。そんなものが蔓延したら」
「暴食のベルゼブブに続いて、上位魔族ばかり・・・ダナフォルト様がいなければどうなっていたか・・・」
「復活してしまったら、心臓を貫かないと死なないのでしょう? ということは、また襲い掛かってくるリスクがあるな。いつ来るんだ? また、ここが狙われるのか?」
「上位魔族が複数で来られたらこの国は・・・・」
普段は冷静な司祭やギルドマスターたちが感情的になっていた。
「落ち着け、ダナフォルト様も上位魔族であっても一度消滅すれば、また肉体を生成するのに時間がかかると話していたではないか」
アルバスが白熱する会話を宥めようとしていた。
「ゼウシティア王国には報告したのでしょうか? 他の国々はどうなっていますか?女神の啓示はないのでしょうか?」
「もちろん伝えていますよ。でも、上位魔族が現れたのはラグナディア雷帝国だけで・・・」
「ここで話していても仕方ない」
ガタン
帝国騎士団長ガルハルトが立ち上がる。
「一刻も早く行動に移すべきだ。こうしている間にも魔族が力をつけている。上位魔族の心臓を探し魔王を倒すパーティーを組まなければいけない。帝国騎士団長の席は空くが・・・俺がハーネスの仇を・・・」
パチンッ
「!?」
ダナフォルトが人差し指を立てて、雷を鳴らす。
一気に静寂が降り落ちた。
「はい、そこまで」
「・・・ダナフォルト様」
「ガルハルト、お前とハーネスが幼馴染で親友だったのも知ってるけど、今は感情的になるな。そもそも
帝国騎士団長をいきなり辞められるわけないだろうが」
「ダナフォルト様・・・お言葉ですが・・・・同じ魔法学校にいて、ダナフォルト様は気づけなかったのですか?」
「ガルハルト! 雷帝に向かっ・・・」
「いい、アルバス。ガルハルトの言葉はもっともだ。外の魔族にばかり気を取られて、内部に魔族がいることに気づけなかった。雷帝として、大失態だ」
ダナフォルトがアルバスの言葉を遮って、ガルハルトに赤い瞳を向ける。
「その上で落ち着け。お前が行っても、上位魔族には敵わない」
「どうしてそんなことがわかるのでしょう・・・俺はレベル83です」
「レベルは関係ない、単純に弱いからだよ。ドルゴール、ガードグ、エレナと比べてはるかに弱い。その辺の魔族を数体倒したくらいで、強いと思うな。自覚しろ」
「っ・・・・」
ダナフォルトが鋭い口調で言うと、ガルハルトが黙った。
「でも、何か手を打たなければいけないのは確かだ。上位魔族が復活した以上、魔族は確実に力をつけてくる。今までよりも強い魔族が現れるだろう」
「どうしたら・・・・」
「雷帝として命ずる」
ダナフォルトが腕を組んでにっと笑う。
「ラグナディア雷帝国内で、魔導闘技大会を開くことにする」
「え・・・・・」
突然の提案に、全員が固まった。
「フォーマンセルだ。パーティーとしてバランスがいいのが4人だからな。開催は3週間後の新月としよう。所属は限らない・・・もちろん魔法学校からも出せ。人数に制限はない」
「ま・・・魔法学校から? だって、レベルの差が・・・」
「目的は全体の戦闘力の底上げだ。自分たちの実量を知るのも大事だからな」
「我々も、参加していいということですよね?」
「もちろんだ。ガルハルト」
「・・・・・・・・」
「・・・ハーネスは幼い頃、東のヴェルガルド炎帝国の魔導闘技大会に出場しようとしたことがあったんだよな。一回戦で負けて、泣きながら帰ってきたんだ」
「ハーネス様の幼い頃・・・ですか?」
ヘスティア魔法学校の校長になったばかりのルネミリアが聞き返す。
「あぁ、昔から勝てるはずのない戦いに挑もうとするのがハーネスだった。その分、自分の弱点についても熟知していたんだ」
ダナフォルトがハーネスの席に置かれた白い花を見つめながら言う。
「懐かしいな。あいつがいれば、いち早くエントリーするだろう」
「・・・・・・・・」
ガルハルトがこぶしを握り締めて、溢れそうな涙を堪えていた。
「ハーネスを含む、魔族に殺された者たちの死を、無駄にはしない。再び英雄を生み出すんだ。かつての英雄、ドルゴール、ガードグ、エレナが、俺を導いたように・・・な」
ダナフォルトが遠い昔を思い浮かべながら、目を細めていた。




