15 ルシファー
「今日はこちらでお休みになっていたのですか」
「よく見つけてくるよな」
「ダナフォルト様の執事を100年以上勤めているので」
ダナフォルトが屋敷の屋根で横になっていると、ベルフェゴールが歩いてきた。
「リハーナ様はダナフォルト様を学校中探していたようですよ」
「あ、一緒に帰るとか言ってたな」
「そんなこと言ってると、女性にモテませんよ?」
「別にモテなくたっていいよ。どんなに美人で巨乳な女だって、俺より老けて先に死ぬだけだしな」
笑い交じりに言う。
「根暗ですね」
「はいはい、なんとでも言ってくれ」
「まったく・・・・・・」
ダナフォルトが適当に返すと、ベルフェゴールが複雑な笑みを浮かべていた。
「ルシファーを見つけたことが、そんなにショックですか。ダナフォルト様なら、ある程度予想はついていたのではないですか? だから・・・」
「ショックというよりキモいんだよ。復活してすぐに攻撃せず、アステリア魔法学校に、1年も潜伏してたのかよ」
ダナフォルトが心底嫌そうな顔をする。
「封印が完全に解けていなかったので、力が無く、行動に起こせなかったのもあるでしょう」
ベルフェゴールが目を細めた。
「よりによって俺のいるアステリア魔法学校に来るか?」
「上位魔族は根に持つタイプが多いので。ダナフォルト様が八つ裂きにした恨みを、ずーっと抱えていたんでしょうね。彼はダナフォルト様が大好きでしたから」
「はぁ・・・この、気持ち悪さを共有できる奴がいないのがもどかしいよ。今頃、天国でガードグとドルゴールが爆笑してるだろうな」
ダナフォルトが腕を摩った。
「・・・なぁ、ハーネスは・・・」
「とっくに死んでますよ。弱みに付け込まれたんですよね」
「そうだよな・・・ハーネスの記憶を知っているようだった。奴は俺とハーネスとの会話も覚えているような口ぶりだったんだ」
ダナフォルトが怒りを抑えながら、傍にあった小石を拾った。
「そうですね。だから、体を乗っ取られてすぐにハーネスの愛するレティアを食ったのです。そこで、ハーネスは自分の制限を解いて、記憶も全てを奪うことを許してしまったのでしょうね」
「クソが・・・・・」
ダナフォルトが小石を遠くに投げた。
遠くまで行かずに、すぐそばで落ちる。
周囲の魔力を集めなければ、ダナフォルトの力は幼子に等しい。
自分の手のひらを見つめながら黙っていた。
「はい、苦い話はここまでです。ダナフォルト様、明日は学校ですから、もう部屋でお休みください」
「わかったよ。明日は重い一日になる。ふかふかのベッドで熟睡してやる」
ダナフォルトが瞳を赤くして、ふわっと飛びながら下の階へ降りていく。
― 氷雫力昇 ―
「!」
氷の結晶がふわっと広がっていく。
心地いい冷たい風が吹く。
リハーナが庭でステータス上昇の魔法を試していた。
杖に埋め込む宝石を変えながら、魔力の微調整をしている。
ダナフォルトがふっと笑って、自分の部屋に戻っていった。
アステリア魔法学校はいつもの朝を迎えていた。
ダナフォルトの瞳が赤くなる。
杖に魔力を溜めながら、アステリア魔法学校までの道を歩き始めた。
「あ! 師匠様! また私を・・・」
「リハーナ、これから戦闘になる」
ダナフォルトがリハーナを見ずに言う。
リハーナが一瞬で、ダナフォルトがこれからしようとしていることを察知した。
「わ、わかりました。私は・・・師匠様の足手まといになりますから・・・」
「集中したい。生徒たちはうまく誘導してくれ。もし、怪我人が出るようであれば、手当ても」
「はい、自分にできることをします」
リハーナが杖を出す。
「ご安心ください」
「・・・・・・」
ダナフォルトの急激な魔力の高まりに、周囲の者たちがどよめいていた。
杖を中心として渦ののように、ダナフォルトの体の中に入っていく。
「ダナフォルト!」
アステリア魔法学校に入ると、すぐにクラウドが駆け寄ってきた。
「どうした? この魔力・・・何するつもりだ?」
「傲慢のルシファーが見つかったんだよ。これで、照準を合わせることができる。ヌヌに礼を言っておいてくれ」
「え?」
「離れてろ」
「お願い! 危ないから離れて!」
リハーナがクラウドを引っ張って、ダナフォルトから離す。
ダナフォルトの持っている杖が黄金に輝いた。
― R̷̛e̶͝v̴e̷l̸a̶̕ ̸v̴e̷r̶a̸m̷ ̴n̸a̶t̷u̶r̸a̷m̵ ̷t̸u̶a̷m̸. ―
― R̷̛e̶͝v̴e̷l̸a̶̕ ̸v̴e̷r̶a̸m̷ ̴n̸a̶t̷u̶r̸a̷m̵ ̷t̸u̶a̷m̸. ―
― R̷̛e̶͝v̴e̷l̸a̶̕ ̸v̴e̷r̶a̸m̷ ̴n̸a̶t̷u̶r̸a̷m̵ ̷t̸u̶a̷m̸. ―
ブワッ
アステリア魔法学校の校舎全体に雷が走った。
突然の風と電流に、壁と窓が揺れている。
「!?」
生徒たちが窓からこちらを覗き込み、先生たちが杖や剣を握り締めて外に出てきた。
「ダナフォルト・・・いったい何を・・・・」
ザワ・・・
「!!」
上位魔族の魔力に、その場にいた者全員が硬直した。
「なるほどなるほど。やっと気づいたのか」
「ハーネス校長先生・・・?」
「クククククク・・・・まだ、このまま行けると思ったんだけどなぁ。正体ばれたからには、手始めにこいつでも食べておくか」
「!!!」
ルシファーが隣にいた魔法薬学レイシア先生を見て、手を伸ばそうとした。
― ラグナ・ドゥラグ ―
バチンッ
ダナフォルトが雷の弾を放って、ルシファーの指を吹っ飛ばした。
ルシファーがダナフォルトを見ながら、指を元に戻す。
「強制的に姿を戻されるとは。ベルゼブブが負けるのも無理ないか。あいつは我慢が効かないんだよな」
ハーネスの体がどんどん変化していき、2メートル以上あるルシファーへと姿を変えていった。
背中には漆黒の翼があり、妖精や人間を好む、鋭い牙が生えていた。
「ベルゼブブとの戦闘も楽しそうだったな」
「まぁ、人間の皮を被って潜伏してたお前よりは楽しかったよ」」
「そうだな。ハーネスに、亡くなった仲間を重ねようとするお前は、最っっっっっっっっっ高に面白かったよ! ハハ、傑作だったね! 噴き出さずにいられた自分を褒めたいよ」
両手を広げて高らかに笑う。
「・・・・・・・・」
「いいねぇ、その表情・・・・・」
「しゃべるな。気持ち悪い」
ダナフォルトが目つきを鋭くする。
「そんなに嫌うなよ。俺は強い人間を食うのが好きだからね。レベル0の雷帝は大好物だ。俺はベルゼブブと違って、ダナフォルトの強さは認めてるんだ」
ルシファーが腕を組んでダナフォルトを見ながらにやにやしていた。
ダナフォルトが杖を持ち直して、深呼吸をする。
「そんな・・・ハーネス校長がルシファー・・・? 信じられな・・・」
「悲しむのは後です。今は生徒を安全なところへ避難させましょう」
レイシア先生が、呆然とした他の先生たちを引っ張り上げて鼓舞した。
「我々はどうしたら・・・」
「これから生徒は一人も死なせない。話し合って決めました。まずは生徒の安全を最優先に」
「そうですね」
先生たちが素早く校内に入っていき、生徒に学校から離れるよう促していた。
「リハーナ・・・」
「会長、私も師匠様の言う通り、生徒の保護に回るから」
リハーナが簡易結界を張りながら言う。
「師匠の戦闘を見ていなくていいのかい?」
「師匠様は英雄よ。私がいても、ただ戦闘の邪魔になるだけだから」
力なく笑って、ダナフォルトのほうを見る。
「師匠様の怒り・・・魔力が刺さってるみたい、痛いほどの・・・」
リハーナが震える手を隠した。
「リハーナ、西側を頼む」
「わかったわ」
すぐに前を向いて、クラウドと魔法学校に登校している子たちを、学校外へ誘導していた。




