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レベル0の雷帝  作者: ゆき
アステリア魔法学校

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15/30

14 新校長の上辺と裏

 カナト=ヴァンの訃報は魔法薬調合ミスによる事故として伝えられた。

 ほとんどの生徒たちが、カナトが死ぬところを見なかったことが救いだった。

 悲しみは変わらないが、思ったよりも混乱は続かなかった。


 ナミだけはしばらく休むよう、先生から言われていた。


「感情に左右されて、魔力がブレすぎだ。あれなら、咄嗟の時に動けない」


「はい・・・すみません」

「感情が高ぶるのは当然だから、謝ることじゃないよ。でも、魔力は正常に保てるように。呼吸を意識するんだ」


「はい!!」

 リハーナが目を閉じて、魔力を放出する。

 アステリア魔法学校の庭で、ダナフォルトがリハーナに指導していた。


「そう、いい感じだね。結構きついでしょ?」

「ふぅ・・・そうですね。呼吸・・・呼吸、と・・・」

 リハーナの額にうっすらと汗が滲む。


「あぁ、そのままキープしててくれ。リハーナ、君とカナトに共通して話していた者はいる?」


「いないかと思います。彼とは選択授業でも被っていません」

「・・・そっか、なるほどね」


 ダナフォルトがため息をついた。


「師匠様・・・このところ、元気ないですね?」

「別にいつもと変わらないって」


「いつもため息をついているような・・・」

「学校自体が嫌だからなぁ。帝国外の魔族の監視もやらなきゃいけないし、疲れるんだよなぁ」

「そうなのですね・・・」

 リハーナがダナフォルトを覗き込む。


「私も早く、師匠様の補佐ができるようになればいいのですが」



 パチパチパチパチ


「いいなぁ、ダナフォルト様に直接指導いただけるなんて」


「ハーネス先生」


 アステリア魔法学校の校長に就任したハーネスが拍手をしながら近づいてくる。

 屈強な肉体と、浅黒い肌が特徴的な先生だった。

 知識も多く、魔力もあり、軍出身ということもあって、生徒からの信頼も厚かった。


「ハーネス、久しぶりだな」


「ダナフォルト様、『魔族の刻印』の件、聞いております。別のところに行っており、気づきませんでした。校長就任して早々、大変申し訳ございません!!!」


 ハーネスがダナフォルトと視線が合うなり、勢いよく頭を下げた。


「いや、普通は気づけないよ。問題はこの学校に魔族が入ってるってことだ」

「そうですね。俺が帝国騎士団長から教師になって1年ですが、魔族の気配を感じたことはありません」


「だよな。おそらく、上位魔族だし・・・面倒だよ」

 ダナフォルトとハーネスが軽く会話をしていた。


「師匠様、ハーネス先生と仲がいいんですか?」

「ハーネスが帝国騎士団長だったときに、一緒に魔族の討伐に行ったことがあるんだよ。もう、10年くらいの付き合いだ」


「はははは、ダナフォルト様がほぼ倒していたので、俺たちはダナフォルト様の戦闘の様子を見ているだけでしたが」

 ハーネスが苦笑いをしながら頭を掻いた。


「俺のクラスの先生にはならないの?」


「いえいえいえ、とんでもない。それだけは堪忍をと、先生方に伝えています」

「もっとラフに話していいのに」

「とんでもございません!!」


「あーぁ、ハーネスの校長就任式、見たかったな」

「ダナフォルト様・・・」


「ははは、当時を思い出すな。戦闘で後方から全く動けなかったハーネスが、よくここまで出世したよ」


「む、昔の話はその辺でお願いします」


 ダナフォルトがいたずらっぽく言うと、ハーネスが戸惑っていた。

 

「えっと、ダナフォルト様が学校で笑ってるの初めて見たかもしれません」

 リハーナが目を丸くしてダナフォルトを見る。


「え? そうなの?」

 ハーネスが聞き返す。


「リハーナ」


「だって、師匠様教室ではため息ばかりついてるじゃないですか」

「暇なんだよ、ガキはガタガタうるさいしな」

 ダナフォルトが瞼を重くする。


「ダナフォルト様は先生にはならないのですか? 雷帝ならそちらのほうが」

「ないない、俺が教えられることなんてないって。そもそもレベル0だし、俺の戦い方は誰にも真似できないしな」

 ダナフォルトが手をひらひらさせた。


「師匠様は学校嫌いなんです」

「学校嫌い・・・なるほど。ダナフォルト様でも苦手なものもあるのですね」


「そりゃそうだろ」


 ハーネスが、口に手をあてて頷いていた。


「なるほど・・・魔族を殺す時はあんなに活き活きしていらっしゃったので・・・このようにだるそうに話すダナフォルト様は、意外に思えてしまって」


「戦闘狂みたいに言うなよ。あ、リハーナ、魔力がぶれたぞ」


「ふふ、すみません」

「なんだよ」

「なんでもないですよ。集中力が切れてしまったので、魔力を練り直します」


 子供のようなダナフォルトに、噴き出しそうになっいたのを誤魔化していた。

 


「ダナフォルト」

 生徒会長のクラウドがダナフォルトのほうへ歩いてくる。


「クラウド・・・」

「言っておくけど、あのときカナトを刺したのは仕方なかったからな」


「この前は申し訳なかった!」

 突然、クラウドが深々と頭を下げる。


「俺が甘かった。魔族について、勉強していたつもりなのに、何もできなかった。それどころか足を引っ張ってしまい・・・君を誤解して、退学嘆願書の署名を集めてしまったことも・・・」


「いや、いいって。マジで気にしてないから」


 ダナフォルトが軽く引きながら手を振った。


「クラウド、早い情報共有ありがとう。君が詳細を覚えていてくれたおかげで、職員会議でも見張りや結界を張り巡らせることができた」

「生徒会長として当然のことをしたまでです」


「これからもよろしく頼むよ」

「かしこまりました!」



 ハーネスとクラウドが硬い握手を交わす。



「もう、こんな時間か。じゃ、俺はこれから会議だから」

「はい」


「・・・・・」

 ハーネスが庭から出ていくと同時に、生徒会書記・会計補佐のヌヌが駆け寄ってきた。

 身長が低く整った顔立ちの中性的な妖精族の少女だ。


 すれ違った後、振り返って、ハーネスがどこかへ行くのを眺めていた。


「会長、ナターシャが会長を探してた。本日配った資料について問い合わせが多く来てる。一度全校生徒の前で話したほうがいいと話してた」

「ちょうど、今行くところだよ」


「僕もすぐに向かう。でも、まだ、書類がまとまってなくて、職員室に行ってからになる」


「あぁ、わかった。急がなくていいよ」

「うん」


 クラウドが袖をまくって、颯爽と庭から出ていった。



「・・・・・」

 ヌヌが立ち止まって、クラウドがいなくなるのを見送っていた。


「・・・・・」


「ん? 俺に何か用事か?」

 ヌヌがダナフォルトを見上げてから、ゆっくりと右側を指さす。


「ダナフォルト、上位魔族は校長だった」


「は・・・・?」

 ダナフォルトが息をのむ。


「待って、校長って・・・?」

「ハーネスだ」

 ヌヌが耳につけていたピアスを取って握り締める。


「いや、ありえない。俺は10年以上前からあいつを知ってるけど・・・」

「昔のハーネスはわからない。今のハーネスは、上位魔族だ」


「どうしてわかる?」

「僕のお姉ちゃんは・・・・妖精族の村で、上位魔族ルシファーに殺された。僕は奴を倒そうと、魔法学校のあるこの地に来た。奴には、『世界樹の葉』でマーキングしてるからわかる」

 涙声で言う。

 ピアスに埋め込まれた魔法石が赤く輝いていた。


「何年前のことだ?」

「1年前のことだよ。誰にも信じてもらえなかった。でも・・・」


「・・・・・」

 ダナフォルトが深く息を吐いて、奥歯を噛む。


「わかった。見るよ」

「この魔法石を見て。青から赤に変色した。ダナフォルトが本当に雷帝なら、魔力が見える」

「・・・・・・・」

「112年前の英雄なら、ルシファーだとわかる」

 ヌヌが背伸びをした。


 ダナフォルトが瞳を赤くして、腕を組む。


「師匠様・・・?」

「・・・・ヌヌの言ってることは正しい」


「え・・・」


「・・・・ハーネスが上位魔族ルシファー・・・だ」


 ダナフォルトは、瞬時に、魔力のズレを感じ取った。

 ピアスから放たれる魔力は、新緑の蔦が細く伸びるように、ハーネスが出ていった方角に繋がっていた。

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