13 悪魔曰く・・・
「ねぇ、ベルフェゴール」
「なんでしょう? ダナフォルト様」
「ヒント頂戴」
ダナフォルトが朝食のパンをちぎりながら言う。
ベルフェゴールが冷たいハーブティーにミントを添えていた。
「クイズでしょうか? パズルなら得意ですよ」
「何かわかってるんだろ? アステリア魔法学校のことだって」
「さぁ・・・ダナフォルト様ご自身でお考えください。私はあくまでも執事ですから」
ベルフェゴールがにこにこしながら言う。
「まぁ、そういうと思ったよ」
ダナフォルトが不貞腐れながら伸びをした。
「はい、そろそろ登校のお時間ですよ。今日はダナフォルト様の大好きなキッシュを焼いておきますね」
「はぁ・・・」
頬杖をついて外を眺める。
「ダナフォルト様が私にヒントを求めるなんて珍しいですね」
「そうか?」
「だって、ダナフォルト様ほどの実力があるなら、ご自身で見つけるのも容易いはず。ドルゴールも亡くなりました。『やっぱり独りは寂しい』と思っているのですか?」
「思ってないって。じゃ、学校行ってくるから」
ダナフォルトがハーブティーを飲み干して、立ち上がった。
教科書の入ったカバンを持って、部屋から出ていく。
「まったく・・・素直じゃないですねぇ」
ベルフェゴールが皿を下げながら、ため息をついていた。
アステリア魔法学校の生徒にとって、校長就任式の中止の話題はあまり重要ではないようだった。
相変わらずダナフォルトが悪者であるかのような視線を集めている。
生徒会長であるクラウドの退学嘆願書を無視されたことも、生徒たちの苛立ちに繋がっていた。
アステリア魔法学校全体が魔族が好む空気になっていた。
ダナフォルトは、アステリア魔法学校に複数の隠し魔法陣を張ってから、教室に入っていた。
あくびをしながら肩を回す。
「師匠様! 私を置いていきましたね!?」
「ん?」
ダナフォルトの席に、リハーナが怒りながら近づいてきた。
「置いていくも何も、普通に学校に来ただけで・・・」
「一緒に住んでいるから、一緒に行くのが普通だと思います!」
「いや・・・そんなに大声を出すと、なんか誤解受けるから・・・」
「私はダナフォルト様から学ぶために弟子になりました。常に一緒に行動して、学ばなければ弟子になった意味がありませんから!」
「わかったわかったって」
ダナフォルトがリハーナが何かを話す前に、言葉を遮った。
ざわっ・・・
クラス中がダナフォルトとリハーナを見つめていた。
リハーナを狙っていた数人の男子が、顔を青くしてあからさまにダナフォルトの悪口を言っていた。
生徒会のクラウドとナターシャとペリオが、ダナフォルトの前に立った。
後からヌヌが駆け寄ってくる。
「最近、学校の風紀が乱れていると思ってね。レベルが0しかない君がこの学校にいること自体おかしいんだ。君が学校を辞めれば済む話だと思うんだけど、どうかな?」
「嘆願書は棄却されるし、本当、どうゆうつもりでこの学校にいるのかしら」
ナターシャが苛立ちを込めて言う。
「・・・・・」
ヌヌはぼうっとダナフォルトを見上げていた。
「はぁ・・・・・・」
ダナフォルトがクラウドとナターシャを無視して、頬杖をついた。
「強情な奴だ」
「あんたたち、何様なの?」
リハーナが前に出る。
「生徒会として、生徒の安全を守っているだけよ」
「しつこいわ! 大体レベルレベルって・・・」
「!?」
ダナフォルトが顔を上げる。
キャアアァァァアアアアアア
隣のクラスから悲鳴が上がった。
「なんだ!?」
「な、なに? 今の、な・・・」
クラウドとナターシャが動く前に、ダナフォルトが瞬時に移動していた。
ダナフォルトの通った後に、雷が走るような、黄色い閃光が走る。
「師匠様・・・・・・」
リハーナがダナフォルトを追いかけて教室を出る。
転げるようにして、クラウドたちもついていった。
「ま・・・魔族が!! 今、魔族・・・」
「違う! あれはカナトだった」
「でも、私たちに襲い掛かろうとした。ナミにも」
生徒たちが混乱したまま、教室から動けずにいた。
ダァンッ
ダナフォルトが杖を出す。
暴れだしたカナトの体を壁に押さえつけ、金色のロープのようなもので縛っていた。
腕には『魔族の刻印』があった。
「・・・カナト・・・落ち着いて? 今の・・・何なの?」
ナミだけがゆっくりカナトに近づこうとする。
「近づくな!!」
ダナフォルトが語気を強める。
カナトに手を差し出そうとした女子生徒がびくっとして手を引っ込める。
「ど、どうしたんだい?」
「会長・・・あの・・・朝来たときは普通だったのに、急にカナトの皮膚が赤くなっていって、いきなり襲い掛かろうとして・・・ダナフォルトが現れたんです・・・」
男子生徒が少し震えながら説明する。
「魔族、死、死、死? いや・・・い、や・・・いやあぁぁああああ!!!!」
突然、一人の女子生徒が頭を押さえて教室から飛び出していった。
つられるように緊張感が伝染していく。
「クラウド、教室にいる生徒たちを外へ誘導してくれ」
「俺に指図するな。俺がこの場を・・・」
「・・・頼む。生徒の命を守るんだろ?」
ダナフォルトが瞳を赤くしたまま、クラウドの目を見て話す。
クラウドが鼻を鳴らした。
「・・・みんな、生徒会命令だ。外に出てくれ。ペリオ、この教室の生徒を全員外に、混乱しないように誘導してくれ。ヌヌ、ナターシャ、隣の教室の者も外に出るように回ってほしい」
「わかったわ」
クラウドが言葉を飲み込んで、ダナフォルトの指示に通りにしていた。
「俺はここに残る。生徒会長として、君が何をしようとしているのかを確認しなければいけないからね」
「あ、そ」
ダナフォルトがカナトに杖を向けたまま言う。
「さぁ、ナミも・・・」
「嫌! カナトは私の幼馴染で大切な人なの。ずっと2人で頑張ってきたの!」
ナターシャの手を勢いよく振りほどいて、泣きながら首を振った。
「お願い、カナトのことは私が一番よく知ってるから」
「駄目だ。連れて行ってくれ」
「師匠様・・・」
リハーナがダナフォルトとカナトの間に入る。
クラウドがナターシャにここは任せるようにと、耳打ちしていた。
「元は人間だったって言ってたじゃないですか。何か方法はあるんじゃないですか? 親しい人が呼びかければ目を覚ますとか・・・」
「ない。そこをどけ、リハーナ」
「っ・・・・でも・・・・」
「どけろ!」
ダナフォルトが強い口調で言った。
「ナミ・・・」
「!!」
カナトが魔法に縛られたまま、人のような皮膚に戻る。
牙は無くなっていた。
「戻った・・・の?」
「そうだよ。ごめんね。自分でも自分がわからなくなって。ナミ、見てたよ。ずっと、俺を信じてくれてたんだね」
「お願い、カナトを解放して」
「もう大丈夫だ。俺は俺だよ」
カナトが優しい声で言う。
「師匠様!」
リハーナがダナフォルトを見て訴える。
「ほら、何の攻撃性も感じませんよ」
「違うよ。もう魔族なんだ」
ダナフォルトは、一度魔族になった者は、絶対に元に戻らない魔法だということをわかっていた。
脳は魔族化しているのに、人間だった頃と同じ口調で話す。
いかに残酷な魔法だということも・・・。
「ダナフォルト」
クラウドが杖を出して、自分の頭に向けた。
「彼にかけた魔法を解いてくれ。もし、何かあったら俺が責任を取る」
「会長・・・・」
「・・・・・・・・」
ダナフォルトが無言のまま、杖を回して魔法のロープを解いた。
カナトが両手を広げる。
「ナミ!」
「カナト、よかっ・・・・」
ズズズ・・・
カナトの皮膚の色が赤く変色していった。
「よかった。美味しそうな美味しそうな、君を食べれる。まずは、頭からだ」
角を生やし、口を大きく広げて、よだれを垂らした。
「え・・・・」
ぐああぁぁぁぁぁあああ
ジジッ
ザッ
カナトが魔族になりナミに襲い掛かる寸前、ダナフォルトが杖を金色の剣に変えて、カナトの心臓を貫いた。
左手にはクラウドが自分で頭に突きつけていた杖を握り締めていた。
カナトが魔族の姿のまま灰になって消えていく。
「そんな・・・・・・・」
ナミがその場に座り込んだまま、呆然としていた。
クラウドもリハーナも固まっている。
「ほら、杖、返すよ」
「あ・・あぁ」
ダナフォルトだけが動いているような、奇妙な空間だった。
クラウドが杖を受け取ると、はっと我に返って、ダナフォルトのほうを見た。
「俺、こうゆうやり方が一番嫌いなんだよ」
「・・・・・・」
「あんな責任の取り方、二度とするなよ!」
ダナフォルトがクラウドを睨みつけた。
クラウドが黙って視線を逸らす。
「・・・『魔族の刻印』は古の魔法で文献もない」
剣を消して、静かに話す。
「一度魔族化すると戻れないんだ。奇跡なんか起こらない。本人の中の人間性は死んで、完全に魔族になってしまうんだ。思考も全て魔族だ。112年前から水帝になったエレナもずっと探してたんだ。でも見つからなかった」
ダナフォルトがカナトがポケットに入れていたネックレスを拾った。
「残酷な魔法なんだよ。襲おうとしたのは、カナトじゃない。魔族だ。これ、きっと、君のだろう?」
「あ・・・」
ナミの手のひらにネックレスを載せる。
両手で持って頷くと、ぽろぽろと涙をこぼした。
「か・・・カナト、死ぬとき苦しまなかった?」
「大丈夫だよ。心配しないで」
ダナフォルトが悲しげにほほ笑む。
「悪魔曰く、あの魔法にかかっている間は、現実行動とは違う、人生で一番幸せだったときの夢を見ているらしい。あとは誰かが殺してくれるのを待ってるだけだった」
ダナフォルトが長い瞬きをして、赤くなった瞳を元に戻していった。
リハーナが涙を浮かべて、ナミの背中を摩る。
しばらくすると、静まり返っていた教室に、先生が入ってきた。
クラウドが自分の頭を二度叩いて、深呼吸をしてから、先生に今起こったことを説明していた。




