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レベル0の雷帝  作者: ゆき
アステリア魔法学校

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13/30

12 『魔族の刻印』

-------------------------------------------

― XXX年前


 アクエリア水帝国の街の入り口で、エレナが魔族の少女の傷を治していた。

 魔族の少女は幼げな顔立ちで、見た目は6歳くらいの人間と変わらず、ぼろぼろの服を着ていた。


『大丈夫? 痛いところは無い?』

『うん、お姉ちゃんは旅してるって言ってたよね?』

『そうだよ』


『旅の話、聞きたいなぁ』

 魔族の少女がニコッと笑う。

 

『エレナ、彼女から離れろ!』

『きゃっ・・・』

 ダナフォルトがエレナの手を掴んで、思いっきり引っ張った。


 ダナフォルトは魔力が無い分、魔族の少女の魔力の変化がはっきり見えた。

 エレナのわずかな隙を狙っていた。


『な、何するの!?』


『じゃあね! お姉ちゃん。もう、治ったから大丈夫。ありがとう』

 魔族の少女が、門から出ていった。


『あ・・・まだ完全に治癒が・・・』

 エレナが追いかけようとしたとき、ちょうどガードグとドルゴールが道具屋から戻ってきた。


『もうっ、ダナフォルトってば・・・離して!』

 エレナがダナフォルトの手を振りほどく。


『薬草もそろえたし、しばらく大丈夫そうだ』

『いやー、種族関係なく賑わってたよ。今日は祭りらしいんだ。情報収集もかねて酒場に行こうぜ。酒が飲めないのは、ダナフォルトだけだな。ハハ、ちょっとだけ飲んでみるか? うまいぞ?』


『いいって。ガードグとドルゴール見て、酒飲もうとは思わないって』

 ドルゴールがダナフォルトの肩に手を回す。


『ん? エレナ、どうした?』

『・・・・・』

 ガードグが聞くと、エレナが視線を逸らす。


『この街に魔族が紛れ込んだんだ。エレナが治癒魔法使って、怪我を治したんだよ。禁止行為だ』


『あー・・・なるほど』

 ダナフォルトが言うと、ガードグが全てを察したように頷いた。


『でも、あの子は・・・おそらく元々人間だった子よ』


『そうだよ。『魔族の刻印』だ』

 ダナフォルトが瞳を赤くして、低い声で言う。


『一度魔族になったら魔族なんだよ』


『ねぇ、魔族って本当に全員・・・分かり合えないのかな』

『エレナ・・・』

 ダナフォルトが呆れて、頭を掻いていた。


『だって、元々人間だったんだよ』

 エレナが全員の目を見て訴えるように言う。


『ほら、人間に近い魔族だっているかもしれない・・・って思わない? だって、あの子はまだ小さな小さな少女だったよ? ご両親の話もしてくれて・・・魔族にさせられた』

『あぁ・・・』

 ガードグがエレナを見て頷く。


『それに、さっきだって私に攻撃してこなかったもの。色々話を聞いていたの。今日この街でお祭りがあることとか教えてくれて、私も来るといいよって言ってくれたの・・・』


『エレナ』


 エレナが杖を握り締めて頷く。


『説教はガードグに任せるよ。ドルゴール、右側から回ってくれ。俺は左側から行く』

『了解』


 ダナフォルトとドルゴールが町中に結界を張り巡らせるために走っていた。

 魔族の少女は絶対に戻ってくると確信していた。



 少女が行動に移したのは祭りの夜だった。

 多くの魔族を引き連れて、一気に人間に襲い掛かってきた。


 『どうしてこんなことするの?』と、攻撃の直前、エレナが魔族の少女に問いかけた。



 ― そんなのも、わからないの? —



 魔族の少女は牙を出して、怪我を治したときと同じ満面の笑みで答えた。



 ― ドラゴン族も、妖精族も、人間も、美味しいからに決まってるでしょ ―



 ダナフォルトとドルゴールの連携で、幸い死者を出さずに済んだ。

 でも、怪我人を多く出してしまったため、エレナは自分を責めていた。


 魔族になれば、魔族の考えになる。

 人間性を失ってしまうのだ。


 残酷な魔法だった。


 ダナフォルトたちは『魔族の刻印』のある者が他にいないか調べるのに、数日滞在していた。

 混乱状態になるのを避けて、『魔族の刻印』について、住人に話さなかった。


 アクエリア水帝国と『魔族の刻印』について、詳細を記載した文書は魔族の手によって焼き払われていた。


 112年後の文献には残っていない。


-------------------------------------------


「んー・・・・」

「いかがでしょうか?」


「今のところ、魔族の魔力が入ったような、特有のブレは無いみたいだね。ここに魔族はいないよ」

 ダナフォルトが汗を拭って、瞳を元に戻した。

 長く息を吐いて、校内の木に寄りかかる。


「よかった・・・私の学校はアステリア魔法学校とは違って、まだまだレベルの低い生徒が多いので、本当によかったです・・・」

 ヘカテー魔法学校の校長がほっと胸を撫でおろす。


 リハーナが少し離れたところから、ダナフォルトとヘカテー魔法学校の校長のやり取りを見つめていた。

 

「ラグナディア雷帝国に、まだ魔族がいるとは」

 アルバスが顔をしかめて腕を組む。


「他の魔法学校も行ったけど、何も感じなかったんだよな。やっぱり、違和感があるのはアステリア魔法学校だけだ。正直、かなり巧妙な手口を使ってる。俺の瞳のことを知ってる魔族だろうな」


「ダナフォルト様、アステリア魔法学校で『魔族の刻印』を押された生徒は他にもいるのですか?」

 アルバスがダナフォルトに詰め寄る。


「確証はないけど、いるとは思ってるよ。先生か生徒か・・・わからないけどね」

「なんと!?」


「公にしないでね。これ以上、住人を混乱させたら面倒だからさ」


「あぁ・・・でも、明日は大々的な行事が・・・」

 アルバスが頭を抱えた。


「はい。私ども、他校の校長も出席予定でした。司祭と帝国騎士団長も参加されますよね?」


「そうだ。元帝国騎士団長であり、現在、戦術魔法学を教えているハーネス先生のアステリア魔法学校の校長就任式がある。そのあと、私からこれからの教育について話そうと・・・」


「行事ごとは後回しにしてよ。校長就任式なんか後回しにしてもいいじゃん」

 

 ダナフォルトがアルバスの言葉を遮って、だるそうに言う。


「・・・はい・・・そうですよね、承知しました。昨日徹夜で考えた文書はどこかで共有させていただきます。では、直ちに他の魔法学校の校長、騎士団長に伝えてまいります。失礼します」


「あ、待って」


「!」

 ダナフォルトがアルバスを引き留めて、耳打ちする。


「・・・か、かしこまりました」

「よろしくね」


 サアァ


 アルバスが浮遊魔法を使って、ヘカテー魔法学校の天窓から出ていった。


「どうした? リハーナ」

「申し訳ありません、私の不注意で大事になってしまい」


「いや、早期発見できてよかったんだよ。リハーナは何も悪くないんだから」


「でも・・・・・」


 リハーナが俯いたまま、両手を握り締めていた。

 ヘカテー魔法学校の校長が、髪を耳にかけて、リハーナの傍に歩いていく。


「リハーナ、私は貴女に感謝してるの。もし、ダナフォルト様がここに来てもらえなかったら、前のことが怖くて、びくびくして過ごさなきゃいけなかったの」

 力なく笑う。


「情けないんだけど、私もそこまで戦闘経験ないの。レベルは65あるけど、魔族をたった2体倒しただけ。それで、校長になっちゃったから・・・おかしいよね」


「・・・・・・・」


「ほら、私たちの学校レベルが低い子も多くて、まだまだ魔法を使える子が少なくて・・・以前魔族が襲い掛かってきたときに、ほとんど誰も動けなくてね・・・」

 ヘカテー魔法学校の校長が、リハーナの頭を撫でる。


「たくさんの生徒と先生を亡くしてしまったの。もう、あんなこと絶対に起こってほしくない。起こしちゃいけないから」


「・・・先生」


「リハーナ、ごめんね・・・・ありがとう」


 ヘカテー魔法学校の先生が、リハーナを抱きしめて目を潤ませていた。


 ダナフォルトがヘカテー魔法学校の校舎の、少し欠けた時計台を見つめる。

 握り締めた拳には、爪の跡が食い込んでいた。

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