16 傲慢の選択
ルシファーが魔法陣から大剣を出す。
地面に突き刺して、黒い魔法陣を展開した。
― 煉獄の業火 ―
ゴオオオオオォォォォ
ダナフォルトが軽く飛んで離れる。
黒い炎が現れて柱のように空高く上がっていった。
ルシファーが炎の中から、一気に距離を詰めてダナフォルトに襲い掛かる。
ガンッ
「!?」
ダナフォルトが簡易シールドだけで、ルシファーの攻撃を止めた。
「はは、随分弱くなったな? お前」
ダナフォルトが煽るように笑った。
「一回、俺の攻撃を止めたくらいで、随分でかい口を叩くな」
「事実を言っただけだよ。だって、バフをかけたのにこんなに弱いんだから」
「・・・・・」
ダナフォルトが高い位置から、ルシファーを見下ろした。
杖を下に向ける。
― ディズ・ランディア ―
しゅううぅうううううう
「なっ・・・・」
ダナフォルトが唱えると、ルシファーの炎はすぐに煙となって消えていった。
ルシファーにかかっていたバフも無くなった。
「どうせ、煉獄の業火を出してこのあたりの魔力を燃やそうとしたんだろう。でも、無理だ。ラグナディア帝国は無限に魔力が流れてる」
「クククククク」
ルシファーが肩を震わせて、天を仰いで笑い出した。
「最高だ! ダナフォルト! やっぱりダナフォルトだ! ダナフォルトはこうじゃなきゃな!」
「・・・・俺の名前を呼ぶな。気分が悪い」
ダナフォルトが呟く。
― リジュア・オン・ルドゥ・・・ ―
ダナフォルトが平然と歩いて、魔法陣を展開していく。
ルシファーが空高く飛び上がった。
「でも、上位魔族である俺を舐めるなよ」
一気に降りてきて、ダナフォルトが展開した魔法陣を裂いた。
ダナフォルトがふらっと避けて、杖を剣に変える。
「っ!?」
― ディグド・グルシャ ―
ザッ
雷を纏う剣がルシファーの翼を切り裂いた。
青い血が噴き出す。
「っと」
ダナフォルトがすぐに体勢を変えて、ルシファーのカウンター攻撃を避けた。
杖を向けて、裂かれた魔法陣をもう一度浮き上がらせる。
赤い瞳をルシファーの頭に向けた。
― ガリディア・ウル ー
ドーン
「ぐあっ・・・・」
魔法陣が発動して、ルシファーに雷が落ちる。
地面に亀裂が走り、砂埃が舞った。
砂埃の中から片足をついたルシファーが現れる。
頭からは青い血が流れていた。
「な・・・なるほど・・・112年前、俺と戦ったときよりも強いってわけか・・・・」
ルシファーが息を切らして、後ろに下がりながら言う。
「どうだろ、強くなったのかはわからないよ」
ダナフォルトの剣がバチバチと音を立てていた。
「俺より強い奴に会ったことないからさ」
「・・・傲慢だな」
「そうだよ。傲慢のお前を倒した俺は、お前より傲慢なんだよ。上位魔族は自己回復能力が高い。これで死ぬわけないだろうが、何度・・・」
ダナフォルトが飛び上がろうとして、固まる。
「!!!!」
周囲の動きに目を向けた。
「ハハハハハハハハハ、気づいたか」
ルシファーが片方の翼を復活させながら高笑いする。
「『魔族の刻印』だ。俺たちが戦ってる間に、刻印を押した者は全員魔族化するだろうな」
「いや、アレは複数の人間に同時にかけられないはず。『魔族の刻印』を使った魔族の、肉体のどこか一部を使うから・・・」
ダナフォルトがエレナが残した文書を思い出しながら言う。
「112年前とは、仕様がだいぶ変わったんだよな」
「!?」
「ハハハハ、水帝エレナの研究は無駄だったってことだ。安心しろ。一応魔族になる者は選んでおいたんだ。全員魔族化したら、恐怖が無いもんな」
「・・・・・・・」
ダナフォルトが浅く呼吸をして、青ざめていった。
「どうせ、解除魔法だってお前しか使えないんだろ? ここで、俺と互角に戦えるのもお前だけ。どうする? 俺はどっちでもいいぜ」
「クソが・・・」
ルシファーを倒しても、『魔族の刻印』は無効化されない。
発動の合図から刻印が浮き上がり、徐々に魔族になっていく。
長期戦になれば、アステリア魔法学校の者たちが魔族化して、人間を食らう。
誰も助けることができない。
ダナフォルトの額に汗が滲んだ。
― 氷絶対血界 ―
冷たい空気があたりを包む。
はっとして、ダナフォルトが顔を上げた。
「リハーナ!?」
「・・・・・・」
杖を持ったリハーナが、空から降りてくる。
薄い氷のようなドーム型の結界がリハーナとルシファーを囲んだ。
「どうして・・・」
外に出されたダナフォルトが呆然とする。
「ダナフォルト様、申し訳ありません。やっぱり、私、戦います」
「んあ?」
ルシファーが耳を掻いて、唾を吐いた。
「『魔族の刻印』がクラウドの腕に現れました。ここは私が時間稼ぎをします」
「でも・・・・」
「大丈夫です」
リハーナが両手で杖を握り締める。
「この結界は私が自分が解除するか、死後3秒以降でなければ解除されないんです。この意味、わかりますよね?」
リハーナがダナフォルトを見て、ほほ笑んでみせる。
「っ・・・駄目だ! ルシファーは上位魔族だ。普通の魔族とは違う。リハーナが太刀打ちできるような相手じゃない。アンデッドとはいえ、何をするか・・・」
「でも、『魔族の刻印』はダナフォルト様でなければ解除できないんです!」
リハーナが必死に訴える。
「お願いです! ダナフォルト様! 今はまだ刻印が現れたばかり、間に合います!」
「・・・・・・」
ダナフォルトが奥歯を噛んだ。
「ダナフォルト様、お願いします。もうあんな光景見たくないんです!」
「・・・悪い、リハーナ。じゃあ、こいつらを入れてくれ」
「え・・・・?」
ダナフォルトがリハーナのいる結界の中へ、杖を向ける。
― 七つの月は沈み、八つ目の影が天へと昇る。
その刻、我は古き門の前に立つ。
封印されし石門よ、永き眠りより目覚めよ・・・・
ˆx Nihilø ad Nihiløm,äb Initîo äd Fînem.
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ダナフォルトがリハーナの結界内に魔法陣を展開した。
ズズズズズ・・・
「!」
7体の召喚獣が魔法陣から飛び出して、リハーナを囲む。
『魔族の匂いが濃いと思ったら、上位魔族ルシファーか』
『封印が解けたってのは本当だったんだな。相変わらず醜い奴だ』
白い大蛇がとぐろを巻いていた。
「リハーナを援護しろ」
『かしこまりました。ご主人様』
大きな獅子のような獣がリハーナに近づく。
「ふふ・・・3回も殺されたけど、味方になると心強いですね」
リハーナが7体の召喚獣を見上げて笑った。
『わかっているとは思うが、我々は召喚獣。倒されれば消えるからな』
獅子が鬣をなびかせながら言う。
「私のことは大丈夫です。死ぬのは慣れていますから」
7体の召喚獣は、リハーナが思っている以上に、リハーナを快く受け入れていた。
「俺とダナフォルトの間に入ろうとするとはいい度胸だな」
ルシファーが怒りに満ちた表情で、リハーナを睨みつける。
「では、いきます」
― 氷雫力昇―
氷の結晶が舞いながら、7体の召喚獣を包んだ。
各々のステータスが上がっていく。
『清々しい、いい魔法だ』
ドラゴンが地面に爪を立てながら言った。
「ガキが! 邪魔だ! どけろ!!!!」
ルシファーが大剣を持ち直して、リハーナ目掛けて突っ込んでいく。
獅子がルシファーの後ろに回った。
ゴオォォォォオオオオオ
勢いよく聖なる炎を吐く。
ダナフォルトが決意したような表情で、杖を持ち直した。
真っすぐ混乱し始めた校舎の中へ、飛んでいった。




